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マホガニーマダラメイガ属(Hypsipyla)メイガ科(Pyralidae)

マホガニーマダラメイガ属(Hypsipyla)は家具等に用いられる熱帯産高級材樹種のマホガニー類(センダン科のマホガニー属(Swietenia)、アフリカマホガニー属(Khaya)、レッドシダー属(Toona)、スパニッシュシダー(セドロ)属(Cedrela)などの樹種)の新梢穿孔が問題となる汎熱帯性の難防除害虫である。防除についてはこれまで多くの研究が行われてきたが、有効な防除法の確立には至っておらず、多くの地域でマホガニーの造林は不可能となっている。マホガニーマダラメイガ属が分布しないフィジーや発生源となる天然林が少ないジャワでのマホガニ−造林が産業的に成り立っている例もあるが、ペルー、タイ、インドネシアのスマトラやカリマンタン、マレーシアのサバ州などで試みられた人工造林は被害が多発してほとんど失敗している。

分類・分布

マホガニーマダラメイガ属(Hypsipyla)は11種を含むが、マホガニー類の害虫として知られるのは、H. grandella (Zeller)とH.robusta (Moore)の2種である。 H.grandellaはフロリダ、カリブ海島嶼、メキシコ南部以南の中米、南米の低緯度地域、H.robustaはアフリカの低緯度地域、マダガスカル、南アジア、東南アジア、ニューギニア、オーストラリア北東部等に分布する。ただし、広く分布するH.robustaは地域により生態上の違いがあることから複数の種を含む可能性も示唆されている。

形態

成虫(図1)はH. grandella が開長25–45 mm、H. robusta が開張20–30 mmで、H. grandella よりH. robusta がやや小型である点を除けばよく似ている。前翅は灰褐色と黒褐色の複雑な斑紋を持ち後翅は乳白色半透明であるが、アジアのH. robusta には前翅中央に黒い帯を持つ型、前翅全体が黒い型もある(図1C, D)。卵は扁平な楕円形でH. grandella が長径0.9 mm、短径0.5 mm、H. robusta が長径0.7 mm、短径0.4 mm程度で産付直後は白色、翌日までに赤く変わる。幼虫(図2)は淡褐色ないし赤褐色で刺毛の付根が黒く、老熟すると体長約20〜25mmとなり、体色が灰青色に変わる。

図 1 マホガニーマダラメイガの成虫(Hypsipyla grandella: A)、(Hypsipyla robusta (通常の型: B, 黒帯型: C, 黒化型: D))
図 2 マホガニーマダラメイガ(Hypsipyla robusta)の幼虫

加害樹種

2種のマホガニーマダラメイガはともにSwietenia属のS. mahagoni (L.) Jack.、S. macrophylla King、S. humilis Zucc.を激しく加害するが(図3・4)、Swietenia属以外の近縁属樹種に対する選好性は表1に示すように、H. grandellaH. robusta で異なり、H. robusta では地域的にも異なるようである。H. grandellaCedrela odorata L.も激しく加害する一方、Toona ciliate var.australis (F. Muell.) BahadurとKhaya ivorensis A. Chev.は加害しない。アジア・オーストラリアのH. robustaToona 属を加害するが、サバ、タイ、ナイジェリア、ソロモン諸島などではC. odorata への加害はないか軽微である(図5)。またアフリカでH. robusta の被害が甚だしいKhaya 属は、サバではSwietenia 属やToona 属に比べH. robusta の被害が少なく、加害されても樹幹の変形は軽微である(図6)。

なお、センダン科以外の樹種の種子などからマホガニーマダラメイガの幼虫が見つかることが稀にあるが、どの樹種にどの程度の頻度でついているのかは明らかではない。

表1.マホガニーマダラメイガ(Hypsipyla grandellaおよびH. robusta)のSwietenia属、Khaya属、Toona属、Cedrela属の樹種に対する選好性
+は強い選好性、±は弱い選好性、−は全くあるいはほとんど加害しないことを示し、?は情報がないことを示す。
S. macrophylla S. humilis S. mahagonii K. ivorensis T. sureni T. ciliata C. odorata
H. grandella
H. robusta
Thai
Sabah ±
Solomon Islands
Nigeria

生態・被害

成虫は夜間活動する。交尾後メスは主に若い枝、葉芽、葉柄、葉脈沿いに1卵ずつ産卵し、幼虫が新梢に潜ったり若い葉を綴ったりして食害するほか、マホガニーの花芽、花、果実、樹皮の裂け目などにも産卵し、花を綴って摂食したり、種子、樹皮下に穿孔することもある。蛹化は幼虫期の坑道の中で行なわれる場合と外に出て地際や落葉下等で行なわれる場合とがあり、紡錘型の繭をつづる。アフリカのサバンナ地域のH. robustaは乾季に幼虫で休眠するというが、湿潤な地域では産卵から成虫の羽化まで約1ヶ月で通年発生し、雨季に増加する。

マホガニーマダラメイガの被害の最も問題となる点は、幼齢木の主軸新梢に穿孔することにより主軸梢端の分枝を引き起こし、将来の通直な材の収穫を不可能にすることである。被害率も通常の造林地では著しく高く、植えてから1–2年、樹高0.5–1.5 mで被害が発生し始め、樹高4m 程度に達する前に全ての植栽木が加害されてしまうのが通例である。

造林地に発生するマホガニーマダラメイガは周囲の天然林から飛来すると考えられるが、天然林に自生するマホガニー類にはマホガニーマダラメイガの集中的な加害を受けて著しく主幹が分枝・変形したものは見られない。このことから通常マホガニーマダラメイガは天然林内に散在する食樹に低密度で生息していることが示唆される。実際、天然林におけるマホガニーマダメイガの観察例は少ないが、ジャワとボルネオ(サバ)の天然林ではToona sureni (Blume) Merr.からH. robustaの幼虫が発見されている。

ジャワ島ではマホガニーマダラメイガ(H. robusta)が分布しているにも関わらずマホガニー(S. macrophylla)の産業造林が成立っている。その理由はいくつか考えられるが、第一には同島の開発が進んでいてマホガニーマダラメイガが生息する天然林が低標高地に少ないことである(ジャワの造林地は平地や丘陵地に多い)。また、主要造林樹種のチークに比べマホガニーの造林地はかなり少ないので、マホガニー造林地は離散的に配置されている。このため、造林地間のマホガニーマダラメイガの移動が起こりにくく、被害の伝搬が抑えられていると考えられる。造林地にマホガニーマダラメイガが生息していることも多いが、枝下高の高さから推測すれば、最初の被害が発生するまでに時間がかかり、その段階でマホガニーが十分生長しているようである。なおジャワではT. sureniもさらに低い頻度で造林されることがあるが、やはりマホガニー同様実質的な被害はほとんどない。

半島マレーシアのエステートプランテーションでは1990年代に林業樹種導入の関心が高まり、主にチーク(Tectona grandis L. f.)とセンタン(Azadirachta excelsa (Jack) Jacobs)が植えられるようになったが、少ないながらマホガニー類(S. macrophylla およびK. ivorensis)を植えた例もある。これらのプランテ−ションでもマホガニーマダラメイガの被害を受けていないか、被害が発生していても樹高が十分な高さに達した後である等、許容できる程度であることが多い。その理由は半島マレーシアも開発が進んで天然林が減少したことや、マホガニー類を植えたプランテーションが少なくマホガニーマダラメイガの侵入が起こりにくいことなど、ジャワと似た状況が生まれているためであろう。加えて慣行として肥培や除草もよく行なわれるため上長生長が促進される(年間3〜4m)ことも幼樹段階の被害回避に役立っているようである。

図 3 マホガニーマダラメイガ(Hypsipyla robusta)の幼虫が食い入っているマホガニー(Swietenia macrophylla)の新梢
図 4 過去のホガニーマダラメイガの穿孔害により分枝したマホガニー(Swietenia macrophylla)(A)と繰り返し加害されて著しい分枝を起こしたS. mahagoni(B)
図 5 マホガニーマダラメイガの被害を受けていないスパニッシュシダー(Cedrela odorata
図 6 マホガニーマダラメイガの被害が軽微なアフリカマホガニー(Khaya ivorensis)(幹の屈曲部は過去の被害痕)

防除

これまで多くの研究が行われてきたが、決定的な防除法の確立には至っていない。しかし、次善の策や今後開発の余地のある防除法はかなりある。

化学薬剤・生物農薬の利用

大規模造林地での薬剤による防除はコストが大きいため今のところ有効な防除法ではないが、小規模な実験区で薬剤(生物農薬を含む)による防除試験が行われ、効果が確認されている。苗畑や小規模造林地などでの短期集約的な防除であれば薬剤防除も実行可能である。化学合成薬剤のほか、センダン科樹木のニーム(Azadirachta indica A. Juss., 1830)由来のアザディラクティンを利用した忌避剤、細菌(Bacillus thuringiensis Berliner, 1915)を利用したBt剤などで試験が行われ、一定の効果が認められている。

フェロモンの利用

マホガニーマダラメイガ2種のメスは性フェロモンによりオスを誘引するが、フェロモンの成分は明らかにされていて人工的にも合成されている。しかし、フェロモンを利用した防除技術の開発までには至っていない。将来的には造林地における交信撹乱、誘殺、モニタリングなどに合成フェロモンを利用することが考えられる。

樹種選好性の利用

Hypsipyla grandellaH. robustaの両種に激しく加害される Swietenia属には適用できない方法であるが、他の属の樹種であれば表1を参考に現地に生息するマホガニーマダラメイガの選好性を確認し、被害を受けないか被害があっても軽微である樹種を植える方法が適用可能である。ただし、選好性がよく調べられていない樹種やマホガニーマダラメイガの地域個体群もあるので、今後も試験植栽などによって情報を蓄積することが望まれる。

雑草の利用・タウンヤ法

Swietenia humilisの植栽後しばらく除草せずに雑草の繁茂を放置した場合、および植栽列の際のみを除草し列間に雑草を残した場合はよく除草した場合や列間にトウモロコシを植えるタウンヤ法(除草あり、殺虫剤なし)を実施した場合に比べH. grandellaの被害がかなり軽減されるというホンジュラスにおける試験結果が報告されている。その理由として、雑草が真ホガニーマダラメイガの飛来に対し障壁となることが考えられる。あまり長期にわたる雑草木の放置はマホガニーに対する成長阻害やその後の除草・下刈りの負担が大きくなる恐れもあるが、植栽後1年程度の放置は他の方法と組み合わせれば有効な防除法かもしれない。

列状植栽・低密度樹下植栽

マホガニーを二次林内に帯状に切り開いたラインに沿って植える列状植栽(ラインプランティング)では、マホガニーマダラメイガの被害が軽減されることが経験的に知られている。この場合も開放環境に面的に植える場合に比べて周りの植生が障壁となることが考えられ、さらに上層木が日光を遮るため新梢の生産が制限されること、植栽密度が低いこと等も理由に挙げられよう。ある程度下層の植生が発達した天然林で低密度の樹下植栽を行った場合も同じような効果が期待できる。

他樹種造林地内への植栽

マホガニーマダラメイガの生息する天然林の近くの開放的な環境でマホガニー類の造林を行えば、甚大な被害の発生は不可避である。しかし、天然林とマホガニー造林地を遠ざけること、および周囲の植生を物理的障壁として利用することが可能な状況を他樹種の大面積造林地内に求めることはできる。例えばアカシア(主にAcacia mangium Willd.)の大規模造林は熱帯各地に多い。アカシアは葉群が密生するため、アカシア造林地の内部にマホガニーマダラメイガが侵入する上で障壁となり、アカシア造林地内に小面積で植えたマホガニーは被害を免れるであろう。インドネシアの南スマトラ州とマレーシアのサバ州でこのような観点からの防除試験が行われ、好結果が得られている。ただし、二次林や既存のマホガニー林分からの距離が近い場合やマホガニーの植栽面積を広くした場合は、マホガニ−マダラメイガが侵入する確率は高まるであろう。こうした問題は今後の追試験等で定量的に検討されるべきであるが、小規模林分や単木を広大なアカシア造林地内に散在させる等の援用も含め、高級材樹種であるマホガニーを確実に収穫する手法として考慮されてもよいのではないだろうか。

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