
波浪・浸食リスクに向き合う
マングローブ再生へ
植栽初期の枯死率を抑え
信頼性の高い炭素クレジット創出につなげるため
植栽適地選定、植林技術、ドローンモニタリングを組み合わせた実証を行いました
本実証では、大多喜ガス株式会社による試験植林地を活用し、
開放型沿岸域でのマングローブ植林を炭素クレジット創出につなげるため、
植栽初期の生存率向上と、効率的で信頼性の高いモニタリング手法の確立に取り組みました。
なぜ開放型沿岸域でのマングローブ再生は難しいのか
マングローブ植林から炭素クレジットを創出するには、植栽木が定着・成長し、その生存状況やCO₂吸収量を継続的かつ客観的に把握できることが前提となります。マングローブ植林は、沿岸域の生態系保全やブルーカーボン創出の手法として注目されています。一方で、外洋に面した開放型沿岸域では、波浪や侵食の影響を強く受けるため、植林木の生存率を安定的に確保することが容易ではありません。実際に、地盤高や潮汐条件、波浪環境によっては、植栽後に苗木が流出・枯死するケースも多く、「どこに、どの樹種を、どのように植えるか」が大きな課題となっていました。こうした背景のもと、本実証では、大多喜ガス株式会社による試験植林とも連携しながら、植栽適地選定、植林技術、ドローンモニタリングの検証を行い、開放型沿岸域における持続的なマングローブ再生モデルの構築に向けた検証を行いました。

出所:日本工営(2026)
下画像は本業務の活動実施候補地となる試験植栽候補地の位置図です。

炭素クレジット創出に繋がるマングローブ再生モデルをどう構築したか
本実証では、マングローブ植林による炭素クレジット創出の前提となる生存率の向上と、信頼性の高いMRVの実現に向けて、植栽適地の選定、樹種選定、植林技術の改善、ドローンモニタリングの4つの観点から検証を行いました。

①開放型沿岸域におけるマングローブ植栽適地の選定
- 波浪や侵食の影響を受けにくい植栽適地を選定するため、波浪・侵食環境の評価を行いました。
開放型沿岸域では、強い波浪や高潮によって、植栽した苗木が流出・倒伏するリスクがあります。そこで本実証では、波浪シミュレーションやGoogle Earth画像を活用し、各候補地の波浪・侵食リスクを評価しました。その結果、波浪や侵食の影響が比較的小さい場所を植栽候補地として選定することの重要性が確認されました。

出所:日本工営(2026)
上図は、季節風によって波の入り方や強さが変わることを示しています。特に、外洋に面した地域では、季節によって波浪の影響を強く受ける場所が変わるため、単に「海岸沿いだから植えられる」と判断するのではなく、波の向きや強さを踏まえて植栽地を選ぶ必要があります。


出所:日本工営(2026)
上図は、過去の衛星画像などを用いて、海岸線が前進しているのか、後退しているのかを確認したものです。侵食傾向が強い場所では、植栽した苗木が流出する可能性が高くなります。一方、堆積傾向がある場所では、地盤が安定しやすく、植栽地として活用できる可能性があります。
初期枯死を抑えることは、将来のCO₂吸収量とクレジット創出量を安定させる上で重要です。
②耐水/耐塩性を踏まえた樹種選定
- 地盤高や湛水時間を評価し、対象地に適した樹種を検討しました。
マングローブは、樹種によって冠水への耐性や適した生育環境が異なります。本実証では、現地での測量や潮位データをもとに、植栽候補地の地盤高や湛水時間を推定しました。また、現地での生存状況の確認から、Rhizophora種よりもAvicennia種の方が、生存可能範囲が広い可能性が示されました。

出所:日本工営(2026)
上図は、実際の試験植栽地において、地盤高の違いと苗木の生存状況を重ねて示したものです。地盤が低い場所ほど苗木の生存が難しくなる傾向が確認され、植栽適地を判断するうえで地盤高が重要であることを示しています。
対象地に適した樹種を選ぶことで、生存率を高め、クレジット創出量の不確実性を抑えることが期待されます。
③適正な植栽技術普及
- 現地で実施されている植林手法を整理し、生存率向上に向けた改善点を検討しました。
現地では、住民が慣行的にマングローブ苗木を植栽していましたが、苗ポットを外さずに植える、順化を十分に行わないなど、生育に影響する可能性のある方法も確認されました。そこで本実証では、YAGASUの標準作業手順書をレビューし、住民にも理解しやすい補足教材を作成しました。特に、イラストを中心とした技術資料により、植林手順を視覚的に共有できる形に整理しました。

出所:日本工営(2026)
上表は、住民向けに作成した技術教材の案です。育苗、植栽、保育管理の手順をイラストで示しており、文章だけでは伝わりにくい作業内容を視覚的に理解できるようにしています。HPでは、この図を使うことで「技術を現地に伝える工夫」が分かりやすく伝わります。
適切な植林技術を現地に定着させることは、補植コストの抑制と長期的な炭素固定につながります。
④効率的なモニタリング方法の検討
- 広範囲の植林地を効率的に管理するため、ドローン画像を活用した生存木モニタリング手法を検証しました。
広大な沿岸域では、目視によるモニタリングだけでは継続的な管理に多くの時間と費用が必要となります。そこで本実証では、ドローンによる空撮を実施し、取得した画像から植林木の状況を把握する手法を検討しました。また、自動分類の可能性や経済性についても評価を行い、将来的な効率化に向けた基礎的な知見を得ました。

出所:sustainacraft(2026)
上の図は、モニタリング不足がどのような問題につながるかを整理したものです。現地状況との乖離、生存率の過大推定、再植林の遅れ、クレジット毀損といったリスクが連鎖的に発生することを示しています。ドローンモニタリングは、単なる効率化だけでなく、事業の信頼性や投資判断の透明性を高める手段として位置づけられます。
客観的な生存率データは、クレジット量の算定や認証審査、投資家への説明に必要な基礎情報となります。
実証で見えてきた成果と課題
本実証を通じて、開放型沿岸域におけるマングローブ再生モデルの実現可能性が確認されました。一方で、大規模な植林事業や炭素クレジット創出に向けては、引き続き解決すべき課題も残されています


今後に向けて
本実証では、マングローブ植林による炭素クレジット創出に向けて、波浪・侵食リスクを踏まえた植栽適地の選定手法、適した樹種や植林技術に関する知見、ドローンを活用した効率的なモニタリング手法を整理することができました。
今後は、これらの成果を活用しながら、開放型沿岸域におけるマングローブ再生の拡大と、炭素クレジット創出につながる事業モデルの実装を目指します。

