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生物的防除法

害虫の繁殖を抑制する環境抵抗の重要なものに天敵の働きがある。生物的防除法は、この天敵を保護利用して害虫を防除する方法で、環境汚染の問題がなく、人畜無害で天敵自体自己増殖するので効果が持続的であるなどの特徴をもっている。

天敵利用の歴史は古いが、カルフォルニアにおけるオーストラリア原産のべダリアテントウによるイセリアカイガラムシ駆除の大成功を契機に、世界各地において天敵による害虫駆除の試みが相次いで行われた。熱帯地域でアルビジアのキジラミに対しこのテントウムシが用いられているようである。しかし、天敵による防除は万能ではなく失敗例も多い。天敵虫利用には在来種の天敵を保護あるはい増殖放虫する方法と有力な天敵を他から移輸入放虫する方法がある。

天敵の種類

天敵防除に用いられる種類は捕食虫と捕食寄生虫の食虫性昆虫、寄生性線虫、病原微生物が多い。

(ア)捕食虫

捕食虫は独自に餌を探し、生存期間に1頭以上の餌を食べる。コウチュウ目(テントウムシ、ハネカクシ、オサムシなど)、ハチ目(アリなど)、カメムシ目(ハナカメムシ、メクラカメムシなど)、カゲロウ目(クサカゲロウなど)、ハエ目(ヒラタアブなど)が利用されたことがある。一般に各種の昆虫を捕食し、多食性のものが多い。

(イ)捕食寄生虫

幼虫期に昆虫に寄生して生育し、最後には寄主を殺す寄生蜂や寄生蝿などである。ハチ目(ヒメバチ、コバチ、クロバチ、ツチバチなど)ハエ目(ヤドリバエほか)に多い。内部捕食寄生虫と外部捕食寄生虫がある。寄主特異性が強く単食性や寡食性の種類が多い。日本ではマツカレハの蛹寄生蜂のマツケムシクロマユバチが九州で、スギノアカネトラカミキリの寄生蜂のクロアリガタバチが和歌山、秋田で試験が行われたことがある。ルビーロウムシのルビーアカヤドリコバチは各地のミカン栽培地に移出放虫され顕著な効果がえられた。

(ウ)寄生性線虫

共生、半寄生、寄生などの種類がある。生物防除試験として、苗畑でスタイナネマが使用されて注目されている。

(エ)病原微生物

昆虫の伝染性の病気の病原体はウイルス、リケッチア、細菌、マイコプラズマ、糸状菌、原生動物などである。これらの中には、カイコに対して病原性を発揮するものがあるので養蚕地では特に注意する必要がある。

(a)ウイルス病は、ほぼ体全体をおかす核多角体病と中腸皮膜に限られる細胞質多質体病がある。マイマイガとハラアカマイマイの核多角体病ウイルスは有効な大敵である。マツカレハの中腸細胞質多角体病ウイルスには製剤品があり、実用化されている。

(b)細菌ではバチルスの病原性が強い。芽胞細菌(Bacillus thuringiensis)の産生結晶毒素や、これと生芽胞を含んだ製剤が登録許可されている。

(c)糸状菌は死亡した昆虫の体が硬くなるので硬化病とよばれる。黄きょう病菌(Beauveria bassiana)は、マツカレハやコガネムシ幼虫の防除に古くから利用されている。また、マツの穿孔虫の1種のキイロコキクイムシに黄きょう病菌を付着させて放虫し、樹皮下内のマツノマダラカミキリ幼虫に感染死亡させようとする試験が行われ、新しい天敵利用法としてその効果が期待モされている。

参考文献

  • 野淵輝 (1995) 熱帯の森林害虫. 熱帯林造成技術テキストNo.7. 国際緑化推進センター.