森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
マツ類が天然に分布していない国や地域において、マツ類を植栽する場合には、菌根を接種しなければ良い成長ができないことはよく知られている。すぐに枯死するわけではないが、著しく成長が遅く、ある種の栄養障害を起こすことが報告されている。このように共生微生物である菌根と宿主である樹木とが作る共生体の関係はほとんどの樹種で存在する(浅川, 1992)。
菌根は宿主樹木に以下の利点を提供している(Wilkinson et al. 2014)。
菌根は7~8つのカテゴリーに分類されるが、以下の3つのカテゴリーの菌根菌及びその組合せは、熱帯の苗木の育成にとって重要である。
菌根菌 | 宿主植物 |
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アーバスキュラー菌根 (Arbuscular Mycorrhizae, AM) |
最も古くて優勢な菌根菌。世界の植物科の80%以上、ほとんどの熱帯植物の根及び食糧作物(米、トウモロコシ、およびマメ科植物を含む)の多くに見られる。 |
外菌根 (Ectomycorrhizae, ECM) |
世界の植物科の10%以下。Pinus属、Quercus属、Eucalyptus属。 |
AM及びECM | Allocasuarina属、Acacia属、Eucalyptus属、Juniperus属、Populus属及びSalix属。 |
エリコイド菌根 (Ericoid Mycorrhizae, ERM) |
ブルーベリー、クランベリー、ツツジ、およびイチョウ属を含むヒースまたはヒーサー科(Ericaceae)。 |
菌根は「1つの種類はすべてに適合する」わけではないが、しばしば「1つの種類は多くのものに適合する」。また、1つの植物は複数の菌根と同時に共生関係を持つとともに、成長の段階及び環境の変化に伴い、共生する菌根を変える。しかし、ほとんどの植物は特定の菌根菌と関連しているので、異なる植物種は異なる菌根パートナーを持っており、それらを効果的に適合させる必要がある(Wilkinson et al. 2014)。
菌根の接種にはいろいろな方法があり、底のあるポットでマツ苗を育てる場合には、健全なマツ林あるいは造林地から集めた表層土をポット用土に混ぜる。菌根を含む土壌の混入量はごく少量でよく、ポット当たりでは数グラムの割合で混入するのが普通である。
底のないポットを用いる場合には、ポットを並べる苗床に散布するか、苗床の中にすでに菌根を形成している松の苗木か稚樹を植え込んでもよい。また、ポット苗を山出し前に数週間マツの成木の下に置いてもよいとされる(浅川, 1992)。
初めて菌根を接種する場合は、小規模から始めて、いくつかの技術と接種源を評価する。菌根自体はそれほど特殊ではないが、菌根の異なる菌株は、立地条件に応じて異なる働きをすると考えられている。いくつかの選抜または純培養された接種源は、特定の条件で高い生産性をサポートするかもしれないが、他の場所ではネイティブ株より生産性が低いかもしれない。例えば、栄養素の欠乏が主要な課題である場合、それに適した接種源が有益かもしれないが、土壌病原体または重金属にも耐える株の方が宿主にとって有用なこともある。植物は複数の菌株と同時に共生することができ、必要に応じて現場条件に適応するためにパートナーを変えることができるため、可能であれば、現場の多様性のためにいくつかの菌株を扱う方がよい。このため、特に苗畑では、以下の作業を行うことが必要である(Wilkinson et al. 2014)。