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化学的防除法

殺虫剤の種類

(ア)消化中毒剤

害虫の消化管の中に入って中毒させるもので、食餌に付着させて擬食させる。主に唖.幅型あるいは紙食型のチョウ目の幼虫、バッタ目、コウチュウ目などの駆除に使用させる。

(イ)接触殺虫剤

散布された薬剤が体表面をとおり体内に侵入死亡させる。除虫菊剤、ニコチン剤、アルカリ剤、マシン油斉-、1有機塩素剤、有機燐剤、カーバメート剤、合成ピレスロイドなどである。

(ウ)煙蒸剤

薬剤をガス状にして気門から呼吸系に侵入死亡させる。澱蒸に手間がかかるが、駆除効果が高く植物検疫の丸太害虫やマツノマダラカミキリなどの侵入地で完全駆除を目的として臭気メチル、NCS などのビーニル煙蒸が実施されている。

(エ)浸透殺虫剤

樹木の根、葉、樹幹などに薬剤を処理し、樹体内の各所に浸透させて摂食する害虫を殺す。吸収性害虫を対象にした土壌処理剤としてダイシストン粒剤、エカチンTD 剤、アンチオ粒剤などがある。主な作用は中毒であるが、接触毒のこともある。吸収性害虫や穿孔性害虫に有効で、天敵虫を直接殺さない特徴があるが、高木では殺虫成分が上部に十分上がらないことが多く、灘木や幼齢木などの低木に用いられる。

(オ)補助剤

殺虫剤の効果を十分発揮させ、また施用者の安全性を高めるために添加する物質で、乳化剤、担体、展着剤、共力剤などがある。

(カ)誘引剤

昆虫の信号物質のフェロモンや食餌起源の誘引物質などを捕虫器や粘着板と組合せて誘引捕殺する。ディスパルアーはマイマイガの性ホルモンで雄成虫を大漁捕獲できる。松くい虫用に安息香酸、オイゲノール、テレピン油、2 一ビネンを成分とするホドロン、T‐74E、 マダラコールが市販されている。また、コスカシバの性フェロモン(チェリトルア)を野外に設置して、雄の雌に対する定位を妨げ、交尾を阻害する交信攪乱剤がある。

(キ)忌避剤

害虫を目的の餌には近づけないようにする薬剤である。蚊の忌避剤、ヒルのサルチル酸メチルはよく使われている。マツノマダラカミキリに対し、ユーカリオイルの忌避効果があるとされている。

(ク)不妊剤

生殖器の発育や生殖細胞に阻害を起こさせ、卵や精子の生殖能力をなくし、増殖をおさえる。樹木害虫ではまだ研究されていない。

(ケ)脱皮阻害剤

害虫を直に殺すのでなく、発育や生殖を抑制して虫密度を低下させる制虫剤の 1種である。キチン合成阻害剤としてチョウ目幼虫に使われるジフルベンズロンがある。

殺虫剤の剤型

剤型には次のものがある。

  • 液剤:水溶性の殺虫成分を水に溶かせて使用する。
  • 水和荊:水に溶解しない殺虫成分を担体に混合して水中に懸濁させて散布する。
  • 乳剤:水に溶解しない殺虫成分を溶媒に溶かし、乳化剤をくわえ水中に分散させて散布する。
  • 油剤:殺虫成分をケロシンなどの油に溶かして散布する。
  • 粉剤:殺虫成分に増量剤として、タルク、カオリン、ペントナイト、珪藻土、消石灰、石膏などが加えられる。溶剤にくらべ固着性が劣るが、水を必要としない。
  • 粒剤:粉剤より粒子が大きい(297~1,680u)。手まき散粒機を用いる。
  • 燻煙剤:殺虫成分を煙霧状にして流す方法で、微粒子で長く空中に浮遊する。労力が省けるが、効果はいかに巧く煙を流すかにかかっている。そのため早朝やタ方の上昇気流のない無風時に発煙する。
  • 燻蒸剤:気化しやすい液体などを用いて毒ガスを発生させる。テント、容器、室内など密閉されるところや土壌中で実施される。使用にあたってはガス漏れなどの危被害防止に注意する。
  • エアゾル剤:耐圧容器に入れられた蓄圧充填物で、内容物が霧状に噴出する。
  • マイクロカプセル剤:殺虫成分をゼラチンやアラビアゴムなどの高分子膜で被覆した製剤で、放出調飾、揮散分解防止、毒性の軽減などの特徴を具備させている。
  • ペースト剤または塗布剤:農薬を糊状にした製剤で、樹皮に直接塗布する。

殺虫剤の安定性

殺虫剤は害虫の防除を目的としたものであるが、害虫以外に全く無害とはいえない。人間を始めとして温血動物に対する毒性としては、急性毒性、慢性毒性、遺伝的影響が問題になる。経口急性毒性のLD(半数致死薬量)値が30mg/kg(約量/体重)以下のものを毒物、50~300mg/kg 程度のものを劇物、300mg以上のものを普通物としている。また、経皮毒性では、100mg/kg以下を毒物、100~1,000mg/kgを劇物としている。さらに、吸入毒性は吸入1時間の半数致死薬量(LD, l hr)200ppm以下を毒物、200~2,000ppmを劇物としている。

食品中に含まれる残留農薬は各種の実験結果から、一生涯摂取したとしても障害の認められない量に百分の1ないし数百分の1の安全係数を乗じて、1日最大摂取量または1日許容摂取量(ADI)が決められている。これは、人間の体重1kg当たり1 日の薬量mgで表され、日本では平均体重の50kgを乗じたものを人体1日許容摂取量としており、この値の範囲内で残留農薬の最大値が農作物ごとに決められている。

適用対象物に対する薬害は使用濃度の2倍以上の処理で確認されている。

水生動物に対する影響については、原体と製剤についてコイおよびミジンコを用い、それぞれ、処理後48時間の半数致死濃度(TLm)で示されている。毒性ついては、A~Dに区分され、日本では次のような使用の規制が行われている。

A:コイ(体長5 cm前後)に対して、TLmがl0ppm以上、ミジンコに対しては、0 .5 ppm以上で通常の使用法で魚介類に影響がないもの。

B :コイに対し0.5~10ppm以上、もしくはコイl0ppm以上でもミジンコに対して毒性が強く0.5ppm以下のもの、通常の使用法では魚介類への影響は少ないが、一時に広範囲に使用する場合には十分注意する。なお、Bのうち魚毒性B-2は注意が必要である。

C:コイに対し0.5ppm以下のもの。散布薬剤が河川・湖沼・海域および養殖池に飛散または流入するおそれのある場所では使用しない。これら以外の場所でも一時に広範囲に使用しない。散布に使用した器具や容器を洗浄した水、残りの薬液、使用後の薬ビンや空袋は河川などに流さず、地下水が汚染する恐れのない場所を選び土中に埋没するなど安全な方法で処理する。

D:指定農薬(PCP除草剤、ベンゾエビン、デニス)。使用禁止地域では使用しない。また、使用制限の処置をとられている地域での使用条件に従う。

殺虫剤の使用方法

殺虫剤の市販形態は液体、固体、ガス体などである。施用方法は、茎葉散布、土壌施用、樹幹散布で、これらの施用には剤型により、散粉法、散粒法、噴霧法、ミスト法、スプリンクラ法、フォームスプレー法、燻煙法、灌注法、浸漬法、塗抹法、樹幹注入法、バンド法などがとられる。

散布にあたって農薬に添付されているラベルを良く読み、薬剤の性質を知り、使用上の注意を守る。体調の悪いときの使用は避けるが、使用にあたっては、マスク、手袋、保護衣を着用する。薬剤に直接触れたり吸入したりしないように風上から散布し、人家、家畜、魚、ミツバチ、カイコなどへの飛散がないように注意する。防除効果を上げるとともに薬害を避けるため、希釈倍率や使用量を守り、暑い日中の散布はひかえる。希釈は清水を使い、汚水・海水・硬水・アルカリ性のものは避ける。乳剤は、よく振った原液と同量の水を人れてよく撹拌し、所定の水を徐々に加える。水和剤は、所定の粉末に少量の水を加えて糊状にしてから、所定の水を加えてよく撹拌する。

散布後には、農薬の浮遊がおさまり、薬剤が乾くまで不用意に立ち入ったり触ったりしないようにする。使用後の農薬や空容器は、十分に注意して保管または処理する。散布後はシャワーなどで体をよく洗う。

適用薬剤

食葉性害虫に対して、チョウ目幼虫の駆除には、ディプテレックス、スミチオン、バイジット、デナポン、サリチオン、カルホス、エルサン、バダン、及びDDVPなどの乳剤、水和剤、粉剤などが害虫の種類に応じて用いられる。綴った葉、テント、ミノなどの中に生息する種類については、薬が内部に人り難く、効果が落ちるので丹念に散布する必要がある。一般に大きくなった幼虫より若齢幼虫期に散布すると効果が高まる。したがって、早期発見、早期駆除が望まれる。コガネムシ、ハムシなどの食葉性コウチュウ類の防除には、スミチオン、デナポン、ディブテレックス、オルトランなどの粉剤、水和剤、乳剤を散布する。ハバチ類の防除にはデナポン、スミチオン、DDVPなどの粉剤、乳剤、水和斉の散布が実施される。

穿孔性害虫は、木の内部で生活しているので、外部に露出して食害する害虫にくらべて防除が難しい。一般に衰弱水に寄生する穿孔虫の被害回避には、基本的には樹木を衰弱させないように健全に管理すると同時に、穿孔虫密度を低下させるための被害木、被害丸太などの繁殖源の除去、あるいは成虫穿孔時期に松くい虫用駆除剤などを散布する。コウモリガやボクトウガなどの穿孔性ガ類の駆除は殺虫剤を穿入孔かられ注入したり、針金を穿入孔から刺し込んだりして殺す。“しんくいむし”の駆除は成虫発生期に、孵化幼虫をねらいスミチオンなどの殺虫剤を散布する。あるいは被害新梢を剪定焼却し虫密度を低ドさせる。健全な広葉樹につくカミキリムシ類の防除には、被害が小規模であるならばダイアジノン、スミチオン、DDVP 乳剤の濃厚液を穿入孔から注入し、パテや粘上などで栓をして燻蒸したり、産卵期に樹幹にスミチオン乳剤などの濃厚液を散布したりする。また産卵が長期にわたる種類では、サッチュウコートなどを樹幹に塗布すると長期の防除効果がえられる。産卵部位に紙などを巻き物理的に産卵を回避する方法もある。穿孔性害虫全体についていえることであるが、樹木の植栽にあたっては適地適木を念頭におき、樹種を選定し健全に育成する必要がある。成虫を捕殺する方法としては一部の種類についてフェロモンやカイロモンを用いた誘引捕殺剤がある。

吸収性害虫に対しては、グンバイムシ類の防除薬剤は、マラソン、ダイアジノン、DDVP、エルサンなどが適している。アザミウマ目の防除薬剤としてDDVP 、マラソン、スミチオンが用いられるが、発生回数が多いので繰り返し散布する必要がある。アブラムシ用の殺虫剤にエストックス、キルバール、サヒゾンなどがあり、スミチオン、マラソン、DDVP、デナポンなども使用できる。増殖期には数回散布することが必要である。また低木では浸透性殺虫剤のジメトエート、エカチンなどで土壌処理する。カイガラムシ類の防除はコナカイガラムシ類やワラジカイガラムシ類のように自由に動き回る虫ではサリチオン、スミチオン、スプラサイド、ダイアジノンなどで容易に殺虫できるが、すでに定着して堅い介殻を被った虫は、普通の殺虫剤散布では虫体まで浸透しないので効果が低い。機械油乳剤は顕著な効果があるが、薬害を避けるため希釈倍率や散布時期に注意する必要がある。定着前の幼虫は殺虫剤に弱く、スミチオン、ベスタン、DDVP 、カウホウ、デナポンなどで殺虫することができる。カイガラムシ類は通風の良くない所に発生しやすいので、枝葉の勢定により風通しを良くして予防する。

虫えい形成害虫に対しては、虫えい中で虫が生活するので防除は容易でない。成虫の発生産卵時期に薬剤を散布するか、被害部を剪定焼却することになるが、浸透性の高いエストックス、エカチン、オルトランの乳剤を散布するといくらか効果がある。

食根性害虫の防除法はダイアジノン、バイジットなどの粒剤、粉剤を土壌にすき込む。

シロアリの防除は日本ではホキシム、スミチオン、クロルピリホスが使われている。以前は、BHC、DDT、クロルデンが使われ顕著な効果があった。発展途上国でもこれら塩素系殺虫剤の使用を禁止している国も多くなったが、現在かりに使える国であっても環境汚染の意味から日本人は使うべきでない。日本では硼素硼酸系の薬を注入した防虫処理材が市販されている。耐蟻性樹種として、チーク、広葉杉、カヤ、イヌマキなどが知られている。

参考文献

  • 野淵輝 (1995) 熱帯の森林害虫. 熱帯林造成技術テキストNo.7. 国際緑化推進センター.