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途上国乾燥・半乾燥地における家畜(牛、ヤギ、ヒツジ、ラクダ等)による食害

植林地で家畜による食害が発生する背景

途上国の乾燥・半乾燥地帯はもともと植生が乏しいと同時に、村落周辺地域では生態資源の収奪が進んでいるため野生の有蹄類の生息数は少ない。よって、村落周辺部で注意すべき食害は、家畜によるものである。

途上国の牧畜民や農耕民にとって牛、羊、ヤギ等の家畜は肉や乳等の食糧、皮革等の生活必需品を供給してくれる貴重な財産であり、特に牛は農民にとっては耕起のための動力源ともなる。ロバやラクダは乳の利用の他、物資の運搬手段としての重要な役割を担う。家畜を自然繁殖させ、放牧により共有地の植生を飼料として無料で利用できれば、必要労働力は少なくて済むうえ、非常に有利な富の蓄積手段となり得る。そのため土地の生産力を超えた過剰な家畜の保有と放牧が行われ、勢い共有地の植生の破壊を招く事態となる。例えばエチオピア国アムハラ州では、NGOや地方政府の関与により植林活動を行っているエリアは行政指導や村との取り決めによって家畜の放牧は違反行為となる上、それを取り締まるガード(監視員)を雇うことも行われているが、それにもかかわらず、村人が監視の目を掻いくぐって違法な放牧を行うことは日常的に散見される(JICA草の根技術協力事業 2009-2012年)。

家畜の摂食行動と食害の一般的状況

乾燥・半乾燥地帯の家畜はその所有者か所有者から委託された者が主に近隣の道路脇、川岸、丘陵地帯など共有地と思しき場所に連れて行き、放牧を行うことで飼養されることが一般的である。多くの研究が示す通り、家畜の種によって明らかに異なる摂食戦略がとられている。ウシや羊は地表レベルの特にイネ科草本を季節に関係なくよく利用する。ヤギとラクダはより高い所にある灌木や高木の葉などを選択する。

ヤギは苗木を根から掘り返す行動をとるため、ほぼ同サイズの羊と比較しても植林地での被害は大きい。さらに牛はヤギや羊と比較して体重が重いため、摂食量が多いことに加え別の問題を引き起こす。エチオピアのケース(MoA Ethiopia 2016)では乾燥地の丘陵地の植生回復を図る場合は、苗木の植栽と土壌流出防止用のストーンテラス(写真1)やマイクロキャッチメントの構築をセットで行うことを政府農業省から推奨されているが、体重が重い牛が植林地に侵入すると苗木を踏み荒らすだけでなく、これら構造物を軒並み破壊してしまうため、被害は甚大である。苗木の活着率は、気象条件、土壌成分の良否もさることながら、家畜の食害レベルが大きく影響する(緑資源公団 2001年)。

写真1.植林地の整備のために構築されたストーンテラス

対策

本稿の総論でも述べた通り、哺乳動物による樹木の食害を防ぐ手段として、先進国ではフェンスの設置、シェルターやガードの設置、化学的忌避剤の散布など、いわゆるバリアの設置を行う他、捕獲などによる生体数のコントロールを行うことが行われている(Trout, R & Brunt, A 2014)。しかし、途上国ではそれら手段をそのまま踏襲することは経済的にも資材の調達面でも困難と想定されるため、現地の実情に合わせて、低コストで手軽に調達できる手段を選択する必要がある。また家畜は人間の管理下にあるため、必ずしもフェンスの設置などの高コストな物理的手段に頼るのではなく、放牧の手法を制御することで一定の成果を上げることもある。その鍵は牧畜を「自然の植生のみに頼った土地収奪型」から「土地を保全し生産性を高める土地利用型」に転換し、放牧数に見合った飼料を確保することにある(緑資源公団 2001)。

参考文献