森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
シロアリはゴキブリ目のキゴキブリ科に近縁で、ゴキブリ目の1科とする意見が有力であるが、ここでは便宜上従来通り独立の等翅目(シロアリ目 (Isoptera))として扱う。全ての種が真社会性であり、多数の個体が集団(コロニー)を維持して生活し、生殖虫(女王、王)、兵蟻(ソルジャー)、職蟻(ワーカー)など形態的・機能的に分化した階級(カースト)が存在する。世界に約3000種が知られている。主に熱帯・亜熱帯に生息し、温帯では種数が少なく、寒冷地にはほとんど分布していない。
シロアリ類には一部に菌類、地衣類、草本、植物遺体などを食べるものもいるが、多くの種が木材(木質組織の主に死んだ部分)を食べる。枯死木や建築材・家具材などを加害するものも多いが、このような種でも生立木を加害することもある。稚幼樹の根を食害して苗畑や植林直後の林地で被害を及ぼすこともあり、農業害虫となっているものもある。コンクリート、鉛管、塩ビ菅、ケーブルなどもかじり、建築物の被害にはこれらの被害も含まれる。従来シロアリ自体にセルロースを分解する能力はないとされてきたが、現在ではシロアリにもセルロース分解酵素(セルラーゼ)を作る能力があることが明らかになっており、共生する原生動物と細菌の働きなども合わせてセルロースの分解・発酵が行われ、シロアリは最終産物の酢酸を栄養にしていると考えられている。シロアリ科の種は共生原生動物を欠くが、ある程度分解の進んだ朽木や落ち葉や腐植土壌(humus)を食べたり共生する真菌類や細菌類を利用したりしている。一方、シロアリは枯死木の分解などを通じて物質循環にも重要な役割を果たしている。
コロニーを創設する生殖虫(第一次生殖虫・創始生殖虫)は初め有翅(羽アリ)で、婚姻飛翔を行い、つがいを形成する。つがいを形成すると翅が脱落し、部屋を作ってこもり、交尾・産卵する。シロアリはアリやハチと異なり繰り返し交尾を行うので女王だけでなく王もコロニー内に同居している。多くの種の兵蟻は大顎が発達し、これを武器としてコロニーを防衛する。また額腺のある兵蟻ではここから防御液を分泌する(図1)。シロアリ科のテングシロアリ亜科(Nasutitermitinae)の兵蟻では大顎が退化し額腺が吻となって前方に突出していてここから防御液を噴射する(図2)。職蟻は餌を集め、蟻道を作り、巣を維持拡張する。レイビシロアリ科の職蟻および他の下等シロアリの老齢ではない職蟻幼虫は生殖虫(第二次生殖虫・副生殖虫)に分化する能力を持っており擬職蟻ともいう。シロアリは極めて長命で、王は数十年、女王は10〜20年生き、後継の副生殖虫も生産するので、巣は長期にわたって存続する。兵蟻と職蟻も数年生きる。
シロアリの営巣場所やその形態は多様で、樹幹や木材中に生息して土壌と関係しない種もある一方、土壌中に営巣するものもあり、掘った土を盛り上げて大きな蟻塚(蟻塔)を形成するものもある。土のトンネル(蟻道)を伸ばして樹上に進出したり、樹幹に土を固めた巣を構築したり、樹幹を食害した後の坑道に土を詰めたり、樹幹表面を土で覆ったりして土を使って樹木に生活圏を築いていくことも多い(図 3・4・5・6・7)。
等翅目は7科に分けられ、生立木を加害する種を含まない(あるいはほとんど含まない)科が3科、含む科が4科ある。
南米のSerritermes 属 1種(他種シロアリの巣内に共生する)とGlossotermes属2種(朽木内に生息する)のみが知られる。
湿った朽木内に生息し、湿材シロアリと呼ばれる。害虫とされることは少ないが、オオシロアリHodotermopsis sjostedti Holmgrenが中国で、Protermes adamsoni (Frogatt)がオーストラリアで樹木を加害したという記録がある。
開放的な環境に生息し、草を刈り取って貯蔵する。牧草・農作物の害虫とされることがある。
大型で翅の形や産卵習性にゴキブリと共通点を持つ原始的なシロアリで、オーストラリア北部・ニューギニアにムカシシロアリ(Mastotermes darwiniensis Froggatt)のみがいる。生息地では珍しい種ではなく、木の根元、切り株、倒木の下、家屋の下等の地中に営巣し、建築物やカリビアマツ(Pinus caribaea)、サイプレス(Cupressus sp.)、アカシア類(Acacia spp.)、アフリカマホガニー(Khaya sp.)、キダチヨウラク(別名:グメリナ)(Gmelina arborea)、ユーカリ類(Eucalyptus spp.)、マンゴー(Mangifera indica)、オレンジ(Citrus sinensis)、カシュー(Anacardium occidentale)、ターミナリア(Terminalia sp.)などの樹木、さらにサトウキビのような農作物にも被害がある。
樹木の幹や木材の中に生息する。コロニーサイズが比較的小さい。乾燥した木材内でも生息できる種が多いため乾材シロアリと呼ばれ、一部の種は家具や家屋の害虫であるが、湿った木材や生立木を食害するものもある。生立木には枯れた枝などから侵入し、心材部を食害することが多い。以下のような種による生立木被害が知られている。
オーストラリアでユーカリ類を加害し、ニュージーランドにも侵入している。
インドでシタン Dalbergia sissoを加害した記録がある。
オーストラリアでユーカリ類、マツ類を加害し、ニュージーランドにも侵入している。
ニュージーランドでラジアータマツ(Pinus radiata)、モントレーイトスギ(Cupressus macrocarpa)、ユーカリ類等の林業樹種を加害し、ニュージーランドクリスマスツリー (Metrocideros excelsa)、エンジュ類(Sophora sp.)など庭園樹を加害した記録もある。
アメリカ(フロリダ等)でエンピツビャクシン(Juniperus virginiana)、ブラックチェリー(Prunus serotina)、セイヨウナシ(Pyrus communis)、ブラックウォルナット(Juglans nigra)、ナラ類(Quercus alba 、Q. nigra、Q. laurifolia、Q. virginiana、Q. stellata)、モクレン科のMagnolia spp.等多くの樹種に加害記録がある。
インドネシア(ジャワ)でチーク(Tectona grandis)を加害し、激害事例が多い。被害部は癌腫状に肥大する。モルッカネム(別名:センゴン、アルビジア、ファルカタ)(Falcataria moluccana (=Paraserianthes falcataria))、マホガニー(Swietenia macrophylla)、パラミツ(別名:ジャックフルーツ)(Artocarpus heterophyllus)、およびマンゴーなどの加害記録もある。
インドでマンゴーその他の樹種を加害。
フィジーでマホガニーを加害。
インドでFicus sp.を加害。
オーストラリアでユーカリ類、ラジアータマツを加害。
スリランカでユーカリ類を加害。
地下に営巣し、蟻塚を作るものもある。そこから蟻道を作って建物に侵入する建築物害虫が多いが、生立木への加害もあり、とくにCoptotermes属の種には多く、心材部を食害して樹幹内を空洞化する。中でも以下の3種は生立木被害が多い。
日本、台湾、中国、ベトナム、フィリピン、スリランカ、グアム、ハワイ、アメリカ、アフリカなどで記録がある。原産地は中国とする説や中国・日本・台湾を含む東アジアとする説があり、アメリカでは建築物・人工林・街路樹・庭園樹の被害に加え、天然林に侵入して在来樹種をかなり加害しているため生態系被害をもたらす侵略的外来種としても問題視されている。スギ(Cryptomeria japonica)、マツ類、イチョウ(Ginkgo biloba)、タイサンボク(Magnolia grandiflora)、ナラ類(Quercus spp.)、カエデ類(Acer spp.)、その他多くの樹種を加害する。
オーストラリアの建築物と樹木の重要害虫で、市街地で家屋・各種庭園樹に被害があり、農地でサトウキビ、造林地ではユーカリ類とラジアータマツに大きな被害が出ている。フィジー、ニュージーランドにも侵入している。
東南アジアのモルッカネム、アカシア・マンギウム(Acacia mangium)、キダチヨウラク、ユーカリ類、メランティ類(Shorea spp.)、カリビアマツ、メルクシマツ(P. merkusii)、チーク、ゴム(Hevea brasiliensis)、コーヒー(Coffea arabica)等を加害する。
このほか生立木への加害が知られている主な種には以下のものがある。
ケニアでナンヨウスギ(Araucaria cunninghami)を加害。
マレーシアのサバ州でカリビアマツおよび天然林の在来樹種を加害。
オーストラリアでユーカリ類を加害。
オーストラリアでユーカリ類(Eucalyptus pituralis等)を加害。ニュージーランドにも侵入している。
ベリーゼ(旧英領ホンジュラス)でカリビアマツ、マホガニーを加害。
西アフリカ、中央アフリカでユーカリ類、アフリカマホガニー(Khaya sp.)を加害。カリブ海小アンチル諸島のフランス領グアドループにも侵入している。
ブラジルでユーカリ類および土着樹種を加害。
高等シロアリと呼ばれる。世界のシロアリの総種数の過半数を占める。生態は多様で、樹上に営巣するもの、地下に営巣するもの、蟻塚を作るもの、他種の蟻塚に住み込むもの、キノコを栽培するキノコシロアリ亜科などを含む。生立木への加害はキノコシロアリ亜科に多い。この亜科は樹皮をかじり取り環状剥皮によって木を枯らすことがよくある。またとくにユーカリ類造林地で稚樹・幼樹の根を加害して枯らすことも多い。キノコシロアリ亜科の主な生立木加害種には以下のものがある。
インドでのユーカリ類稚幼樹、チーク等各種の樹種を加害。
インドでユーカリ類稚幼樹、スリランカ、ベトナムでチャ、ゴムその他の樹種を加害。
インドでユーカリ類稚幼樹、Pinus roxburghii、Shorea robusta、その他多くの樹種を加害。
インドでユーカリ類稚幼樹、スリランカでチャ、ココナツその他の樹種を加害。
ンドでユーカリ類稚幼樹を加害。
インドネシア(ジャワ)・マレーシア(サバ州)で、Eucalyptus alba、Melaleuca leucadendron 等を加害。衰弱木を加害する傾向があるという。
ガーナでユーカリ類を加害。
ガーナでユーカリ類を加害。
キノコシロアリ亜科以外の主な生立木加害種には以下のものがある。
マレーシアのサバ州でモルッカネムの被害が多く、Acacia mangium、Eucalyptus deglupta、キダチヨウラク、マホガニー、ゴム等を加害。
キューバでキダチヨウラクを加害。
インドでユーカリ類稚幼樹を加害。
インドでモクマオウ Casuarina sp.、アカシアの1種(Acacia sp.)、グアバ(Psidium guajava)、ナツメヤシの1種(Phoenix silvestris)を加害。
マレーシアのサバ州でAcacia mangium、マホガニー、Eucalyptus deglupta、キダチヨウラク、モルッカネムなどの造林樹種、および天然林の在来樹種を加害。
インドでユーカリ類稚幼樹を加害。
化学薬剤は植栽時に植え穴に入れて被害を予防したり、地下の巣の根絶を図って被害木の根元周囲に溝を掘って注ぎ入れたりして施用する方法がとられている。過去にはクロルデン・ディルドリン・アルドリン等の残留性の有機塩素系殺虫剤が使用され、効果は高いとされていたが、現在は世界中で使用が禁止されている。代わって有機リン系のクロルピリフォス、ピレスロイド系のシペルメトリン・ビフェントリン、ネオニコチノイド系のイミダクロプリド等が使用されるようになったが、有機リン系農薬は世界的に使用規制が進んでおり、ネオニコチノイド系農薬についても養蜂被害など他生物への影響に懸念が生じているため、今後規制が進む可能性がある。樹上営巣性のシロアリには液体の薬剤の使用は難しいが、ホストキシン(リン化アルミニウム燻蒸剤)の錠剤をNeotermes tectonaeに加害されたチークの癌腫狀部に入れて有効であったという報告がある。ただし、本剤は倉庫・船倉などでネズミや貯蔵物の害虫の駆除を目的に使用するものであり毒性も強く、このような使用法が許容されるか否かは議論の余地がある。
シロアリが個体間で栄養交換を行うことを利用して、ヘクサフルムロン・トリフルムロン等のキチン合成阻害剤を用いたベイト剤が開発されている。地下営巣性のシロアリによる建築物被害に対処する目的で、専用容器に入れて地中に埋めて施用する。植栽した樹木に対してもアメリカの果樹園でReticulitermes sp.に対し有効であったという報告がある。また、シロアリが卵を育室に運び卵表面のグルーミングを行って世話をすること、卵認識物質が存在することに注目し、卵認識物質と遅効性殺虫剤を施した擬似卵を育室に運ばせてコロニーを効率的に駆除する技術が最近提案されている。
昆虫に対し、毒性・忌避効果・摂食阻害効果等があるとされ、民間利用されている植物が多数知られている。ニームオイル・ひまし油などは食葉性害虫に対する忌避剤として製剤化もされている。シロアリに対しては、これらの植物の抽出物や複数の抽出物の混合物を木の根元に塗布したり、灌水時に水に混ぜたりして利用する。ニームあるいはヒマのオイルケーキ(搾りかす)を混合することもある。ニームおよびヒマのオイルケーキをマルチとしてシロアリを排除する試験が行われており、効果があったと報告されている。コーヒーなどのプランテーションではシロアリ防除を目的として木灰を根元に盛る方法も行われている。効果があると言われているが、試験的な検証はされていない。
地下巣を掘るか蟻塚を破壊し、さらに女王を除去する防除法で、実施例もある。女王を除去しても副生殖虫がコロニーを継承して再び巣が回復することもあるが、その場合でもコロニーの規模が大きくなり巣外活動が盛んになるまでにはかなりの時間がかかるので、目的によっては意味のない防除法ではない。女王を除去した後に薬剤を用いることで巣の回復を抑制することも可能であろう。
Dorylus属のアリ(サスライアリ)はシロアリの巣に侵入して徹底的な捕食を行う。哺乳類ではアリクイ類、アルマジロ類、センザンコウ類、ツチブタ、ツチオオカミ(アードウルフ)、ナマケグマ、フクロアリクイがシロアリ(およびアリ)を捕食することに特化している。これらの捕食性天敵をシロアリ防除に利用する方法は検討されていない。
昆虫病原性微生物では、ウイルスについては検討が進んでおらず、真菌・細菌(Bacillus thuringensis)の利用については試験が行われているが、個体単位の接種実験で高い致死率を示す微生物も集団単位で試験すると効果がないという報告がある。真社会性昆虫であるシロアリにはグルーミングや病原微生物に感染した個体の排除により病気の蔓延を防ぐ行動があり、微生物利用による防除を困難にしている。さらに、キノコシロアリ亜科には巣内に栽培対象でない菌類が繁殖するのを妨げる能力があるらしい。しかし、接合菌のConidiobolus coronatusはイエシロアリの100個体の集団内でも高い伝染性を示したという実験結果から生物農薬としての利用可能性を示唆する報告もある。シロアリに対して病原性を有する線虫(Neosteinernema longicurvicauda、Heterorhabditis spp.)の生物農薬としての利用も期待されている。
シロアリの被害は健全木より衰弱木で多いことが経験的に知られている。水・ミネラル・栄養の不足・移植のショック・病虫害など様々なストレスは樹木がシロアリ被害を受けるリスクを高める可能性がある。不健全木が枝や根の部分的な枯死や衰弱部を生じやすいのは事実であり、これらはシロアリの侵入口になりうる。良い施業による樹木の健全性の維持は、それだけでシロアリ被害を防げるものではないが、シロアリ被害の低減を図る上で必要である。
シロアリの摂食対象となる樹種は特定の分類群に限定されていないので、一部の蛾類や甲虫類のように特定の食樹にのみ依存するシロアリはいない。しかし、シロアリの被害を受けやすい樹種と受けにくい樹種があることは経験的に指摘されている。十分な検証は行われていないが、傾向として材が柔らかい樹種は堅い樹種より被害を受けやすく、外来樹種は在来樹種よりも被害を受けやすいと言われている。外来種が被害を受けやすいのは本来の生育地と違う環境に植えられるので、それだけストレスも受けているからだという意見もある。また樹種とシロアリの種の組み合わせによっても抵抗性・感受性の関係は変化する。Eucalyptus marginataは多くのシロアリに抵抗性だが、Nasutitermes extiosusには加害される。Araucaria cunninghamiiはCoptotermesに加害されるが、Nasutitermesには加害されない。Neotermes tectonaeはジャワのチークの重要害虫だが他の樹種はそれほど加害しない。このように一部の樹種にある種のシロアリに対する抵抗性があったり、シロアリによって特定の樹種への選好性があったりするのは事実のようである。忌避物質を含む樹種は広範囲のシロアリに対する抵抗性を備えているかもしれないが、そのほとんどは造林樹種として利用された実績がない。どのシロアリにも全く加害されない造林に適した樹種はおそらく非常に少ない。ニーム(Azadirachta indica)はその可能性があり、衰弱木以外はほとんど被害を受けない。同属のセンタング(Azadirachta excelsa)はマレーシアでよく造林されているが、本種も忌避物質を含んでおり、シロアリ被害の報告例は今のところないと思われる。
切り株や落枝・倒木などの林地残材はシロアリの生殖虫が繁殖を開始する場を提供し、造林木の被害を増加させるという指摘が古くからあり、このため地ごしらえに際して残材を除去すべきだとする意見、さらに火入れも追加すべきだとする意見がある。しかし、実際に調査したところ林地残材の放置がシロアリ被害を増加させるとは認められなかったという報告もある。林地残材の徹底的な搬出はかなりのコストがかかり、火入れに否定的な見方もあることを考えると、この点にあまりこだわる必要はないであろう。