森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
マルチングとは、苗木の根元周囲の地面を刈り取った草や小枝等の有機物、小石などで被うことをいい、マルチともいわれる。乾燥・半乾燥地の場合、地表からの蒸発を抑えることが主目的である。マルチングにより地面に直射日光があたらないようにし、地温の上昇を抑え、蒸発を遮断し、土壌をできるだけ湿った状態して苗木の活着や初期成長を促す。苗木周囲の雑草繁茂を防止し、雨滴による土壌流亡を抑制する効果も期待できる。マルチングは乾燥気候だけでなく、湿潤な気候でも行われる。
苗木の幹の根元を避け、周囲に平たく敷き詰める。マルチチングの材料は周囲で刈り取った草や枝、木質チップなどの有機物のほか、近くにある石を並べることもある。農業のようなポリエチレン等のシートも可能であるが、植林では良好な結果は少ないようである。
マルチングは施肥やマイクロっキャッチメントなどの集水技術と併用して行われることが多く、単独の効果を検討した例は少ない。インドの乾燥地では、Peltophorum pterocarpum, Eucalyptus camaldulensis, Acacia nilotica, Acacia planifronsの植栽時にヤシガラ繊維(Coir pith)と施肥を併用したところ、活着率の向上と初期成長の促進(18月の樹高が無処理より約2倍)が認められた1)。また、温帯の中国貴州省のポプラ(Populus deltoides × Populus nigraのハイブリッド)の植栽では、チガヤの青葉を2.5kg~7.5㎏/m2マルチングしたところ、マルチ量が多いほど土壌の有効性養分濃度が高くなり、ポプラの樹高も胸高直径も最大2倍になったという2)。Jiménez ら3)は夏に厳しい乾燥がある地中海性気候のスペイン南部で、耕作放棄地に植栽されたセイヨウヒイラギカシ(Quercus ilex)の成長を9年間にわたり調査した。初期の3年間は成長差がなく、その後、生存率と成長に差がみられた(図-1)。ここでは2種類のマルチ、a) マツの枝打ちチップを15cmの厚さに積む、b) 直径30㎝程度の大きな石を3個(合計36kg平均)を苗木の周りに置く、とc) 無処理を比較した。セイヨウヒイラギカシ矮性樹木なので、葉面積で成長を比較したところ、3年目以降、いずれのマルチング処理も無処理より有意に葉面積が大きくなった。9年目の生存率は処理aでは85%、bは78%、cは50%であった。土壌と葉の養分濃度に差は見られず、マルチングによる土壌水分等の環境改善の効果によるものと考えられた。また、スペインではFAOの報告もある4)。自然素材やポリエチレンシートなど複数のマルチ素材を試した結果、いずれの素材も植栽木の成長に効果があるが、ジュート麻で植栽時にマルチングすると、その後自然分解するので手間がかからずコストも低いと評価している。
湿潤熱帯の事例であるが、マレーシアでフタバガキ科の植栽にマルチングをしたが、特に顕著な効果はなかったという報告もある5)。
シロアリが多い地域では、枯草や木などでマルチングをするとシロアリを誘引するという議論がしばしばみられるが、シロアリの種類やマルチング材料によって結果は異なるようである。ケニアで試みた事例では、シロアリ害は認められず、草でも小石でも効果に差がなかったという6)。また、小石を利用する場合、日射が強いと熱せられた小石が地温を高くしすぎたり、熱くなった小石が苗に当たると熱害を引き起こす可能性があるので、置き方に注意が必要である6)。