土壌断面の見方

土壌断面に基づく土壌判定

別項「土壌調査の基礎」で述べたように、樹木の生存と生育はいかなる気候下のいかなる樹種にあっても、通気・透水・保水の良否ならびに利用可能な養分の多寡によって支配される。一方で、土壌断面の形態的特徴はこれらの特性と密接にリンクしていることから、土壌断面を観察し、気候・地形・地質など環境因子と併せて考察することで、土壌の基本的な性能や欠陥などの概要を高い確度で推定することができる。以下に、主要な形態的特徴などの持つ意味についてその概要を解説する。

インドネシア南カリマンタン州の土壌断面

断面観察と形態的特徴の意味

土壌断面の層位区分

土壌断面は異なる特徴を持った複数の土壌層位(soil horizon)の積み重なりとして成立しており、その組み合わせならびに厚さや形態的特徴に土壌の特性が反映される。調査に当たっては、可能な範囲で深い土壌調査ピットを掘削して調製した土壌断面につき、形態的特徴の深さ方向への変化に基づき土壌層位区分を行う。区分に用いられる一般的な指標としては「土色」「土性」「硬さ」「植物根の分布」「土壌構造」など現場で用意に判定できる特徴が用いられる。層位区分を行ったら、それぞれの層位の形態的特徴に関する各項目につき、適当な土壌調査方法書に従って記載を行う。記載項目は、土壌層位名とその深さ、土色、斑紋、土性(粘土、シルト、砂の割合で決まる区分)、石礫、土壌構造、硬度、膠結(セメンティング)、圧密(コンパクション)、鉱物ノジュール、根、炭酸塩や塩類、土壌pHなど広範に亘り、いずれも植物根の生育と密接に関係している。下に、これら形態的特徴と土壌特性の関係につき、主要なものにつき解説する。

インドネシア東ヌサテンガラ州の土壌断面

形態的特徴から読み取ること

土層の厚さ

土壌断面は大きく二つの部分で構成され、地表に堆積した落葉枝や動物遺体の腐朽物から成る部分を堆積腐植層(Ao層/O層など)と呼称する。更にAo層は新鮮なL層、やや分解・腐朽の進んだF層、元の組織が判別できないほど腐朽が進んだH層に細区分される。Ao層の厚さや形態は一般に有機物の供給量と分解量のバランスによって決まり、F、H層が厚く堆積すれば乾燥や、低温、加湿など有機物分解を遅延させる要因の存在が示唆される。しかし高温環境にある熱帯地域でAo層が厚く堆積することは少なく、特定の樹種による難分解性リタ―の供給や、過湿条件下で有機物分解阻害に限られる。

もう一つの部分は無機物が主体を成す鉱質土層で、一般に上からA層、(E層)、B層、C層に区分される。最上層のA層は腐植を多く含み生物活性が高く、有機物の分解と養分の解放など物質変換の場であり、植物の養分吸収を掌る細根の多くもA層に分布する。このためA層の厚さは土壌の肥沃度と直結しているといえる。表層の粘土粒子や鉄・アルミニウムが下層へ移動した結果、砂質となったり灰白色となったりした溶脱層が存在する場合があり、これをE層と呼び区別する。A層/E層の下のB層は母材の風化、粘土化作用で形成され一般に黄褐色~赤褐色を呈する腐植に乏しい層である。B層にも相当量の樹木根が分布し物質循環の一翼を担っており、乾燥期における水分の供給にも極めて重要な役割を果たしている。従って、根が分布する深さを有効土層とすれば、A層の厚さと共にB層まで含めた有効土層厚がどれほどあるかに注意する必要がある。B層の下のC層は土壌の母材層で土壌化が進んでいないため一般に採度が低く、粗粒で石礫の含有率が高い。通常C層の植物成長に対する貢献については注目されないが、熱帯域の土壌では一部の樹木根が養分や水分を求め深部のC層まで到達していることも多いことから、可能の範囲でC層の厚さについての情報を取得することが望ましい。

土色

土色を決める最も大きな構成要素は、腐植と鉄鉱物である。腐植暗色味(黒色味)を土壌に与え、鉄の酸化物は赤色味や黄色味を与える。従って排水良好な立地では一般にリタ―(枝葉や細根の遺骸)の供給量が多い表層ほど腐植を多く含み暗色を呈し、徐々に下層へと明るい色調へ変化する。腐植は養分の保持・供給を担うばかりでなく土壌構造の発達促進を通じて通気・透水など物理的性能の向上にも役立つことから、表層土壌が暗色(=腐植に富む)でその厚さが厚いほど良好な土壌であると言える。一方で湿地や季節的湛水などにより土壌が嫌気的な条件に置かれる場合も有機物の分解が遅延し暗色で腐植に富む土壌/土層が生成し、こうした場合は排水不良が植物根の成長阻害をもたらすことから、腐植量だけに囚われることなく総合的な判定に留意する必要がある。

鉄鉱物は一方で土壌に赤褐色味や黄褐色味を与え、酸化鉄が多いほどその色は強く発現する。土壌中の鉄鉱物の量は土壌母材(土壌の元となった岩石や堆積物)に含まれていた鉄の含量に規定され、一般に易風化鉱物を多く含む母材で多く、石英など難風化鉱物が多い材料で少ない傾向を示す。このため、淡色の土壌は一般に砂質で石英砂など難風化鉱物を多く含み養分や水分の保持・供給力が低いことが多い一方、赤色/黄色味の強い土壌は粘土をより多く含み養水分の保持機能も相対的に高い例が多い。また同じ鉄含量であっても、土壌の風化の程度や様式によって色調は変化し、風化の進んだ土壌ほど赤色味・黄色味が強くなる。長い風化履歴持つ熱帯アフリカや熱帯アメリカ、同じく高温多雨環境下にある熱帯アジアに分布する台地土壌が一般に赤色/黄色味の強い色調を示すのはこのためである。風化はカリウム、カルシウム、マグネシウム等ミネラルの流亡と鉄やアルミウム、重金属の残留濃縮のプロセスであるため、こうした熱帯域に分布する強風化の赤色/黄色の土壌は一般にミネラルに乏しく貧栄養であることを認識しておくことが必要である。

土壌が還元的な環境に置かれると、土壌中の3価の鉄が2価の鉄に還元されるグライ化作用が進行し、土色は灰色~淡青色を呈するグライ層が形成される。還元的な土壌環境は凹地や低地など地下水が停滞するような条件下で微生物が有機物を分解する過程土壌水中の酸素が消費されることで形成される。一般には下層の地下水位面近傍にグライ層が形成されるが、排水不良の土壌では表層近くに灰色味がかった土層が形成されることもある。いずれにしろ、土壌断面に灰色~灰青色もしくは灰色味を示す土層が観察されれば、排水不良を強く疑う必要がある。(「斑紋」の項も参照)

斑紋

しばしば土壌断面に灰色~灰青色と赤~赤褐色の組み合わせからなる斑文様が観察される。これを斑紋と呼び、土壌の酸化還元環境を知るための重要な指標となる。灰色~灰青色は上記の用に排水不良に起因する還元状態で生成した2価鉄に起因するが(「土色」の項を参照)、水に溶けやすい2価鉄の一部は根や土壌孔隙周辺など酸化的環境下に移動しその場で酸化されて赤褐色3価の鉄となって沈殿する。一般に地下水位面の近くで形成されることが多いが、排水の劣る土壌では表層近くに斑紋が観察されることも稀ではない。このような斑紋が観察されればその部分の排水不良を意味し、下層に一定の厚さで層を成して斑紋が観察される場合は、その深さの範囲内で地下水位が季節的に変動することを示している。

土性・石礫

土壌は大小様々な粒子によって構成され、一般に砂(<2mm、≧0.02mm)、シルト(<0.02mm、≧0.002mm)、粘土(<0.002mm)に区分され、細土(土壌の2mm以下の画分)に占めるこれらの割合に基づいた区分を土性という。土性は通気透水性、養水分の保持など土壌の物理的、化学的性質と密接に関係しており、一般に粘土量が多く埴質な土壌ほど養水分保持力は高いが通気透水が不良となり、砂質なほど貧栄養で保水力が小さく排水過剰で乾燥しやすい。ただし、通気透水性は土壌構造が大きく影響するので、その判断は両者の観察に基づいて行う。土性は訓練すれば指感によってかなり正確な判定が可能で、現場で得られる重要な情報の1つである。訓練が不十分でも砂質か粘土質かその中庸か程度の情報でも記録しておくことが推奨される。

また、礫の多少も土壌の理科学性を決定する重要因子であり、礫質で細土画分の極めて少ない土壌は極めて貧栄養で乾燥しやすいが、細土に適量の礫が混じる場合は却って通気透水に有利な環境となる。また礫の形状も土壌物理性に関係し、一般に角/亜角礫は土壌中の空隙形成に貢献するが、円礫はその効果が相対的に小さい。

土壌構造

砂や粘土などの粒子が互いに集合して形成された団粒や土塊の単位を土壌構造と呼ぶ。その形態は土壌環境、特に土性や水分環境、有機物量、土壌生物活性などと関連し、土壌の物理性を大きく支配する。FAOのガイドラインでは土壌構造の種類を「粒状」「亜角/角塊状」「堅果状」「かべ状」「角柱状」「板状」などに区分している。土壌構造は一般に砂質な土壌では発達が弱いが、粒状構造は乾きやすさ、堅果状は乾湿の繰り返し、塊状は乾湿の偏りの無さ、下層土のかべ状は常時湿潤のそれぞれ反映である。これらの土壌構造はそれぞれ通気透水、保水に密接に関連し、例えば粘土質の土壌でも亜角/角塊状が発達すれば構造と構造の間の隙間を通じた通気透水が確保される。

堅密度・(こう)(けつ)(硬盤)

土層の硬さや緻密さのことで、根の発達の難易や通気透水と関連が深い。土壌断面を指で押してその凹みから判定可能であるが、コンパクトで使用が簡単な山中式硬度計等の器具も使い数値で示すこともできる。一般に堅密度が高いほど通気透水は劣り根の伸長も阻害される。これまでの我が国での研究によれば、根の発達は一般に山中式硬度計の硬度15mm前後で阻害され始め、20-25cmでほぼ完全に阻害されるとされる。ただし、乾期を伴う気候下では乾期には堅密度が著しく高く雨季には低いなどの季節変化もあるため、一時期のみの堅密度では判断が困難なため、樹木の生育期間における堅密度を調べる事が望ましい。

膠結とは膠結物質が極めて密に詰まった状態でセメンテーション(cementation)とも言う。主に盤層で観察され、膠結物質としては酸化鉄/酸化マンガン(三二酸化物)、炭酸塩、ケイ素、石膏などが代表的で、無構造から板状、豆石状(ピソリス)、ノジュール状など様々な形態で出現する。膠結した盤層は鶴嘴や鉄のバールでしか掘削できない程硬く、多くの植物の根はこれを貫通することが困難であり、盤層までの深さが実質的な有効土層となることから、浅い深度に膠結層が出現すれば植物の生存・成長は著しく制限されることになる。

根の形状や分布は土壌環境の良否や特徴を判定する重要な項目である。主に土壌断目に表層から断面上~中部にかけて選択的に分布する細根が深くまで発達していれば有効な土壌層が厚いことを意味するし、逆に表層のみにしか細根が分布しない場合は次表層以下に何らかの生育阻害要因が存在することを疑う。根の発達阻害には一般に有効水の不足、乾燥、過湿、堅密土層、硬盤、強酸性、強アルカリ性等の存在が関係するが、根以外の形態的特徴に関する観察結果と組み合わせることでいずれの要因が関係しているか特定することができる。

参考文献

  1. 森林立地調査法―森の環境を測る(改訂版)2010、森林立地調査法編集委員会編、博友社
  2. FAO/UNESCO Soil Map of the World,1974,UNESCO 
    http://www.fao.org/soils-portal/soil-survey/soil-maps-and-databases/faounesco-soil-map-of-the-world/en/
  3. Guidelines for soil description