土壌調査の基礎

土壌調査の基本的視点

樹木は土壌から水分と養分を吸収し、その生存・生育を支えている。土壌の養水分供給力は土壌の物理的、化学的、生物的要因によって規定され、それらはその場の気候、地質、地形の下で植生や人為との相互作用を通じて獲得したもので、土壌によって大きく変異する。一方で、樹木の生存と良好な生育を保障する基本的な土壌条件は普遍的であり、良好な通気・透水、保水ならびに利用可能な養分の有無が土壌判定の基本となる。このことから、土壌調査においても、対象土壌がこれら条件を満たしているか?あるいはこれら条件を阻害する要因は存在しないか?という視点から行うことになる。

土壌調査

土壌調査の実際

予備情報の収集

現地での調査に先立ち、予め対象国、対象地域の土壌分布についての情報を収集することが不可欠である。近年では多くの国が独自の土壌図を作成しており入手可能であるし、仮に国別土壌図が存在しない場合でもFAO/UNESCOの世界土壌図を参照するなどし、対象地域に主に分布する土壌とその特性について予備的に理解しておくことが肝要である。ただし国レベルや世界レベルの土壌図は代表的な土壌タイプの分布の概要を示したもので、小面積で出現するその他の土壌タイプについて詳細・正確な情報を提供するものではない。このため対象地に実際に分布する土壌タイプの判定・評価は上記情報を参考にしつつ現地調査に基づき独自に行う必要がある。同様に地質図、地形図、植生図、降水・気温分布図、過去の人為影響など、土壌の形成や樹木の生育に影響を与える要因に関する情報も併せて収集し、現地調査へ赴く前に現地の環境を予めイメージしておくことが重要である。

土壌調査計画の立案

植林や森林再生対象地にはそのスケールの大小に関わらず、異なるタイプの土壌が出現することを想定して調査計画を作成する。数少ない調査地点で対象地全域を代表させると、誤った評価に繋がる危険性があることを忘れてはならない。従って時間・労力の許す範囲でできるだけ多くの地点で調査を行うことが望ましいが、調査地点の選定については機械的に配置する方法と、土壌の生成・特徴が地質、地形、植生などによって規定されることを利用し、これら要因を異にする地点を抽出して調査地点を配置する―例えば異なる地質地帯の中で異なる地形要素毎に調査地点を配置する―方法がある。一般に後者の方が、少ない労力で有用な情報を得ることが可能である。

土壌断面の調製と観察・記載

土壌判定は一般に、土壌断面を作成し観察・記載した形態的特徴に基づき行う。土壌断面の作製に先立ち、GPS等を用い調査地点の緯度経度を記録すると共に、その地域の気象環境、地質、母材(土壌の材料)、地形、堆積様式、植生、排水状態などを記録する。

土壌断面の大きさは少なくとも観察者が土壌ピットの中に入り断面観察ができるサイズが望ましく、深さは基岩風化層直上までが理想的であるが多大な労力を要するため、実際には1m前後、最深でも2m程度とすることが多い。また限られた時間・労力で多点の調査を行う必要がある場合は掘削深度を30cm~50cmと浅くし省力するケースもあるが、そうした調査では下層に存在する可能性のある基岩、硬盤、不透水層、地下水位面などの阻害要因を見逃し有効な土壌深度に関する情報を得られないため、このような場合は土壌断面調査に替えて、もしくは加えて1.5m~2.0m程度の深さまでソイルオーガー用い異なる深度の土壌を採集して観察・記載し有効土壌深度をも併せて推定することが望ましい。

対象地域の地点番号、日時等必要情報を記載したカードならびにスケールを添えて断面写真を撮影し、引き続いて層位区分を行い断面の形態的特徴をスケッチする。その後、適当な方法書に従って土壌の形態的特徴に関する各項目につき層位毎に記載を行う。記載項目は、土壌層位名とその深さ、土色、斑紋、土性(粘土、シルト、砂の割合で決まる区分)、石礫、土壌構造、硬度、膠結(セメンティング)、圧密(コンパクション)、鉱物ノジュール、根、炭酸塩や塩類、土壌pHなど広範に亘り、いずれも植物根の生育と密接に関係している。従って、これら特徴に関する情報を集め解析することによって、樹木の生育基盤としての土壌の良非を判定することが可能となる。

土壌断面調査

土壌試料の採取と現場でのpH、EC測定

土壌試料について理科学的分析を行い具体的分析データに基づき土壌判定を行う場合は、土壌断面を調整し層位区分を行った時点で、各層位から均等に土壌試料を採取する。採集量は各層位で500g程度を目途とする。ほぼ全ての分析項目は実験室での分析が必要となる。ただし、土壌pHやEC(電気伝導度:塩類集積の指標となる)は調査地においてポータブル測定器を用い比較的簡便に測定可能で、得られる情報は土壌判定にとって極めて有用である。pH、EC測定には、予め蒸留水もしくは脱イオン水を用意しておくか、蒸車用バッテリー補充液(蒸留水)、場合によっては清浄な雨水を流用することも可能である。

土壌pHの測定

参考文献

  1. 森林立地調査法―森の環境を測る(改訂版)2010、森林立地調査法編集委員会編、博友社
  2. FAO/UNESCO Soil Map of the World,1974,UNESCO http://www.fao.org/soils-portal/soil-survey/soil-maps-and-databases/faounesco-soil-map-of-the-world/en/
  3. Guidelines for soil description