微粒菌核病

診断の要点

主として苗日の根系および地際部の茎が侵される。樹皮と形成層が侵され、根冠部や茎の下部で病患部ひと巻きして巻き枯らしを起こすため、地上部全体が急速に萎れて枯れる。苗立枯病の「根腐れ型」ないし「すそ腐れ型」の被害ときわめて似た症状を呈し、外見的な区別は困難である(図1)。しかし、枯死苗の地際茎または根の樹皮を剥いでみると、形成層部分の木部表面と樹皮表面に微小な黒色菌核が多数黒点状に形成されている特徴があるため、苗立枯病による被害と区別することができる(図2)。また、しばしば侵された根の樹皮や木質部に黒色の帯線を形成する。温帯地域における本病の被害はほとんど苗木に限られるが、熱帯地域では苗木だけでなく植栽した若木まで侵されるため、その被害がいっそう重視されている。

図1 微粒菌核病の症状と標徴

図2 M. phaseolinaが感染したスラッシュマツ(Pinus Elliottii)における黒い微小菌核とオレンジ色の柄子殻

発生生態

本病菌は本来熱帯性の土壌病原菌で生育適温は30~35℃にあり、38℃でもよく生育する。湿潤土壌より乾燥土壌を好むが、植物組織中の菌核は土壌中で長く生存し、環境が好転すれば発芽して生育し、再び健全植物の根系を侵害する。熱帯においては、ほぼ一年を通じて発生するが、温帯から亜熱帯では主に夏季に発生する。ことに夏季に地温が30℃を超えるところでは、苗立枯病よりも微粒菌核苗の方が優勢に繁殖して被害を起こす。温帯では夏季に地温が上がりやすく乾燥しやすい砂質土壌で多発する。

本病菌には侵害した植物上で黒点状の柄子殻(分生子殻)や菌核を多量に形成する系統(分離株)から、ほとんど形成しない系統まで、変化に富むことが知られている。熱帯地域のマツ類の苗畑では、後者の被害が多いようで、苗立枯病(根腐れ型~すそ腐れ型)との区別が難しい場合がある。苗立枯病にしても、本病にしても、とりあえずの防除対策とは別に、被害苗の茎根から分離培養を依頼して病原菌を確認することが、その後の予防策を立てる上で重要である。

病原菌と病名

本病原菌は、たくさんの異名をもつ病原菌であり、Macrophomina phaseolina (Tassi) GoidánichM. phaseoli (Maublanc) Ashby, M. philippinensis Petrak, Sclerotium bataticola Taubenh., Rhizoctonia bataticola (Taub.) Bulter, R. lamellifera Smallなどがある。本菌による病害の英名にはBlack root rotCharcoal rotの二つの英名がある。同様に和病名にも木本植物では被害苗樹皮下の形成層部分における黒色微小菌核の形成から微粒菌核苗と命名されるが、草本植物では炭は被害茎根が黒化することと英名を考慮して炭腐(すみぐされ)病(Anthracnose)と名付けられた。なお、本病菌は普通侵害した植物の樹皮下形成層部分に黒色の微小菌核を形成するが、それ以外にもごくまれにやや大きい黒点状の小隆起(病原菌の柄子殻)を皮層部分に形成することがある。

発生樹種

多くの木本と草本植物を侵して枯損被害を引き起こす。熱帯・亜熱帯の林業樹種としては、アカシア類(Acacia sspp.)、アルビジア類(Asbizia spp.)、Artocarpus integrifolia、ローズウッド類(Cassia spp.)、モクマオウ(Casuarina equisetifolia)、イトスギ類(Cupressus spp.)シッソノキ(Dalbergia sisso)、ユーカリ類(Eucalyptus spp.)、マツ類(Pinus spp.)などの苗木が侵されやすく、果樹や徳陽樹種ではビンロウジ(Areca catechu)、ポーポー(Asimina triloba)、パパイヤ(Carica papaya)、柑橘類(Citrus spp.)コーヒーノキ類(Coffea spp.)、チョウジ(Eugenia caryophyllus)、マンゴスチン(Garcinia mangostana)、ゴムノキ(Hevea brasiliensis)、マンゴー(Mangifera indica)、グアバ(Psidium guajava)、チャ(Thea spp.)カカオ(Theobroma cacao)などの被害が多く報告されている。スギやヒノキなど日本の針葉樹苗木でも報告されている。本業菌による被害報告のある地域は、アジア、アフリカ、中南米、北米、欧州、大洋州と世界全域にわたる。

図3 M. phaseolina菌によるスラッシュマツ(Pinus Elliottii)苗の被害

防除対策

  1. 本病菌は高温乾燥を好み、地温が30℃を超えると被害が増大するので、苗畑においては日除けや灌水により地温を下げ、土壌が乾燥しすぎないように留意することで、かなりの程度発生を抑制できる。
  2. 防除薬剤として特効的なものはなく、木酢液やホルマリンなどが有効との報告があるにすぎない。
  3. 播きつけ床や小規模な苗畑であれば、焼土が最も効果的である。
  4. ガス燻蒸剤(クロールピクリン、ベーパム等)は有効であるが、気温が高い熱帯ではすぐに気化するため使い難く、毒性が強いので十分な注意が必要である。
  5. 窒素質肥料を控えめにし、病苗は抜き取り焼却する。

参考文献

  1. 小林享夫(1994)「熱帯の森林病害」国際緑化推進センター https://jifpro.or.jp/publication/publication/textbook_06/

画像出典

  • 図2 Edward L. Barnard, Florida Department of Agriculture and Consumer Services, Bugwood.org CC BY 3.0
  • 図3 Edward L. Barnard, Florida Department of Agriculture and Consumer Services, Bugwood.org. CC BY 3.0