森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
窒素はすべての生物に必須の元素である。大気の約8割は窒素分子(N2)で占められるが、これを利用できる生物はごく一部のバクテリアに限られる。これらは窒素固定バクテリアと呼ばれ、N2をアンモニアに還元する。アンモニアはバクテリアや菌類、植物により有機化合物に同化される。
これら窒素固定バクテリアの一部は植物と共生する。もっとも高度な共生系では,根粒という専門器官が根に形成される。根粒中で共生バクテリアが合成したアンモニアは宿主植物に供給されるため、これらの植物は窒素養分の乏しい土地でも旺盛に生育する。
根粒共生窒素固定を行うバクテリアは、根粒菌とフランキアの2種類が知られている。根粒菌はグラム陰性細菌であり、多くのマメ科の植物及びアサ科のパラスポニア属と共生する。一方、フランキアはグラム陽性の放線菌であり、多細胞性の菌糸として生育、胞子を形成し、共生宿主はアクチノリザル植物と総称される。アクチノリザル植物は、8科にわたる200以上の植物種を含む(表1)。これらはダティスカ科を除きすべて樹木であり、熱帯から冷帯まで幅広い気候で生育する多様な樹種を含む。なお、根粒菌とフランキアは系統分類的にきわめて遠縁だが、マメ科植物とアクチノリザル植物は近縁である(九町, 2013)。
目 | 科 | 属 |
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ブナ目 | カバノキ科 | Alnus |
ヤマモモ科 | Comptonia | |
Morella | ||
Myrica | ||
モクマオウ科 | Allocasuarina | |
Casuarina | ||
Ceuthostoma | ||
Gymnostoma | ||
バラ目 | グミ科 | Elaeagnus |
Hippophae | ||
Shepherdia | ||
クロウメモドキ科 | Ceanothus | |
Colletia | ||
Discaria | ||
Kentrothamnus | ||
Retanilla | ||
Trevoa | ||
バラ科 | Cercocarpus | |
Chamaebatia | ||
Dryas | ||
Purshia | ||
ウリ目 | ドクウツギ科 | Coriaria |
ダティスカ科 | Datisca |
苗畑で根粒菌又はフランキアを接種された苗木は、微生物とのパートナーシップ効果により、しばしば植栽された現場でより良い生残結果を示す。しかしながら、未接種の場合は植栽現場で自ら微生物とのパートナーシップを構築しなければならない。多くの場合、植栽は、土地の微生物集団が少ない又は生育できない森林破壊地や劣化した土地で行われる。このため、根粒樹木の場合にも、根粒の発達がよくない場合には、苗畑で根粒菌又はフランキアの接種を行うほうがよい。樹種ごとに最適な共生微生物が存在する。苗畑での接種には次の利点がある(Wilkinson et al. 2014)。
根粒菌、フランキアの接種方法としては、その樹種が普通に見られる林分の土壌を利用するか、何らかの接種源を入手・培養して、それを種子にまぶして播き付けるか、稚樹の場合は用土に散布する(浅川, 1992)。接種源には2つの形態があり、ひとつは、純粋培養した接種剤であり商社から購入可能である。もうひとつは自家製(しばしば “粗製”)の接種剤であり、同種の健康な根から採取した根粒菌を粗製して用いる。いずれの形態をとっても、窒素固定菌接種源は非常に腐敗しやすいので注意が必要である。これらの接種源は、比較的安定した低温で湿った暗い条件下の土壌中に生息するので、保存・取り扱いおよび適用中においては同様の条件を維持する必要がある(Wilkinson et al. 2014)。
接種剤を自家粗製するには、まず、接種する樹種と同じ樹種の健康で活力のある苗木を選び、根系の根元付近を浅く掘る。若い根にはしばしば最も活発な根粒が含まれているので、そこから適切な色の根粒を選び、きれいに取り除く。その際は、同樹種のいくつかの健全な固体から根粒を集め、多様性を確保する。プラスチック製の袋または容器に根粒を入れ、直射日光や熱から保護するために、クーラーに保管する。採取後、できるだけ早く(数時間以内に)結節をきれいな塩素フリーの水を用いてミキサーに入れる。約1 Lの水に約50~100割合で根粒を配合した溶液をつくる。これは約500本の苗木に接種するのに十分である。この溶液は手作りの液体接種剤であり、純粋培養接種源と同様の方法で施用することができる(Wilkinson et al. 2014)。