森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
湛水馴化処理は、植栽直前に苗木を湛水状態に置くことで、通気組織の形成等を誘導し植栽地の湛水条件に適合した苗木を育成する方法で、東京大学の研究グループが開発した方法である。育苗ポットが浸る深さのプール状の苗床にポット苗を数ヶ月置く(「Melaleuca cajuputiの育苗・植栽法」を参照)。湛水馴化処理により湿地に造林した場合の活着率が増加する樹種があるが、その効果は樹種により異なることがわかっている。
湛水馴化処理は、苗木に根圏低酸素ストレスを与える処理であり、湿地林に自生する樹種であってもストレスになる。ほとんどの湿地生でない樹種は、湛水馴化処理中に弱ってしまい健全な苗木が育たないが、湿地生種の中にも同様の樹種がある。湛水馴化処理による苗木生産ができない樹種に関しては、湿地造林の植栽候補樹種としないのが賢明である。
目的樹種について、まず通常の灌水苗と湛水馴化処理苗を用いて試験造林を行い、活着率を調べることから始める必要がある。湿地生種の中でも、通常灌水苗に比べて湛水馴化処理により活着率が低下する樹種がある。必要な場合は、湛水馴化処理の強度を弱める(湛水深を下げる、処理期間を短くする)などの検討を行い、最適な育苗法を確立する必要がある。
なお、雨期・乾期による水位変動があるため、活着率については1年以上のモニタリングが必要である。また、立地環境の違いや植栽時期の水位環境の違い、気象の年々変動の影響があるため、繰り返し試験造林を行い、再現性を確かめることが望ましい。
東京大学の研究グループがタイ南部の湿地において造林試験を行った結果では、湛水馴化処理により十分な活着率が再現性良く得られた樹種として、カユプテの他に、フトモモ科のSyzygium cinereum、Syzygium oblatum、Syzygium kunstreliがあげられている(データ未発表)。重要なことなので繰り返し指摘するが、立地環境の違いによりこれらの候補樹種でも十分な活着率が得られない可能性があるので、対象とする湿地での試験造林は必須である。
湿地造林、湛水造林は大変難しい。一般的な造林における「良い苗」を作ることがとても重要であり、その上で湛水環境に適応させる工夫をする必要がある。