発想・着眼点
熱帯地域の土壌は、高い気温により有機物の分解速度が速いため、腐植層が発達しづらく栄養塩の保持能力が低い傾向にある(1)。特にアフリカ大陸の22%(2)、サハラ以南のアフリカの13%(3)を占めるArenosolsは、砂質土壌で水分の保持能力も低いことから、その分布域では栄養塩と水分の双方が植物の生長を制限する要因となり得る。堆肥等の有機物の施用による土壌改良は、前述の分解の速さから効果時間が短いと考えられるため、難分解性のbiocharを土壌改良資材として用いることで長期的な効果を見込む。
方法
現地において利用可能なバイオマスを利用してbiocharを作成し、粉砕して植栽地の土壌にすき込む。biocharそれ自身は必ずしも栄養塩に富んだ土壌改良資材ではない(4)ため、同時に植栽地の造成時に発生した雑草木リター、緑肥、堆肥等をすき込み、栄養塩の不足を補うことが望ましい。
効果
biocharの土壌改良効果については、国内及び海外において多くの研究事例があり、保水性、保肥力以外にも、酸性土壌の矯正や土壌微生物相への影響等が確認されている(4)(5)(6)(7)(8)。
保水性については、実際にコンゴ民主共和国サバンナ地域においてbiochar(アカシア木炭)施用量の異なる土壌を採取し、十分に吸水させた後の保水性を比較したところ、biocharを施用した土壌では圃場容水量が増加し、土壌から水分が抜けていく速度も遅くなる傾向が確認された(下図)。
図 biochar施用量の違いによる土壌保水性の変化
利用上の注意
biocharによる土壌改良効果は、その原料や焼成温度(4)、また粒径によっても異なる(9)ことが知られている。想定通りの効果を得るためには、現地で利用可能なバイオマスから目的にかなう原料を選択し、目的に合った焼成方法と施用方法を検討する必要がある。
引用文献
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- Dewitte O., Jones A., Spaargaren O., Breuning-Madsen H., Brossard M., Dampha A., Deckers J., Gallali T., Hallett S., Jones R., Kilasera M., Le Roux P., Michéli E., Montanarella L., Thiombiano L., Van Ranst E., Yemefack M., Zougmore R. (2013) Harmonization of the soil map of Africa at the continental scale. Geoderma, 211-212: 138-153.
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