
ボランタリー炭素クレジットの創出コストと取引価格
炭素クレジットは、すべて同じ価格で取引されているわけではありません。実際には、プロジェクトの種類や品質、環境・社会への貢献度によって価格が大きく異なります。本ページでは、ボランタリー炭素クレジット市場における創出コストと取引価格の関係、そして価格を左右する主な要因を紹介します。
ボランタリー炭素クレジットの創出コスト
ボランタリー炭素クレジットの創出コストは、プロジェクトタイプによって大きく異なります。一般的に、植林・再植林・森林再生などの自然由来(Nature-based Solutions)のプロジェクトは、土地利用を中心とした活動であり、大規模な設備投資を必要としないため、比較的低コストでクレジットを創出できます。一方、再生可能エネルギープロジェクト(太陽光発電、風力発電など)は、発電設備への初期投資が必要となるものの、技術の成熟や設備価格の低下により、比較的中程度のコスト水準でクレジットを創出できるケースが多く見られます。
これに対し、CCUS(Carbon Capture, Utilization and Storage)やDACCS(Direct Air Carbon Capture and Storage)などの技術系除去プロジェクトは、大規模な設備投資に加え、CO₂の回収・輸送・貯留に伴う運転コストやエネルギーコストが発生するため、創出コストは他のプロジェクトタイプと比較して大幅に高くなります。

図5-1 炭素除去手法別の緩和ポテンシャルとコスト
出典)THE STATE OF Carbon Dioxide Removal 2026を基に作成
表5-1は、主要な二酸化炭素除去(CDR)手法の特徴を比較したものである。自然由来のプロジェクトは比較的低コストで実施できる一方、吸収量の永続性に課題がある。再生可能エネルギープロジェクトは中程度のコスト水準に位置し、CCUSやDACCSなどの技術系プロジェクトは高い除去性能を有するものの、設備投資や運転コストが大きいため高コストとなる。各手法はコスト、除去ポテンシャル、技術成熟度、環境影響などの観点で特徴が異なり、用途や目的に応じた選択が重要である。
表5-1 陸域・海域における主な二酸化炭素除去手法の特徴
出典:IPCC(2022)“Carbon Dioxide Removal” Fact Sheetを基に作成
AR6 WGIII Chapter 12(Section 12.3, Cross-Chapter Box 8, Table 12.6)も参照

【ポイント】
- プロジェクトタイプによって創出コストは大きく異なる
- 自然由来プロジェクトは比較的低コストで創出可能
- 技術系プロジェクトは高コストとなる可能性がある
ボランタリー炭素クレジットの取引価格
炭素クレジットの取引価格も、プロジェクトタイプによって大きく異なります。技術系プロジェクト(CCUS、DAC、先端排出削減技術など)は供給量が限定的であるため、市場価格が高水準で推移しています。一方で、植林・再植林や森林再生などの自然系プロジェクトは供給量が比較的多く、価格帯は低〜中程度となっています。

図5-2 ボランタリー市場における炭素クレジット取引価格(プロジェクトタイプ別)
出展)Abatable
図-3は、ボランタリー炭素クレジット市場におけるプロジェクトタイプ別の取引量と価格帯を示している。再生可能エネルギーや森林保全などの排出回避・吸収系プロジェクトは比較的低価格で大量供給される一方、バイオ炭やDACCSなどの炭素除去系プロジェクトは創出コストが高いため、取引価格も高い傾向にある。市場では高品質かつ長期的な炭素除去効果を有するクレジットへの需要が高まっており、今後は除去系クレジットの重要性がさらに増すと考えられる。

図5-3 ボランタリー炭素クレジットの取引曲線(プロジェクトタイプ別)
出典)Ecosystem Marketplace State of the Voluntary Carbon Market 2025
【ポイント】
- 取引価格はプロジェクトタイプによって異なる
- 技術系プロジェクトは高価格帯で取引される傾向がある
- 自然系プロジェクトは比較的低〜中価格帯で取引される
ボランタリー炭素クレジットの取引価格を決定する要因
近年のボランタリー炭素市場では、クレジットの品質が価格形成に大きく影響しています。SylveraやAlliedOffsetsの分析によると、ARRやREDD+クレジットでは品質評価と価格の関係が確認されています。特に2025年以降は、ARRクレジットにおいて高品質案件の価格プレミアムが顕著になっています。

図5-4 ボランタリーARR及びREDDクレジットの取引価格(プロジェクト評価別)
出典)Sylvera The State of Carbon Credits, 2025

図5-5 採用方法論に基づくREDD及びARRの登録プロジェクト数
出典)Sylvera The State of Carbon Credits, 2025
【品質向上につながる主な要素】
- ベースラインの精緻化
- リスク管理の強化
- MRVの標準化
さらに、価格形成には炭素以外の価値も影響しています。

図5-6 ボランタリーARRクレジットの取引価格(プロジェクト評価別)
出典)Sylvera The State of Carbon Credits, 2025

図5-7 プロジェクトタイプ別のクレジット価格(コベネフィット評価別)
出典)Sylvera The State of Carbon credits, 2025
ESG投資の拡大やグリーンウォッシング回避への要請を背景に、企業はより高い透明性と社会的インパクトを持つクレジットを選好しています。こうしたコベネフィットの強さが価格プレミアムとして市場に反映されてます。

