森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
東南アジアでマメ科樹種を加害する樹幹穿孔性カミキリムシとしてマレーアオスジカミキリとアオスジカミキリの2種があり、互いに似ているが大きさと生態に若干の違いがある。特に前者が大きな被害をもたらす。
中型のカミキリムシ。成虫は鞘翅長20〜25 mm、で、橙褐色の地色、前胸背と鞘翅外縁に金属光沢のある青緑色の帯を持つ。オスは触覚が長く翅端を大きく超えるが、メスは触覚が短く翅端をわずかに超える程度(図1)。幼虫はいわゆる鉄砲虫で黄白色柔軟であるが、前胸に半ば埋もれた頭部のみ硬く黒褐色で鋭い大顎を持つ。本種の命名者は古いオランダの文献で誤ってPascoeとされたため、インドネシアではこれに倣ってPascoeを命名者とする誤りが多い。
東南アジアの大陸部・ボルネオ・ジャワ・スマトラ・中国南部
モルッカネム(別名:センゴン、アルビジア、ファルカタ) (Falcataria moluccana (Miq.) Barneby & J.W.Grimes (=Paraserianthes falcataria (L.) Nielsen))、ネムノキ類(Albizia spp.)、アカシア類(Acacia spp.)、ジェンコール(別名:ジリン) (Archidendron jiringa (Jack) Nielsen)、プテイ(別名:ネジレフサマメ) (Parkia speciosa Hassk.)、タマリンド(Pithecellobium dulce (Roxb.) Benth.)、レインツリー(別名:カユウジャン) (Samanea saman (Jack.) Merr.)、エレファントイヤーツリー(Enterolobium cyclocarpum (Jack.) Griseb.)、カリアンドラ(別名:ベニゴウカン)類 (Calliandra spp.)など、マメ科ミモザ亜科(Mimosoideae)を加害する。他の亜科のマメ科樹種を加害したという確実な記録はない。
メスは樹皮の裂け目や枝の折れ口などから産卵管を差し込み、樹皮下に卵塊で産卵する。1卵塊当たりの卵数はメスの体サイズに依存するが数十から200以上に及び、蔵卵数のほとんどを1回または2回で産み切ってしまうため、卵塊あたりの卵数は多い。1箇月ほどで孵化した幼虫は主幹の樹皮下を根元に向かって集団で体を寄せ合って食い進み、個体ごとの独立した坑道は持たない(図2)。幼虫の成長とともに下向きに末広がりに被害部(共同坑道)が伸びて行き、その長さは4〜6 mに達し、幅も下端では20〜60 cmになる。被害部はところどころ樹皮が食い破られてフラス(木屑状の糞)が排出され、樹液がにじんでいる(図3)。全幼虫期を通じて集団で摂食する習性はカミキリムシ科では本種以外に知られていない。老熟幼虫は個体ごとに材内に穿孔し(図4)、上向きに食い進んでから石灰質の殻で閉じた蛹室を作り、頭を下にして蛹化する。2〜3週間の蛹期間を経て羽化した成虫は1週間ほど蛹室にとどまって体の硬化を待ち、材外へ脱出する。産卵から成虫脱出まで4〜8ヶ月を要する。
多数の幼虫が集団で加害するため被害樹は損傷が大きく、成虫が脱出した後には枯れた樹皮の剥落や古い被害部では周囲の組織の巻き込みが起こるが、小径木ではしばしば木全体が枯死する。枯れないまでも用材目的であればほぼ商品価値を失う。また、蛹化時に多数の幼虫が穿孔するため風によって幹が折れることも多い。1世代の完了に4〜8箇月かかるので増殖は緩やかである。移動能力もさほど高くないが、林齢の異なる林分が隣接している造林地では、若い林分に近くの高齢林分から成虫が移動して来て産卵するため繰り返し被害が発生する。被害多発地では植栽後2年目から被害が発生するが、植栽後3年目までの若齢林分では被害は少ない。その後は急増しモルッカネムのように7〜8年で収穫伐となる早生樹でも被害率が20〜40%になることが珍しくなく、ときに90%に達することもある。
幼虫が樹皮下に生息するため薬剤の散布は効果が十分ではない。被害木はよく目立ち容易に識別できるので、放置せず成虫が羽化脱出する前に伐倒除去するか、低い位置であれば被害部を剥皮して幼虫を落下させる方が容易で確実な防除法である。間伐に際しても被害木は選択的に伐倒除去すべきである。伐倒後は丸太のまま放置すると成虫が羽化脱出するので、破砕焼却するのが良い。燃料木として利用しても良いがこの場合も長期間貯蔵すると成虫が羽化脱出するので速やかに使用すべきである。被害が少ないうちから、成虫脱出前の被害木を除去すれば次世代の増殖と拡散を抑え、最終的な被害は相当抑制できる。産卵が樹皮の破れた箇所に行われるため、鉈傷や枝折れを作らないように注意することも重要である。東ジャワではモルッカネムの枝を家畜飼料および燃料とするため農民が切り取ることが常習化している地域があるが、マレーアオスジカミキリはその切り跡に産卵することが多い。
卵寄生蜂のトビコバチ科の1種 (Anogyrus sp.)をモルッカネム造林地に大量に放したところ、高い寄生率が確認できたという報告もあるが、今のところこの寄生蜂の生物農薬的利用は実用化していない。また、サバのモルッカネムの大規模造林地では天然林に近い一角から、南スマトラの大規模造林地では、村落に近い一角から被害が広がったことが知られており、これは天然林のネムノキ属野生種や村落で豆を食用にするため植えているジェンコールやプテイに生息していたものが造林地に侵入して増殖したものと推測される。モルッカネムやアカシア類の造林を行う場合は天然林や村落に接する林分には別の樹種を植えるなどの発生源から隔離する配慮も予防効果があるであろう。
前種同様橙褐色の地色で、前胸背と鞘翅に青緑色部を持つが、鞘翅では中央と縁に沿って青緑色の細い2本の条線がある点で全種と区別できる(図5)。日本など東アジア産の個体は鞘翅長10〜22 mmでかなり大きいものがあるが、熱帯地域の本種はかなり小型で、ジャワ・スマトラ産では成虫は鞘翅長10〜15 mmのものがほとんどである。オスは触覚が長く翅端を大きく超えるが、メスは触覚が短く翅端に届く程度。幼虫は前種とほぼ同じ形態であるが、黄色味が乏しく乳白色で尾端近くの体節が拡大するので区別できる。
前種同様マメ科ミモザ亜科のモルッカネム、ネムノキ属、アカシア属、プテイ等を加害する。ピンカドー(Xylia dolabriformis Benth.)を加害した記録もある。
日本・台湾・中国本土・アジアの熱帯・亜熱帯・オーストラリア・セイシェル・モーリシャス・マダガスカル・エジプト・ハワイ・プエルトリコ。分布が非常に広いが、これは人為的(非意図的)な拡散にもよっており、少なくともハワイとプエルトリコは自然分布ではない。
樹皮下に卵塊で産卵する点は前種と同様だが、メスは複数の卵塊を繰り返し産み、1卵塊当たりの卵数は数個〜数十個で、前種のように大卵塊で一括して産むことはない。また孵化した幼虫はまず集団で卵塊周囲の樹皮下を喰い広げるが、すぐに個体ごとにさまざまな方向に独立した坑道を形成しながら喰い進むようになる点で前種と食害様式が異なる(図6)。蛹化は前種同様材内に穿孔し石灰質の殻で閉じた蛹室を作っておこなう。蛹期間は約10日、羽化した成虫は1週間ほど蛹室にとどまって体の硬化を待ってから材外へ脱出する。産卵から成虫脱出まで3〜5ヶ月を要する。多数の幼虫が加害するため損傷は無視できないが、前種に比べれば1本の木に発生する幼虫の個体数は少なく、また熱帯地域では小型であるため損傷範囲も小さい。造林地での生息密度も前種ほど高くならない。なお、本種は国内の昆虫図鑑等では枯れ木につくカミキリムシとされていることがあるがこれは誤りで、本種も前種同様生立木(健全木)を加害する。日本ではネムノキが唯一の食樹で小径木が多いため、成虫が発生する頃には被害木が食害により枯死していることが多いことによる誤解である。
前種に準ずる。