獣害(総論)

獣害対策に必要な包括的な視点

日本では平成に入って以降、急激なシカの生息数増によって農業や林業に深刻な被害をもたらしていることが、よく知られている(環境省 2010)。日本を含む中緯度温帯の森林帯では哺乳動物による森林被害は造林地帯、天然林地帯を問わず、主にシカ等有蹄類、ネズミ・ウサギ等齧歯類、熊、猿などの野生動物によってもたらされる。被害のタイプは樹木の枝葉や種の採食、樹皮剥ぎ、傷付け、踏みつけなど多岐にわたる。加えて高山植物などの特定群落を消失させたり、下草の採餌によってそこを棲家とする生物の多様性喪失などの被害をもたらしたりしている(鈴木他 2014)。一方、もともと植生が乏しい乾燥・半乾燥地などでは牛、ヤギ、羊等の家畜による食害が占める割合が高い(緑資源公団 2001)。

哺乳動物による森林被害の防除策を立案する際は以下の3つのアプローチとその相互関係について理解する必要がある。すなわち①生息環境管理:生態系のバランスを保ち生物多様性 の維持・増大を目的とした自然環境の管理、②個体群管理:哺乳動物の生息環境の中で対象種の個体群を社会が望む適切な個体数や行動圏にすること、③その自然環境と個体群の条件の下で最も効率的に被害を許容限界以下にする被害管理(図1参照)。尚、これらの管理は独立しているわけではなく互いに関係している点に留意する必要がある。例えば,幼齢造林地を柵で囲むことは,造林木を守るという点では被害管理であり、シカの餌量の急激な増加を防ぐと言う意味では生息環境管理であり、生息できる面積の減少という点では個体群管理に当たる(高柳敦 2014)。

このようなアプローチ間の相互依存関係に加え、動植物間の相互作用も十分に意識すべき点である。とりわけ森林保護の分野では「害獣」「益鳥」といった評価が短絡的になされて来た面があることには改めて注意が必要である。例えばネズミ、リスなど一般には害獣とされる小哺乳類やカケス等の鳥類が貯食した種子が発芽したり、それらの消化管通過により発芽率が向上したりすることが知られている。多くの野生動物は森林の更新や生態系の維持に欠かせない相互補完的役割を担っているためである(高柳敦 2014)。

図1. 森林保護と野生動物管理における3つのアプローチ
出典:高柳敦「森林野生動物研究会誌 39. 2014」

参考文献

  1. 環境省. “特定鳥獣保護管理計画作成のためのガイドライン (ニホンジカ編).” (2010): 17-20.
  2. 鈴木正嗣.2013.野生動物の管理.野生動物学(村田浩一・ 坪田敏男,編),Pp. 273-285.文永堂出版,東京.
  3. 高柳敦「野生動物保全における必須対策としての被害防除」森林野生動物研究会誌 39. 2014
  4. 緑資源公団(2001)サヘル地域砂漠化防止対策技術集