森づくり×カーボンクレジット・フォーラムは、
植林プロジェクトや炭素クレジットの創出を通じて、
気候変動対策やカーボンニュートラルの達成に貢献します。

炭素クレジット植林の仕組みについて知る④

前節③では、ボランタリー炭素クレジットの原則や主要な認証プログラムについて紹介しました。実際に植林プロジェクトで炭素クレジットを創出する際には、認証スキームごとに適用条件や認証要件が異なります。本ページでは、主要なボランタリー炭素クレジットプログラム(Gold StandardPlan VivoVCS)と国際制度(JCMおよびPACM)について、基本要件や植林活動に関する認証条件を比較します。


認証スキームによって「誰がプロジェクトを実施できるか」「どのような方法論が利用できるか」「クレジットを誰が利用できるか」が異なります。

特に、ボランタリー市場は柔軟性が高く、多様な主体が参加できることが特徴です。一方で、国際制度であるJCMは日本との協力事業、PACMはパリ協定第6条に基づく国際制度として運営されます。

各認証スキームの基本要件は以下の通りです。

表4-1 ボランタリー炭素クレジットプログラムとJCM及びPACMの基本要件等

 ボランタリーJCMPACM
実施者の要件・プロジェクト実施者の国籍要件はなく、企業・NGO・自治体等多様な主体が参加可能・プロジェクト参加者に日本側の技術・資金等の貢献が必要
・日本側参加者とホスト国側参加者の共同プロジェクトとして実施
・国籍要件なし。国家主体・非国家主体いずれも参加可能
・ただし、登録・クレジット発行にはホスト国の承認(第6条4項の下の承認手続)が必須
適用可能な方法論・各認証プログラムが承認した方法論を使用 ・事務局や専門家が開発した既存方法論を利用するほか、条件を満たせば新規方法論の提案・承認も可能・林野庁等が定めるガイドラインに基づき、プロジェクト参加者が各国の状況に応じた方法論を作成
・方法論はホスト国ごとの合同委員会(JC)が審査・承認
・ガイドラインはパリ協定6条ルールに整合するよう改訂され、REDD+に加えARRも対象
・第6条4項監督機関(SBM)と方法論専門家パネル(MEP)が策定・承認した、国際的に統一された6条4項専用方法論を使用 ・プロジェクトは原則として第6条4項メカニズム専用の標準化された方法論に従う
クレジットの分配・プロジェクト参加者間の契約に基づきクレジット配分を決定
・配分ルールはプログラムではなく当事者間の合意に委ねられる
・日本側参加者とホスト国側参加者の貢献度(資金・技術等)に応じてクレジットを配分
・配分はプロジェクト参加者間の合意に基づく
・プロジェクト参加者間の取り決めによりクレジット配分を決定
・加えて、制度上「Share of Proceeds (SoP)」として、一部クレジットが適応基金への拠出及び運営費用として控除される
クレジットの利用範囲・企業の自発的な排出削減・ネットゼロ目標の達成に利用可能
・GSやVCS等の一部クレジットは、相当調整付きでCORSIA等の国際制度に利用される場合もある
・相当調整を行った上で、国際的に移転される緩和成果(ITMOs)として日本のNDCや企業のオフセットに利用可能
・日本の排出量取引制度(GX-ETS第2フェーズ)で利用可能(自社排出量の一定割合まで)
・各国のNDC達成に利用されるほか、企業等の非国家主体もクレジットを取得・移転し、自主的なネットゼロ目標等に利用可能
・CORSIA等の国際制度での利用も想定されており、将来的な需要が見込まれる
クレジットの品質・追加性・MRV・永続性等に関する要件はプログラムごとに設定。
・一部プログラムでは、SDGsやコベネフィットを評価する追加認証(例:CCBS、SD VISta)により品質をさらに向上可能
・REDD+・ARRについて「セーフガードガイドライン」により環境十全性・社会配慮を確保
・永続性担保(バッファリザーブ等)や第三者確認によりクレジット品質を担保
・UNFCCC監督下で、透明性・完全性・追加性・リーケージ・恒久性等に関する国際基準が厳格に適用
・方法論では保守的な算定(下方調整)や財務追加性の証明が求められ、市場全体の環境十全性確保が重視
クレジットの取得費用・取引価格・登録・検証等のコストは比較的高いが、国際的な需要が大きく、品質の高いクレジットは高値で取引される傾向
・CORSIA適格や高品質ラベル付きクレジットはプレミアム価格となる場合が多い
・GX-ETSで排出削減義務を負う日本企業からの需要が見込まれ、一定の価格水準が期待される
・現時点では植林由来クレジットが他タイプと明確に価格差別化されているわけではない
・PACMは運用開始前で市場が未形成のため、具体的な価格レンジは未確定
・ただし、UNFCCC監督下の高品質クレジットとして一定の価格プレミアムが期待される可能性がある

各認証スキームの主な違いは以下の通りです。


植林プロジェクトでは、どの土地に植林できるかだけでなく、どの樹種を利用できるかも認証要件として定められています。認証スキームごとに考え方は異なります。

表4-2 ボランタリークレジットとJCM及びPACMの植林適格地と植栽樹種の要件

認証プログラム等植林地の要件植栽樹種の要件
Gold standard・過去10年間に森林でなかった土地が対象 ・対象地の一部(10%以上)で生物多様性向上のための管理を実施・在来種を推奨
・外来種は侵略性がないことを証明できる場合のみ許容
Plan Vivo・森林・非森林いずれも対象 ・土地利用権・所有権がコミュニティに明確に帰属していることが必須・在来種を基本とし、環境リスクがない場合に限り非在来種も可
VCS・森林・非森林いずれも対象となるが、土地区分に応じて方法論アプローチが異なる
・非森林地から森林地へ土地利用が変化する植林の場合は「Area-based approach」を適用
・非森林地での植林(小規模農地におけるアグロフォレストリー等)は「Census-based approach」を適用
・外来種も利用可能だが、侵略性がないことを科学的に示す必要がある
JCM・非森林地のみ対象
・植林時点から遡って10年間伐採が行われていない土地
・森林への土地利用変化を伴う植林(ARR)のみ対象
・ホスト国の生物多様性戦略・国家政策に適合する樹種であること
PACM・追加性・ベースライン要件を満たす土地のみ対象
・法律・政策・商業的インセンティブにより植林が「既に起こる土地」は対象外
・長期管理が可能で、リーケージ・永続性リスクを適切に管理できる土地
・森林/非森林の詳細要件はA/R専用方法論の公開後に確定
・生態系への悪影響を避けることが必須
・侵略性・生態リスクのある外来種や単一樹種植林は認められない可能性が高い
・最終的な樹種基準は A/R 方法論の公開後に確定

各認証スキームの主な特徴は以下の通りです。


炭素クレジットの発行量を算定するためには、「植林しなかった場合」と比較してどれだけ吸収量が増えたかを評価する必要があります。この比較基準をベースラインと呼びます。また、炭素をどこまで算定対象に含めるか(炭素プール)もスキームによって異なります。

表4-3 ボランタリークレジットとJCM及びPACMのベースラインと対象炭素プール

認証プログラム等ベースライン算定対象とする炭素プール
バイオマス枯死木・ リター土壌HWP
Gold Standard・ゼロベースラインは原則不可 ・植林前の土地(草地・農地等)の炭素ストックを基準とし、データがない場合は IPCC デフォルト値を使用可能必須除外選択性除外
Plan Vivo・①対照プロット、②成長モデル、③ゼロ仮定(要証明)のいずれかで設定 ・コミュニティ主体のため、保守性より実務性を重視必須必須必須必須
VCS・Area-based(森林化を伴う植林):区域外対照地をモニタリングして設定 ・Census-based(非森林地での植林):ゼロベースラインが許容必須選択性 (Census-based は除外)選択性 (Census-based は除外)除外
JCM・過去10年以上の吸収・排出データを基に保守的に設定。 ・ゼロベースラインは原則不可必須排出源となる場合は必須排出源となる場合は必須除外
PACM・UNFCCC「方法論要件標準」に基づき、保守的かつ追加性を満たす水準で設定 ・A/Rでは政策・土地利用傾向を反映し、過大評価を防ぐため「下方調整」原則を適用 ・ゼロベースラインは原則不可必須選択性 (方法論による)選択性 (方法論による)除外 (当面)

各認証スキームの主な違いは以下の通りです。


森林による炭素吸収は、火災や病害虫、伐採などによって失われる可能性があります。主要な認証スキームでは、万が一炭素吸収量が失われた場合でもクレジットの環境価値を維持するため、バッファクレジットや補填制度を導入しています。

表4-4 ボランタリーとJCM及びPACMの非永続性(反転)への対処アプローチ

認証プログラム等非永続性(反転)への対処アプローチ
Gold standard・森林・土地利用(NCS)プロジェクトでは、反転リスクに備えたバッファリザーブを採用 ・自然災害や管理不履行等のリスクを評価し、一定割合のクレジットをバッファとして積立
・反転が発生した場合はバッファから補填し、クレジットの環境整合性を維持
・長期モニタリングとリスク管理計画を義務化し、保守的な算定アプローチを採用
Plan Vivo・森林・農業系のコミュニティプロジェクトが中心で、Permanence Risk Assessmentを必須化
・プロジェクトごとにPlan Vivo Buffer Fundに一定割合を拠出し、反転時に補填
・土地利用契約(Plan Vivo Certificates)により長期的な土地管理の継続性を担保
VCS・AFOLU Non-Permanence Risk Tool により自然災害・社会経済・管理能力等のリスクを定量化
リスクに応じて10~60%のバッファクレジットを共通プールに拠出
・反転が発生した場合は バッファプールから自動補填し、クレジットの環境価値を維持
JCM・JCM森林分野(REDD+、ARR)では、反転リスクに備えた「バッファリザーブ(バッファクレジット)」を採用
・自然災害・違法伐採・管理不履行等のリスクを評価し、一定割合のクレジットをバッファとして積立
・反転が発生した場合は「損失事象報告書」を提出し、バッファリザーブから補填
・必要に応じて 「補填計画書」 を提出し、環境整合性を維持
・吸収量は保守的に算定し、継続的モニタリングを実施
PACM・国連の下で策定中だが、AFOLUでは永続性の担保が必須要件
・森林吸収等非永続性リスクのある活動では、リスク評価+バッファリザーブの導入が検討されている
・反転が発生した場合は、ホスト国のNDC整合性を損なわない補填措置を義務化 (VCS に近い厳格なアプローチが想定される)

各認証スキームの主な違いは以下の通りです。


近年の炭素クレジットでは、CO₂吸収量だけでなく、生物多様性地域住民への利益SDGsへの貢献なども重視されています。このような環境・社会面の配慮をセーフガードと呼びます。

表4-5 ボランタリークレジットとJCM及びPACMのセーフガード要件

認証プログラム等セーフガード要件(炭素以外への配慮)
Gold standard・対象地の10%以上で生物多様性向上の管理を実施
・最低3つ以上のSDGsへの貢献を示すことが必須
・環境・社会リスクを評価し、ネガティブインパクトの回避・最小化を求める
Plan Vivo・炭素だけでなく、生態系・生計向上・社会的便益を含む指標でモニタリング
・土地権利・先住民の権利・コミュニティ参加を重視したセーフガードを適用
VCS・VCS単体では「No Net Harm(環境・社会に悪影響を与えないこと)」が必須
・追加でCCBS認証を取得することで、生物多様性・コミュニティ便益を強化(CORSIAではCCBS等のダブル認証が要件)
JCM・「セーフガード実施計画書」の作成・提出が必須
・第三者検証機関による妥当性確認(Validation)を受け、環境・社会リスクの管理を担保
PACM・UNFCCCの「A6.4 Sustainable Development Tool」に基づく厳格なセーフガード(10要素)に適合
・「Do No Harm」原則を満たし、SDGsへの貢献を評価・モニタリング・報告。
・利害関係者参加、透明性、第三者検証が義務化

各認証スキームの主な特徴は以下の通りです。


森林プロジェクトは数十年単位で継続されるため、クレジット発行期間や収益配分の仕組みが重要になります。

表4-6 ボランタリーとJCM及びPACMのプロジェクト期間等

認証プログラム等プロジェクト期間クレジット発行期間 (プロジェクト期間内)植林活動の遡り可能年数
Gold standard・明確な上限なし ・プロジェクト開始日は最初の植栽時点・30~50年・「プロジェクト開始日」又は「PDD承認日の3年前」の遅い方まで遡及可
Plan Vivo・上限なし ・炭素便益の50年間維持に関するリスク評価を10年ごとに更新・特段の上限なし(プロジェクト設計に依存)・Validation の最大5年前まで遡及可
VCS・最低40年(ARR/REDD+等の土地利用プロジェクト)・20~100年(方法論により異なる)・パイプライン登録から3年、Validation から5年まで遡及可
JCM・30年以上(発行期間20〜45年+観測期間10年以上)・20~45年(1期間15年×2回更新可)・国ごとに合同委員会(JC)が決定
PACM・上限なし(活動特性に応じて設定)・削減系:5年(2回更新可)又は10年(更新なし)。 ・吸収・除去系:15年(2回更新可)・開始から180日以内に「事前考慮通知」を提出した場合のみ遡及可(=180日が上限)

表4-7 炭素クレジットの事前発行の可否と収益の分配規程

認証プログラム等事前発行(Ex-ante)クレジットの収益分配
Gold standard・不可(Ex-postのみ)
・実際の吸収量が確認された後に発行
・基準には分配規定はなし(プロジェクト参加者間の合意による)
Plan Vivo・可能(主要国際基準で唯一 Ex-anteを正式に認める)
・将来の吸収量を保守的に見積もり、事前発行が可能
・収益の 60%以上をコミュニティへ還元することが必須。
・生計向上・地域開発への貢献を重視
VCS・不可(Ex-post のみ)。
・実測又はモデルに基づく実際の吸収量に対して発行
・基準には分配規定なし(契約に基づく)
JCM・不可(Ex-post のみ)
・モニタリングに基づく実際の吸収量に対して発行
・二国間文書及びホスト国制度に基づき配分 ・日本側とホスト国側の貢献度に応じて決定
PACM・不可(Ex-post のみ)
・UNFCCC の厳格な MRV に基づき、実際の排出削減/吸収・除去量に対して発行
Share of Proceeds (SoP):初回移転時に5%を適応基金へ拠出
・初回発行時に2%を自動キャンセルし、世界全体の排出削減(OMGE)に充当
・二回目以降の発行時には3%を適応基金へ拠出

各認証スキームの主な違いは以下の通りです。


クレジット発行には、登録費用や第三者検証費用が必要になります。プロジェクト規模が大きくなるほど、費用も増加する傾向があります。

表4-8 ボランタリー炭素クレジットプログラムの手続き費用

認証プログラム等プロジェクト登録事前審査/パイプラインレビューその他の レビュー発行時 手数料その他の特徴
Gold Standard (v 3.1)・アカウント登録:$1,000/年・事前レビュー:$1,000
・デザインレビュー:$2,500
・パフォーマンスレビュー:$2,000・$0.10~0.20/クレジット・マイクロプロジェクトはレビュー費用40%割引
Plan Vivo (PV‑Climate)・登録料なし(無料)・PINレビュー:$1,000
・PDDレビュー:$1,500
・Validation調整:$1,000
・Verification調整:$1,000・$0.35~$0.40/クレジット・マイクロプロジェクトは簡易審査により割引可
Verra (VCS 等)・アカウント開設:$750
・年間維持:$750
・再有効化:$2,000
・パイプライン掲載:$1,500
・登録レビュー:$3,750
・Verificationレビュー:$2,500・$0.23/クレジット・CCB取得にはValidation/Verification各$2,500
JCM・登録料なし(無料)・制度上の事前審査なし・制度上の追加レビューなし・ホスト国制度による・二国間協定に基づきホスト国へ配分される場合あり
PACM登録料:
・≤15,000 tCO₂e/年:$2,000
・15,001–50,000/年:$6,000
・>50,000/年:$12,000 ※LDC/SIDSは免除
・制度上の事前審査なし・変更手数料:最大$2,000 ・更新料:登録料と同額上限・上限$0.20/クレジット・SoP:5%を適応基金へ拠出
・OMGE:2%自動キャンセル
・追加3%を適応基金へ拠出

表4-9 代表的な第三者検証機関(VVB)とその特徴

検証機関(VVB)主な強み適性の高いプロジェクトタイプ国際的評価
SCS Global Services・AFOLU(森林・土地利用)分野で世界トップクラスの実績 ・リモートセンシングや動的ベースライン等の高度MRVに強い大規模ARR、REDD+、高度MRV案件非常に高い(VCSで特に強い)
Control Union Certifications・農業・林業・自然資源分野に強み
・VCM主要スキーム(VCS/GS/Plan Vivo)で幅広く承認
小規模〜大規模の森林・農業系プロジェクト高い(多スキーム対応)
TÜV SÜD・国際的な第三者認証の大手
・エネルギー・森林双方に対応可能
大規模植林、企業主導プロジェクト高い(信頼性・ブランド力)
DNV・世界最大級の検証機関 ・リスク管理
・MRV設計に強い
大規模投資案件、企業主導型高い(UNFCCC/CDMでも実績)
Bureau Veritas・国際的な認証の大手
・複数スキームでの経験が豊富
中〜大規模の森林・土地利用高い
Preferred by Nature(旧NEPCon)・森林・自然資源管理に特化
・コミュニティ主体の森林プロジェクトに強い
小規模・コミュニティ主体、Plan Vivo案件中〜高(専門性が高い)

表4-10 第三者検証機関(VVB)への支払い及び準備作業に係る費用

項目定義内容典型的な費用帯(US$)
有効化審査 (Validation)プロジェクト設計(PDD/PD)が方法論・標準要件に適合しているかを、第三者検証機関(VVB)が審査するプロセス文書審査、追加性評価、ベースライン妥当性確認、現地調査(必要に応じて)VVB支払い: $2~4万(GS) $2~3.5万(VCS)
Validation 準備作業Validationに必要な文書作成・データ整理・証拠収集など、プロジェクト側の作業PDD/PD 作成、データ整備、MRV 設計、証拠資料の準備準備費用: $5~10万
検証 (Verification)実施後の排出削減量・吸収量が正確かを、第三者機関(VVB)が確認するプロセスモニタリングデータの検証、現地確認(必要に応じて)、排出削減量の確定VVB支払い: $1.5~3万(GS) $1.5~2.5万(VCS)
Verification 準備作業モニタリングデータ整理、報告書作成、証拠資料の準備モニタリングレポート作成、データ検証、証拠整理準備費用: $2.5~5万

各認証スキームの主な特徴は以下の通りです。