白絹病

診断の要点

ポット苗、直播苗いずれにも発生するが、特に直播床に発生すると病勢の進展が速く、集団枯損を引き起こして被害が大きい。病原菌は土壌中に生息し、苗木が成長して床面がうっぺいし、暗黒でしかも風通しが悪く湿潤になると発生し始める。根系が侵されるが、病原菌は地上にも現れて茎部に進み、さらに下葉をも侵す。侵された苗木は地際部の茎が巻き枯らしになり、全体が急速に萎れて枯れる(図1)。被害苗の地際の茎、樹皮、直根などには白色の菌糸や菌糸束が絡みつき、一部は菌糸膜状を呈する(図2)。白色菌糸膜あるいは菌糸束の表面には、明褐色のアワ(粟)粒大の光沢のある菌核を多数形成する(図3)。枯死苗周辺の土壌表面にも同様の菌核が形成される。

図1 オオバマホガニー直播床における白絹病被害

図2. Corticium rolfsiiによるリンゴの木の白絹病

図3 明褐色のアワ(粟)粒大の光沢のあるCorticium rolfsii菌核。コショウノキ。

発生生態

本病菌は土壌中に埋没した未分解有機物すなわち植物残渣を栄養源として繁殖し、また多くの雑草類が本病菌の潜在的宿主として重要な伝染源となる。形成された菌核は耕うんや雨水により畑中に拡散する。菌核は家畜により草と一緒に食されても消化することなく糞とともに排泄され、これも伝播の一方法となる。本病菌の発育適温は25~35℃と比較的高温であり生育限界も8~40℃と高温域に偏っている。生育可能なpHの範囲は1.4~8.6、最適pHは3~6.5であるが、中性~アルカリ側では生育は極めて悪い。白絹病の発生適温は菌叢の生育適温域にあり、土壌表層の水分や空気中の湿度が高いほど発病を誘発するが、その後の病状の進展は土壌が乾くほど激しくなる。熱帯では一年を通じて発生可能であるが、乾季と雨季のはっきりしている地域では、育苗との関係で乾季の終わりから雨季の初めにかけて激しい発生のみられることが多い。温帯地域では主に雨季に発生する。

病原菌と病名

病原菌はCorticium rolfsii Curzi (= Sclerotium rolfsii Saccardo)である。多犯性の土壌病原菌でいくつかの異名をもつが、比較的よくつかわれる異名にはHypochnus centrifuges (Léveillé) Tulasne, Corticium centrifugum (Lév.) Bresadola、H. cucumeris auct. non Frankがある。日本植物病理学会の病名基準では、有性世代(担子胞子)を確認された宿主以外は病原菌名にSclerotium rolfsii Saccardoを用いることになっている。これは本病菌の有性世代(担子胞子)の形成を確認した報告が極めて少なく、一般的には明褐色の菌核の形成によって同定されていることに基づいている。

英病名は一般にSouthern sclerotium blightが用いられる。和病名は古くから白絹病である。

発生樹種と分布

本病菌は熱帯・亜熱帯から温帯にかけて広く分布する土壌生息性の病原菌である。主として苗畑で針葉樹、広葉樹、果樹、木本性工芸作物(特用樹)の苗木の根系と地際の茎に侵入し萎凋枯死をおこす。時に植栽地で若木の枯損を起こすこともある。各種農作物や草本性工芸作物の畑にも多くの発生報告がある。

木本

モクマオウ(Casuarina equisetifolia)、キササゲ(Catalpa ovata)、クス・ニッケイ(Cinnamomum spp.)、クサギ(Clerodendron spp.)、スギ(Cryptomeria japonica)、コウヨウザン(Cunninghamia lanceolata)、マチク(Dendrocalamus latiflorus)、ゲッケイジュ(Laurus nobilis)、タコノキ(Pandanus spp.)、モルッカネム(Paraserianthes falcataria)、タイワンギリ(Paulownia fortunei)、マツ(Pinus spp.)、インドシタン(Pterocarpus indicus)、カシ(Quercus spp.)マホガニー(Swietenia spp.)など。

特用樹

(つる性工芸作物を含む):アブラギリ(Aleurites spp.)、ダイサンチク(Bambusa vulgaris)、チャ(Camellia sinesisi)、センナ(Cassia senna)、カボック(Ceiba pentandra)、キナノキ(Cinchona spp.)、コーヒーノキ(Coffea spp.)、オオイタビ(Ficus pumila)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、マツリカ(Jasminum sambac)、キャッサバ(Manihot esculenta)、クワ(Morus spp.)、オリーブ(Olea spp.)、コショウ(Piper spp.)、ルリダマノキ(Sauropus androgynus)、スパ(Sindora supa)、バニラ(Vanilla planifolia)など。

果樹:ギュウシンリ(Annona reticulata)、パラミツ・パンノキ(Artocarpus spp.)、パパイヤ(Carica papaya)、柑橘類(Citrus spp.)、ドリアン(Durio zibethinus)、ビワ(Eriobotrya japonica)、イチジク(Ficus carica)、リンゴ(Malus spp.)、マンゴー(Mangifera indica)、バナナ(Musa spp.)、ブドウ(Vitis vinifera)など。

花木・緑化樹

アオノリュウゼツラン(Agave americana)、ブーゲンビリア(Bougainvillea spectabilis)、ファイヤーボール(Calliandra haematococca)、チャラン(Chloranthus spicatus)、ジンチョウゲ(Daphne odora)、ハリマツリ(Duranta repens)、マグノリア(Magnolia spp.)、バラ(Rosa spp.)、ユッカ(Yucca spp.)など。

分布

発生報告は亜寒帯以北と乾燥地を除いた南北両半球の各地からもたらされている。

  • アジア(中国・インド・インドネシア・ブルネイ・日本・韓国・台湾・タイ・マレイシア・フィリピンン・スリランカ・イラン)
  • アフリカ(ガーナ・ケニア・マラウイ・モーリシャス・セネガル・タンザニア・ウガンダ・ザンビア・南アフリカ・コンゴ民主共和国)
  • 欧州(ギリシャ・イタリア・ロシア)
  • 大洋州(オーストラリア・クック諸島・フィジー・ニュージーランド・パプアニューギニア・トンガ・サモア独立国)、北米(カナダ・アメリカ合衆国・メキシコ)
  • 中米(キューバ・エルサルバドル・ジャマイカ・プエルトリコ・トリニダードトバコ・仏領アンティル諸島・米領ヴァージン諸島)
  • 南米(アルゼンチン・ブラジル・チリ・コロンビア・ペルー・ベネズエラ)

防除対策

育苗管理

  1. 除草をはじめとする苗畑衛生の徹底が本病の潜在的感染源を除くために有効である。
  2. 前作の残根をできるだけ少なくするように丁寧に苗を掘り取る。
  3. 枝葉残渣を埋め込まぬように気を付ける。埋没した使用は本病菌の格好の繁殖場所となる。
  4. 深耕天地返しは主要伝染源である菌核の殺滅に有効である。
  5. 早期発見のため養成苗木が成長して床面がうっぺいするようになったら、少なくとも日に一回は苗木を手でかき分けて本病発生の有無を確認する。
  6. 発生したら直ちに病苗は抜き取り焼却する。苗床表面に形成された菌核は移植ごてなどで土と一緒にすくい取り病苗とともに焼却する。

薬剤防除

  1. 発生地の病苗掘り取り跡地にはPCNB(Pentachloronitrobenzen)粉剤の土壌混和が有効である。ただし、PCNBの毒性から現在日本では使用できない。スルフルファミド剤などが使われている。
  2. ガス燻蒸処理は最も有効な土壌消毒であるが、フォルマリン、クロールピクリン、メチルブロマイド、カーバム剤などの燻蒸剤は、気温の高い熱帯ではすぐに気化するため使いにくく、かつ人畜に対する毒性も高いので、使用するときは厳密な注意を要する。
  3. トリコデルマ菌 (Trichoderma viride)の生菌胞子製剤が入手可能ならば、発病地の土壌に施用する。

参考文献

  1. 小林享夫(1994)「熱帯の森林病害」国際緑化推進センター https://jifpro.or.jp/publication/publication/textbook_06/

画像出典

  • 図2. Cheryl Kaiser, University of Kentucky, Bugwood.org CC-BY-NC 3.0
  • 図3 Paul Bachi, University of Kentucky Research and Education Center, Bugwood.org CC-BY-NC 3.0