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火災対策(詳細)

林野火災

近年、自然及び人為的な要因により、大規模な山火事が発生しており、森林が焼失している(写真1)。自然(稲妻)火災や人為による伝統的な火入れは、森林生態系の安定性と多様性の改善に寄与している。しかしながら、近年の土地、森林利用が変化した結果、火災の質も変化しており、しばしば森林生態系の劣化が火災により引き起こされている。さらに、森林やその他の植生の焼失は、地域、地方及び地球規模の環境で異なるレベルで影響を及ぼしている。大規模な森林火災からの煙は、空、陸上及び沿岸海上交通の安全性を低下させ、人間の健康問題にも影響している。森林と居住地域の境界で発生する火災は、人間の生活や財産、その他の価値のあるものを損なう場合がある(ITTO 1997)。さらに、山火事の二次被害として、土壌流亡、地すべり、侵入種の導入及び水質劣化等が報告されている(Mhawej et al 2015)。

温帯及び寒帯地域の大多数の国は、適切な火災管理行動を可能にするシステムを整備している。しかし、熱帯等の一部の国・地域では、高温や乾燥等の自然条件、並びに、指針策定の欠如及び資金調達の不備のために、消防・消火管理に対する体系的なアプローチがまだ不十分である(FAO 2002)。

写真1.山火事の様子(出所)USDAgov

世界的な林野火災と植生の傾向

火災は、地域の気候条件(気温と降水量)、生態的条件及び人為的条件によって発生頻度が異なる。乾季のない熱帯多雨林では火災は少なく、乾季のあるモンスーン地帯、夏に乾燥する北方林、地中海の低木林、少雨気候のサバンナ及び草原において火災の発生頻度が高い(図1)。これら火災が発生しやすい地域は、世界の陸地面積の約40%を占めている。火災は、それらの植生構造を決める要因であり、植物のバイオマスを減少させ、その頻度と重度に応じて、木々を低木や草原に置き換える。したがって、いくつかの可燃性の生態系は、気候によって規定される生理学的限界とは異なっているといえる(Bond et al. 2004)。

図1.1996~2012年間における世界の焼失面積累計 (出所)Moritz et al. 2014

燃焼の3要素

「燃焼」とは、発熱と発光を伴う酸化現象と定義される。燃焼するためには「可燃物」、「酸素(空気)」、「着火(熟)エネルギー」の3つが不可欠で、「燃焼の3要素」と呼ばれる。この3要素が同時に存在してはじめて燃焼が可能となる(図3)(鉱山保安推進協議会 2013)。防火及び消火にあたっては、この3要素をいかにして減少させるかが課題となる。

図2.燃焼(火災)の3要素

林野火災のタイプ

一般的に、林野火災のタイプは、発生場所として、草地及び林地に分けられ、燃焼形態としては、火が地表の草や落葉・落枝を伝わる地表火(図3A)、木の枝葉・樹冠が燃焼する樹冠火(図3B)、木の幹部が燃える樹幹火及び地中火に分類することができる(森林火災対策協会 2011、消防庁及び林野庁 2007)。

  1. 草地火災
  2. 草原などで発生する草地火災は、燃焼形態は地表火で速度が早い(20km/ 時)のが特徴である。

  3. 林地火災
  4. 山岳地帯で発生する林地火災は、焼損形態も多様で、自然条件及び気象条件により、林床可燃物が燃焼する地表火、地表樹幹火、樹冠火と多様である。速度は比較的遅いものの(10~12km/時)火力は非常に強い(5~10 万kW/m)。ただし、風が強い場合、樹冠火の拡大速度は、地表火の2倍に程度に達するという報告もある(Athanasiou 2017)。また、飛び火による新たな火災が発生する危険性も高い。

図3.地表火(A)と樹冠火(B)

警戒・危険度評価

林野火災による被害を減らすためには、火災が発生しやすい状態にある森林を特定して、森林に入る人に注意を呼びかけたり、火の使用を制限したりするなどの対策が必要である。また、火災が発生した場合でも、早期に発見してまだ小さいうちに消火することが重要である(後藤ら 2006)。林野火災の発生危険を判断するための気候的指標としては、実効湿度を単独で用いることがシンプルでかつ精度上も問題ないとされる(消防庁及び林野庁 2003)。林野火災の発生危険度に関するその他の指標として、地形的要素、現場の状況、過去の履歴及び人為的要素が影響する(Mhawej et al 2015)。

早期発見

火災が発生した場合には、早期に発見してまだ小さいうちに消火することが重要である(後藤ら 2006)。目視による山火事の発見は、実績のある火災検知方法であり、全体的な防火システムの要点である。一般的に、目視場所は視界が良い丘陵地などの高い地点に設置される。植林地全体に目視ネットワークを構築することにより、火災を早期発見することができ、消火開始までの時間を短縮し、火災被害を抑え、消火コストを削減することができる(FAO 2002)。

また近年では、衛星画像、監視カメラ、赤外線カメラ、GIS、GPS及びスマートフォン、並びに、ヘリコプターやドローン等を活用することにより、山火事の早期発見システムの開発が進んでいる。

防火

天然林及び植林地における防火対策として、防火帯、可燃物処理及び先行火入れ等が有効である。乾季のある地域において、植林地を火災被害から守るために、防火帯は必須であり、初期段階から計画されるべきである(FA Cambodia and DANIDA 2005)。また、乾季の初めに、植林地に人為的に火入れ(先行火入れ)を行うことにより、草等の地表の可燃物を焼却除去することで、山火事のリスクを低減することができる(Le Van Huong 2007)。

消火

消火は、燃焼の逆の現象で、燃焼の継続に必要な上記の3要素(可燃性物質、空気及び火源)のうち,1つ以上を除去することが消火・防火の基本的考えとなる。燃焼物に水をかけて熱エネルギーを消費させ燃焼を停止させる「冷却消火」,酸素(空気)を絶つ「窒息消火」,破壊などにより可燃物を除去する「破壊消火」などが消火の基本原理である(鉱山保安推進協議会 2013)。

消火には、地上消火及び空中消火等の消火方法がある。地上消火方法として一般的な、火叩き棒やジェット・シューターを用いた消火方法に加えて、伝統的な迎え火(FAO 2002)、並びに、洗剤を活用した消火方法等が開発されている。また、航空消火方法としては、航空機から消火剤及びゲルパック消火剤等を投下する方法等が開発されている。

引用文献