コンテナ苗の技術

コンテナ苗とは

 

USDA(2014)によると、「コンテナとは、育苗容器培地を充填でき、排水性があり、植栽時に根を傷めずに取り外すことができる育苗容器」とある。よって、どんな形状のポットでもコンテナと言えるが、コンテナといえば、通常は、容器は細長く根が巻かないように誘導するリブやスリットなどが施され、空中根切りができるように底部が空いているものを指すことが多い。国内外で広く普及しているコンテナは、大きく分けて2つのタイプがある。ひとつは写真1のように、トレイに育苗用の孔(キャビティ)が格子状に配置されているマルチキャビティコンテナである。マルチキャビティコンテナは、各キャビティで育てた苗を単体で移動させることができないので、途中で育苗密度を変えることができない。もう一つは、写真2のように区切られたトレイに独立したセル(6 ~242 セル/トレイ)を立てて育てる方法(以降、セルコンテナと呼ぶ)で、セルをいつでも自由に移動することができるので、苗木の成長に合わせて育苗密度を容易に変えることができる。マルチキャビティコンテナは多数のキャビティに同時に培地を充填することが可能であるが、セルコンテナは一つ一つ充填する必要があり手間がかかる。

写真1.マルチキャビティコンテナ
Paper Packing Canadaより引用
引用元) https://paperpackagingcanada.org/renewable-trees/
写真2. セルコンテナ

コンテナ苗の特徴―ポット苗、裸苗との比較より―

コンテナ苗の特徴の1つは軽量で保水性の良いピートモスやココナッツピートといった有機培地を用いられることである。そのため、コンテナを腰高の位置に棚上げして育苗することができ、作業効率が高くなる。また、棚上げしたコンテナ容器の底は地面接していないので、容器底まで到達した根はそこで伸長がストップし、植栽して土壌に触れると、底で待ち構えていた根が下方向に素早く再伸長する(空中根切り)。また、根が容器内で根巻き(ルーピング)するのを防ぐために容器側面にはリブやスリットと呼ばれる構造が施されている。このように、コンテナ苗は根の健全な発達を促し、根が培地を抱えこんだ状態(根鉢)で培地ごと植栽することができるため活着率が高まり、植栽時期を広げることやせき悪な土壌条件下でも植栽を可能にしている(Romero et al. 1986)。

その他、コンテナ苗の特徴を他の苗と比較して下表にまとめる。

コンテナ苗 ビニルポット苗 裸苗
培地 容器が硬いので軽い繊維質の有機培地(ココナッツピート等)を充填できる 容器が柔らかいため一般に崩れにくい土壌を使用 容器を使わずに土壌に直接育苗
根の形状 容器側面にスリットやリブがあり、根はそこに達すると容器の下方向に容器底まで伸長し、空気に触れたところで伸長停止 容器の側面に沿って根が巻き、容器の底から出てしまうこともある 容器ではないので根は自由に伸長、ただし掘り出す際に根を傷めることがあり、植栽穴も大きくする必要がある
育苗時の作業の違い
  • 腰高(地面から離して育苗)にトレイを置くことができ作業がしやすい。
  • 水はけがよい培地や小さな容器では潅水頻度が高い
  • 除草が必要
  • 根が容器底から出たら、定期的に容器を移動させる必要(根切り)
  • 除草が必要
  • 植栽時の掘り出しが必要
植栽時の苗の重さ 培地が土壌より軽い 培地が土壌なので重い 培地を取り除くので非常に軽い。
苗畑から植栽地までの輸送 コンテナトレイで固定できるが、トレイを重ねるにはラック等が必要 箱や容器に入れるが不安定。重ねるにはラック等が必要 大量の苗をまとめて持ち運びできる
容器のコスト 容器は一般的に高価だが再利用できる。 容器は安価だが、再利用できない 容器は使わない

コンテナの形状やサイズの選択

コンテナの形状は、育苗中に培地が底から抜けにくいようにし、植栽時に根鉢が取り外しやすいようにするため、底に近づくにつれて少しずつ狭くなっている円錐型が一般的である。開閉できるセルコンテナの場合は、円筒状になっているものもある。

様々な大きさ(径と深さ)のコンテナが市販されているが、樹種や育苗期間によって最適なサイズのコンテナを選定する必要がある。小さいコンテナのほうが低コストで作業効率も上がるが、地上部は容器内で発達した根で賄える分しか成長できないので、容器が小さいと必然的に地上部が小さくなる。地上部があまりに小さい苗を植栽してしまうと、他の植物との競合に負けてしまう恐れがある。かといって、地上部を大きくするために、大きいコンテナで育苗すると、根鉢形成までに時間がかかってしまうこともある。コンテナ苗の育苗培地は有機培地なので、根が十分発達してその培地を掴みこんだ状態(根鉢形成)で植栽しないと、植栽時に崩れて根を傷めやすく、根鉢形成は重要なポイントである。樹種によって地上部と地下部の比が異なるため、小さなサイズの容器でも地上部が十分成長する樹種もある。また、植栽後の樹高成長が早い早生樹であれば、地上部が小さくても、根が十分発達した状態であれば植栽することはできる。このような育苗する樹種の特性から、必要最小限のサイズを選定する必要がある。

また、同じ容積でも浅いコンテナと深いコンテナのどちらがよいか検討する必要がある。径/深さ(細長い)が小さいほど、潅水直後に水が飽和する割合が小さくなり、排水性が高くなり、植物にとっては好条件である(Landis et al., 1989)。しかし、細長すぎると、通気性が悪くなり生育阻害が生じる(Marien and Drovin, 1978)。逆に、あまりに径/深さが大きすぎると根鉢の表面積/体積が小さすぎて根鉢ができにくいことも予想される。Dominguez-Lerena et al. (2006)によると、Pinus pineaに関しては深さと直径と比は4が最適とあるが、一般的には次のように考えられている(USDA, 2014)。

  • 分岐が多く、比較的浅い根系システムを形成する樹種は短いコンテナのほうがよい
  • 長い主根がある樹種は長いコンテナのほうがよい
  • 太い根や地下茎を発達させる樹種は、短くて径が大きいコンテナが適している

コンテナ苗の育苗時の注意点

コンテナ育苗で一番気を付ける点は潅水のタイミングである。コンテナ容器の容量は小さいことが多く、一度の潅水で保持できる水の量が少なくなる(培地の保水力や充填度にもよる)。培地にほとんど水が含まれていない時と潅水直後(圃場容水量)のコンテナの重さを予め確認しておき、育苗中のコンテナを持ち上げた時に、水がどの程度残っているか感覚で分かるようにしておく必要がある。潅水のタイミングは育苗段階によって異なる。苗床からコンテナに移植直後の小さい苗は根が未発達で、吸水量は少ないが、根が表層部にのみ発達している状態なので、コンテナ上半分の培地が乾いているようなら潅水したほうがよい。苗が成長し根が十分に発達すると、吸水も蒸散も盛んに行われるため、朝潅水してもすぐに培地がカラカラになることがある。地上部の成長をそのまま維持したい場合は、1日2回潅水する等して、なるべく水ストレスを与えないようにしたほうがよい。地上部が十分成長し、山出し(植栽)が近づいていれば、苗木の乾燥耐性を高める(ハードニング)ため、枯れない程度に潅水を控え、水ストレスを与えることで根の発達を促したほうがよい。潅水のタイミングは、経験が必要なので、初めてコンテナ苗の育苗をする場合は、なるべく潅水頻度を多くする(ココナッツピート培地場合、通気性は非常に高いので毎日潅水しても根腐れする樹種は少ない)のと、容積の大きなコンテナ苗を使うことを勧める。大きな容量のコンテナの方が成長や活着がよいという報告(Hsu et al., 1996, Matthes-Sears and Larson, 1999)もあり、コストは高いかもしれないが、育苗や植栽時のリスクが少ない(同じ容量のコンテナで育てた場合に、苗自体が大きいほど活着率が悪いという報告は存在)。

図 コンテナの径と深さの関係

参考資料

  • Dominguez-Lerena, S., Sierra, N. H., Manzano, I. C., Bueno, L. O., Rubira, J. P., & Mexal, J. G. (2006). Container characteristics influence Pinus pinea seedling development in the nursery and field. Forest Ecology and Management, 221(1-3), 63-71.
  • Hsu, Y. M., Tseng, M. J., & Lin, C. H. (1996). Container volume affects growth and development of wax-apple. HortScience, 31(7), 1139-1142.
  • Landis, T. D., & Nisley, R. G. (1990). The container tree nursery manual: Containers and growing media (No. 674). US Department of Agriculture, Forest Service.
    Romero, A. E., Ryder, J., Fisher, J. T., & Mexal, J. G. (1986). Root system modification of container stock for arid land plantings. Forest Ecology and Management, 16(1-4), 281-290.
  • Marien, J.N., Drovin, G., 1978. Etudes sur les conteneurs a paroids rigides. Annales des Recherches Sylvicoles. AFOCEL.
  • Matthes-Sears, V., Larson, D.W., 1999. Limitation to seedling growth and survival by the quantity and quality of rooting space: implications for the establishment of Thuja occidentalis on cliff faces. Int. J. Plant Sci. 160 (1), 122–128.
  • Wilkinson, K. M., Landis, T. D., Haase, D. L., Daley, B. F., & Dumroese, R. K. (2014). Tropical nursery manual: a guide to starting and operating a nursery for native and traditional plants. Agriculture Handbook 732. Washington, DC: US Department of Agriculture, Forest Service. 376 p., 732.
  • 森林総合研究所北海道支所(2012)http://www.pref.hokkaido.lg.jp/sr/srs/contena/konntenanaesono1.pdf
  • 森林総合研究所東北支所(2014)
    https://www.ffpri.affrc.go.jp/thk/research/publication/thk/documents/container_seedling.pdf
  • 遠藤利明と山田健
    http://www.rinya.maff.go.jp/j/kanbatu/syubyou/pdf/15-kontenanae_ikubyou_syokusai_manyuaru.pdf