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ボトリオディプロディア胴枯病

診断の要点

ボトリオディプロディア胴枯病は赤衣病とともに熱帯地域の二大胴枯病といわれている。多犯性で様々な植物の茎幹や枝、果実や葉が侵されるが、種には皮層が侵され、茎枯れや枝枯れ、胴枯れ性病害が起きる。苗木から成木まで広い範囲に発生する。苗木では地際の茎が侵され病苗は全体に萎れて枯れる。枯れた茎の皮にいぼ状の小突起(病原菌の柄子殻)が形成され、頂部は表皮を破って黒点状に現れる。若木から成木まで太枝や茎幹にそれぞれ枝の基部を中心に淡褐色~褐色のやや凹陥した縦長の楕円~紡錘形の病斑が形成され、拡大すると病斑は枝幹を一周し、その上部は萎凋し褐変して枯れる。枯死茎幹の樹皮にはさめ肌状に黒色小円丘状の隆起(病原菌の柄子殻子座)が多数形成される(図1)。この部分をカミソリの刃などで薄く剥ぐと、黒色平板上の菌体(子座)に微小な白色の塊(成熟した病原菌の柄子殻の中身)が点々とちりばめられているのが、肉眼あるいはルーペの下でよく見ることができる。果実や種皮では灰黒色ないし黒色の変色病斑を生じ、腐敗部にほとんど表生状に黒色のいぼ状隆起(病原菌の柄子殻ないし柄子殻子座)が多数形成され、果肉の収縮により、病斑表皮は全面が黒色の菌体に覆われるようになる。

図1 本菌によるタケ(Bambusa spp.)上のいぼ状の小突起。

図2 ニーム (Azadirachta indica.)の樹皮上の病徴。

赤衣病との最大の相違点は、病斑上に現れる子実体が黒色さめ肌状の小隆起群であることで、赤衣病の淡桃色の菌糸膜ないし子実層とは全く異なる表徴を示す(図 2) 。本病の場合、赤衣病と違って子実体が樹皮下に形成され、外観からは決定的な特徴判断が難しく、類似の菌もあることから最終的には顕微鏡検査によらなければならない。

発生生態

柄子殻しないし柄子殻子座は枯死幹あるいは腐敗果実や葉病斑の表皮下に埋生、のち表皮を破って頂部を表面に露出する。葉病斑や幼茎では単室の柄子殻となり、果実や成木の茎幹では多室の柄子殻子座となる。単室の柄子殻では径200~500µm程度、子座では長さ数mmに及ぶ。柄子殻室(Pycnidial locule)は径80~400µm、内層に無色短棒状の分生子柄(分生子柄形成細胞)を並列し、頂端から分生子を形成する。分生子は無出芽型(ホロプラスチック)に形成され、楕円形、はじめ無色、単細胞のち中央に隔壁を生じ、平等2細胞、さらに成熟すると褐色ないし黒褐色で縦に明瞭な縞ができる15~31×10~17.5µm(図3)。稀にテレオモルフ(完全世代)(Botryosphaeria rhodian (Berkeley et Curtis)von Arx)の形成が報告されている。

図3 ポトリオディプロディア胴枯病菌
a: 柄子殻子座、b: 未熟の無色単胞の分生子、c: 未熟の褐色単胞の分生子、d: 成熟した2細胞、褐色の縞のある分生子(H: a=100µm、b=10µm)

病原菌と病名

病原菌名:Lasiodiplodia theobromae (Patonillard) Griffon et Maublanc)= Botryodiplodia theobromae Patonillard。長くB. theobromaeが使われてきたが、現在はL. theobromaeが使われる)。なお、Lasiodiplodia属はBotryosphaeriaceae科である。本菌は特有の病・標徴がないため、作物ごとに様々な病名がつけられている。(ボトリオディプロディア枝枯れ病:ナシ;ボトリオディプロディア胴枯病:カカオ、ガラナ、パラゴムノキ;軸腐病 stem end rot:バナナ、パパイア;へた腐病:ココヤシ;黒腐病 fruit rot:バナナ;ジャワ黒腐病 Java black rot:サツマイモ;茎枯病 stem rot:マホガニー;乾腐病 peduncle rot:キャッサバ。

発生樹種と分布

林木

アガチス(Agathis spp.)、ネムノキ(Albizia spp.)、アロウカリア(Araucaria spp.)、竹(Bambusa arundinacea)、ゴバンノアシ類(Barringtonia acutangule)、テリハボク(Calophyllum inophyllum)、モクマオウ(Casuarina equisetifolia)、ローソンヒノキ(Chamaecyparis lawsoniana)、カナレッテ類(Cordia myxa)、イトスギ(Cupressus spp.)、ユーカリ(Eucalyptus spp.)、メルバウ(Intsia palembanica)、ギンネム(Leucaena leucocephala)、アカメガシワ(Mallotus spp.)、センダン(Melia azedarach)、ミサキノハナ(Mimusops elengi)、トガリウッド(Morinda tinctorial)、タコノキ(Pandanus spp.)、モルッカネム(Paraserianthes falcataria)、マツ(Pinus spp.)、アムラタマゴノキ(Spondias pinnata)、マホガニー(Swietenia spp.)、チーク(Tectona grandis)、シナノキ(Tilia spp.)、カヤ類(Torreya taxifolia)など。

特用樹(つる性工芸作物を含む)

サポジラ(Achraszapota spp.)、ベルノキ(Aegle marmelos)、アブラギリ(Aleurites spp.)、カシューナッツ(Anacardium occidentale)、オウコチョウ(Caesalpinia pulcherrima)、チャ(Camellia sinensis)、センナ類(Cassia spp.)、アカキナノキ(Cinchona succirubra)、デリス類(Derris microphylla)、クスノキ(Cinnamomum camphora)、クサギ類(Clerodendron infortunatum)、ココヤシ(Cocos camphora)、コーヒーノキ(Coffea spp.)、ギニアアブラヤシ(Elaeis guineensis)、ユカン(Emblica officinalis)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、キャッサバ(Manihot esculenta)、サゴヤシ(Metroxylon sagu)、キンコウボク(Michelia champaka)、マグワ(Mosus alba)、ナツメグ(Myristica fragrans)、コショウ(Piper spp.)、ヒマ(Ricinus communis)、チョウジ(Syzygium aromatica)、カカオ(Theobroma cacao)、サンショウ類(Zanthoxylum americanum)など。

果樹

キウイフルーツ(Actinidia chinensis)、パラミツ(Artocarpus spp.)、バンレイシ(Annona spp.)、ゴレンシ(Averrhoa spp.)、柑橘類(Citrus spp.)、パパイア(Carica papaya)、シナグリ(Castanea mollissima)、ドリアン(Durio zibethinus)、ビワモドキ(Dillenia indica)、カキノキ(Diospyros spp.)、ビワ(Eriobotrya japonica)、リュウガン(Euphoria longana)、イチジク(Ficus carica)、マンゴスチン(Garcinia mangostana)、インドウオトリギ(Grewia asiatica)、クラブアップル(Malus Sylvestris)、ゲッキツ類(Murraya spp.)、クダモノトケイソウ(Passiflora spp.)、アボガド(Persea Americana)、カラタチ(Poncirus trifoliata)、オウトウ類(Prunus spp.)、マンゴー(Mangifera indica)、ランブータン(Nephelium lappaceum)、グアバ(Psidium spp.)、リンゴ(Malus spp.)、ザクロ(Punica granatum)、ブドウ(Vitis vinifera)など。

花木・緑化樹

リュウゼツラン(Agave spp.)、ビンロウジ(Areca catechu)、パイプバナ(Aristolochia indica)、ムラサキソシンカ(Bauhinia spp.)、カリッサ(Carissa spp.)、ヘンヨウボク(Codiaeum variegatum)、ナンヨウソテツ(Cycas circinalis)、シッソノキ(Dalbergia sisso)、インドゴムノキ・ベンガルボダイジュ(Ficus spp.)、クチナシ(Gardenia jasminoides)、ハゴロモノキ(Grevillea robusta)、ブッソウゲ(Hibiscus spp.)、サンタンカ(Ixora spp.)、マツリカ(Jasminum spp.)、ビャクシン類(Juniperus multiforum)、ネズミモチ(Ligustrum spp.)、アメリカフウ(Liquidambar styraciflua)、ビロウ(Livistona spp)、カンキチク(Muehlenbeckia platyclada)、コンロンカ類(Mussaenda frondosa)、ナツメヤシ(Phenix dactylifera)、トベラ類(Pittosporum undulatum)、プラタナス(Platanus occidentalis)、プルメリア(Plumeria rubra)、バラ(Rosa spp.)、カエンボク(Spathodea campanulata)、モモタマナ(Terminalia catappa)、ガマズミ類(Viburnum spp.)など。

分布

  • アジア(ブルネイ、中国、インド、インドネシア、イラン、日本、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ、台湾)
  • オセアニア(オーストラリア、フィジー、ニュージーランド、パプアニューギニア、トンガ、サモア独立国、クック諸島)
  • アフリカ(ガーナ、ケニア、マラウイ、モーリシャス、リビア、シェラレオネ、南アフリカ、タンザニア、ウガンダ、ザンビア)
  • 北米(アメリカ)
  • 南米(コロンビア、ベネズエラ)
  • 中米(バルバドス、ジャマイカ、パナマ、プエルトリコ、ビクトリア、アンダマン諸島)

発生生態

本病は熱帯・亜熱帯地域の二大胴枯性病害の一つといわれ、上記のように多数の宿主樹木上に被害報告があるが、近年はさらに熱帯果樹の収穫後の貯蔵(市場)病害の重要病原菌としても注目されている。また、ごくまれにではあるが、本病菌の感染によるヒトの角膜障害が人間の真菌症の一つとして報告されている。

本病菌による胴・枝枯性病害の発生は、赤衣病と同様に、宿主植物の樹勢の強弱と関係があり、植栽地を取りまく土壌条件や気象条件が誘因となって発生する。例えば、アカシアマンギウムの場合、葉が大きく枝先が重いので、風当たりが強いところや台風が通過するところでは、風にゆすられて枝の基部に亀裂が入り、そこから本病菌の侵害がスタートし、まもなく太枝枯れや幹の胴枯れに発展する(図4)。赤道直下の比較的風の弱いところではよく生育する樹種でも、緯度が上がり、時に強い風の影響をうけるところでは、葉が大形で比較的枝の細いあるいは長く伸長する樹種はこのようなタイプの被害を受けやすい。アカシアマンギウムのほかに、キダチョウラクやチークなどが風の条件を考慮すべき樹種であろう。

土壌の肥沃度あるいは土地の凸凹による水分条件の良否なども早成樹種にとって樹勢に著しい影響を与える因子であり、生育の遅れるような環境下では本病の発生が多くなり、かつ癒合組織の形成が不十分で病勢の進展は急速になる。

乾季にも葉を落とさない常緑樹では、食葉性害虫の突発的大発生による被害を受けた場合、樹勢の低下による胴枯性病害の発生が後を追って始まることがあるので注意を要する。

図4 ポトリオディプロディア胴枯病によるアカシアマンギウム若齢造林木の被害

防除対策

新しい造林地や植栽園を作る時には、近在の既存の林地や園に本病を含めた胴枯性病害が発生していないかどうか、また、発生していた場合には、どのような樹種にどのような立地環境条件下で発生しているのかを聞き取り調査も含めて調べ、植栽樹種選択の参考にすることが望ましい。また、一般的に自分の関与する植栽地での病害発生報告を避ける傾向があるが、後々のことを考えるならば、なるべく詳しい発生情報を何らかの形で残すことが大切である。

参考文献

  1. 小林享夫(1994)「熱帯の森林病害」国際緑化推進センター
    https://jifpro.or.jp/publication/publication/textbook_06/

図表出典