長根苗

長根苗の発想・着眼点

乾燥・半乾燥地では、土壌表層の水分が欠乏ぎみであるため、植栽後に土壌深部に早くアクセスできる長根苗(long tap root)の優位性が古くから知られている(Smith, 1950, Bainbriadge, 2007, Canadell & Zedler, 1995; Padilla & Pugnaire, 2007)。

長根苗長根苗の発想・着眼点は、植栽時にある程度長い根を作っておけば、乾季に入った時点で根が土壌深部の水分にアクセスしやすく高い活着率が見込めるだろうというものである。

ミャンマーにおけるM-StAR長根苗の技術開発

様々なデザイン・サイズのコンテナによる長近苗試験(事例)

Maegth et al. (2013)は、少なくとも深さが1mあるものを長根苗(deep root)とみなしているが、それ以下の苗でもその優位性・効果が報告されているので、ここで紹介する。事例の多くは、近年普及しているコンテナ苗である。コンテナ苗は裸苗に比べ多くの長所を持っているが、その中でも育成期間を調節でき、土壌水分が多くある時期に移植できるという点では、乾燥地域において重要であると言える(Romero et al. 1986,  Bainbriadge, 2007)。

このように、深さを変えたコンテナを使って育てた苗木のフィールド試験はいくつか報告されているが、その直接的効果が長根苗によるものと明示しているものは多くない。熱帯樹種での乾燥・半乾燥地でのフィールド試験はほとんどなされていないのが現状である。

新たな長根苗コンテナの可能性

30㎝を超えるような長根苗の育苗には、これまで主にPVC管などが用いられてきたが、管から苗を取り出す際や取り出した苗の扱いで根を傷めやすい問題があった(東海林・阿部1997)。また、大型のコンテナ苗用セル(商品)もあるが、高価で固定サイズのため用途が限られている。宮崎県が開発したM-STARコンテナ(三樹、2013)は、単にポリエチレン製の蛇腹のシートを筒状に丸めて培地を充填するという非常に簡単で安価なもので、長さや径を自由に調節できる特長をもっている。また、シートの波形がリブの働きして根巻きを防止し、さらにシートを開くだけで根を傷めずに苗木が取り出せるため、植栽地までシート付きで運び、植栽時に簡単に外して根を傷めずに植えることができる。本事業ではこのMスターコンテナを用いて、ミャンマーの中央乾燥地において育苗と植栽の実証試験を行っているところである。

長根苗の課題

長根苗の利用で一番ネックになるのは、長く育てた根の苗をどのように植栽するかである。根は非常に繊細なので植栽時に主根が折れてしまうと枯死する可能性が高まる。また、数10㎝の細くて深い穴を掘るにも特別な機械が必要である。

また、一般的に長根苗は通常の長さのコンテナ苗よりもコストが高くなる。長近苗は、培地の量も多くなり、培地の量が多くなればそれだけ潅水量や施肥量も多くなることが予想されるからである。育成期間も長くなるかもしれない。長根苗による活着率向上による捕植コストと、長根苗にすることでかかる追加的なコストを比較して、前者の方が大きいようであれば長根苗を試してみる価値はあるかもしれない。

最後に、前述の通り植栽場所の土壌水分条件によって長根苗コンテナの深さを決める必要があるだろう。予め、植栽対象地の乾季における土壌水分がどのくらいの深さま安定的にあるか、予め把握しておく必要があるだろう。また、樹種によっては用意した深さのサイズでは根鉢ができずに長根苗が形成されない可能性もあるだろう。さらに、コンテナ容量は苗木の生育に大きな影響を及ぼすことが分かっているが、なるべく小さな径のコンテナで長根苗を育てたほうがコストの削減できる。よって、植栽場所の土壌条件および樹種に合わせた最適な長根苗コンテナのサイズ(長さ・径・その比)を予め試験によって選定しておく必要がある。

引用文献