森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
熱帯泥炭土壌は、湛水状態にある湿地で、酸素不足による分解抑制により、樹木の遺体が泥炭として厚く堆積して作られたものである。熱帯には3000万〜4600万haの泥炭土壌が分布し、そのうち2000万haが東南アジアに分布している。泥炭土壌の厚さは1 mから場所によっては10m以上にも達する。樹木の遺体から作られた土壌であるから、有機物含量、炭素含量が多く、熱帯泥炭土壌は膨大な炭素ストックになっており、その量は83.8 GtC(838億炭素トン)と推定されている(Rieley et al., 2008)。
東南アジアでは、この泥炭土壌の自然植生は泥炭湿地林であり、湛水耐性のある樹木による森林が泥炭の上にできる。林床(森林の地面)には落葉・落枝・倒木といった植物遺体がたえず供給され、植物遺体は通常は土壌に棲む微生物により分解される。しかし常時水がたまっている湿地では植物遺体の多くが分解されずに蓄積して泥炭となっていくため、泥炭湿地林は持続的な炭素吸収源になっている。熱帯泥炭湿地林の泥炭堆積速度は毎年0.2〜2.6mm程度と推定されている(Page et al., 2004)。1mの泥炭が堆積するのには数百年から数千年かかる。
熱帯泥炭湿地は、その立地特性から農業開発が難しく居住する人も少なかったことから、熱帯最後の未開拓地として1970年代まで泥炭湿地林が残されていた。1970年代から、東南アジアでは泥炭湿地の大規模農業開発により森林の伐採と排水路の建設が行われるようになった。この時には水田化を目指していたが、微量養分の不足により米が実らないなど、泥炭土壌の特殊な性質を克服できずに開発が失敗し放棄された。近年は、オイルパームやパルプ用のアカシア等のプランテーション開発が、放棄された泥炭湿地を使ったり、新たに泥炭湿地を開発したりすることにより、その面積を拡大している。
これらの開発により泥炭湿地は排水され好気的な条件になり、泥炭が微生物の活動により分解され、大きな二酸化炭素放出源になる。熱帯泥炭土壌の開発(乾地化)による二酸化炭素放出の増加が20tCha-1y-1以上という非常に大きい値であることがモニタリングにより示されている(Nagano at al., 2013)。二酸化炭素は温室効果ガスであり、熱帯泥炭湿地からの二酸化炭素の放出抑制は、地球温暖化防止対策を検討する上で重要な課題である。また、開発に伴う火災により泥炭の焼失も起きており、さらに大きな二酸化炭素放出が起こっている。開発されて乾地化してしまった熱帯泥炭湿地の持続的な利用のためには、泥炭土壌を湛水状態に戻して二酸化炭素放出や火災を抑制し、湛水条件でも生育できる樹木を用いた森林を再生することが有効な方法である。また地域の社会経済を考慮すると、湛水状態の森林から持続的に収益が得られる土地利用方法であることが求められる。