赤衣病

診断の要点

赤衣病は主に若木の枝幹に発生する。はじめ樹皮に淡褐色のやや陥没した病斑を形成し、これは急速に拡大して枝幹をひと巻きする(図1)。大枝や幹ではしばしば病患部の樹皮に亀裂を生じ、やや膨らんで粗造となる(図2)。やがて細い茎では病斑全面を覆って、大枝や幹では病斑の上下の縁に、淡桃白色の薄い膠上の菌糸膜を形成し、時に子実層や担子胞子の形成により、表面が粉状を呈する。病斑が枝や幹、茎やつるを一周すると、その上部はしだいに葉が黄化し、あるいは水分を失って萎れて枯れる(図3)。大枝や幹では枯死に至らなくとも、風によって病患部から折損することが多い。

図1 アメリカハナズオウの枝に発生した赤衣病
Florida Division of Plant Industry, Florida Department of Agriculture and Consumer Services, Bugwood.org. CC-BY 3.0

図2 赤衣病によるアブラギリの樹皮の粗造状態

図3 赤衣病により上部が枯死したアルビジア

本病の最大の診断特徴は、病患部全面を、あるいは病斑上下の縁の部分を覆って形成される桃白色の菌糸膜であり(図4)、これはのちの子実層と担子胞子の形成により粉状を呈する。

図4 赤衣病菌糸膜の断面

発生生態

本病は主として熱帯・亜熱帯地域で林木・果樹・鑑賞樹木・工芸作物などに発生し、胴枯性ないし枝枯性病害を引き起こす。担子胞子と分生子とも、雨のしぶきによる飛散(雨媒伝染)、強風による飛散(風媒伝染)と、昆虫などの体表に付着して運ばれる虫媒伝染により伝播する。

病原菌と病名

本菌はErythricium salmonicolor (Berk.et Br) Burdsallである。Corticium salmonicolor Berkeley et Broome、Phanerochaete salmonicolor (Berk. et Broome) Jülich.とも記載される。英病名はpink disease。病患部に形成される菌糸膜の色に由来する。

発生樹種と分布

わが国では従来、沖縄・鹿児島両県下の南西諸島のかんきつ類を中心に被害があったが、温帯の長野県や群馬県下のリンゴやイチョウをはじめとする様々な樹種における発生が知られるようになってきた。熱帯では、カシア・アルビシアなどの早生樹やマホガニ-・カカオなどの特用樹に被害が多い。

林木

アカシア(Acacia spp.)、アガチス(Agathis spp.)、ブキャナニア(Buchanania spp.)、モクマオウ(Casuarina spp.)、ヒョウタンノキ(Crescentia cujete)、スギ(Cryptomeria spp.)、カトンラウト(Cynometra ramiflora)、ジーリンギア(Deeringia spp.)コクタン(Diospyros philippinensis)、ユーカリ(Eucalyptus spp.)、イヌビワ・インドボダイジュ(Ficus spp.)、メキシコライラック(Gliricidia sepium)、ジャイアントイピルピル(Leucaena leucocephala)、アフリカマキ(Afrocarpus gracilior=Podocarpus gracilior)、ポプラ(Populus spp.)、テンジクヤナギ(Salix tetrasperma)、マホガニー(Swietenia spp.)、チーク(Tectona grandis)、チャンチン(Toona sinensis)、ホソバウラジロエノキ(Trema amboinensis)、ニンジンボク(Vitex spp.)など。

特用樹(つる性工芸作物を含む)

アブラギリ(Aleurites spp.)、ベニノキ(Bixa orellana)、ラミー(Boehmeria spp.)、チャ(Camellia sinensis)、センナ(Cassia spp.)、メキシコゴムノキ(Castilla elastica)、カポック(Ceiba pentandra)、シナノキ(Cinchona spp.)、ニッケイ(Cinnamomum spp.)、コーヒーノキ(Coffea spp.)、コラノキ(Cola spp.)、ハイトバ(Derris elliptica)、コカノキ(Erythroxylon novogranatense)、パラゴムノキ(Hevea brasiliensis)、キアイ(Indigofera spp.)、キャッサバ(Manihot esculenta)、インドクワ(Morus indica)、ゲッキツ(Murraya spp.)、ナツメグ(Myristica fragrans)、コショウ(Piper nigrum)、インドジャボク(Rauwolfia spp.)、カカオ(Theobroma cacao)など。

果樹

バンレイシ(Annona spp.)、パンノキ(Artocarpus spp.)、ゴレンシ(Averrhoa spp.)、柑橘類(Citrus spp.)、ドリアン(Durio zibethinus)、ビワ(Eriobotrya japonica)、リュウガン(Euphoria longana)、イチジク(Ficus carica)、マンゴスチン(Garcinia mangostana)、グネモン(Gnetum gnemon)、マンゴー(Mangifera indica)、サポジラ(Manilkara achras)、ランブータン(Nephelium lappaceum)、キンキジュ(Pithecellobium dulce)、スモモ(Prunus spp.)、グアバ(Psidium spp.)、リンゴ(Malus spp.)、セイヨウナシ(Pyrus communis)、キイチゴ(Rubus spp.)、クプル(Stelechocarpus burahol)、ミズフトモモ(Syzygium aqua)、ブドウ(Vitis Vinifera)など。

花木・緑化樹

アカリファ(Acalypha spp.)、ナンバンアカクロアズキ(Adenanthera bicolor)、オオアリアケカズラ(allamanda cathartica)、ヤブコウジ(Ardisia spp.)、ブーゲンビリア(Bougainvillea spectabilis)、セイヨウコバンノキ類(Breynia racemosa)、ヒメツゲ(Buxus microphylla)、ヒゴウカン(Calliandra spp.)、ムラサキシキブ類(Callicarpa albida)、アメリカハナズオウ(Cercis canadensis)、ヒギリ(Clerodendron spp.)、ヘンヨウボク(Codiaeum variegatum)、イトスギ(Cupressus spp.)、ハリマツリ(Duranta spp.)、デイゴ(Erythrina spp.)、マサキ(Euonymus japonica)、インドゴムノキ(Ficus elastica)、クチナシ(Gardenia spp.)、ハゴロモノキ(Grevillea robusta)、ブッソウゲ(Hibiscus spp.)、サンタンカ(Ixora spp.)、ジャスミン(Jasminum spp.)、トウネズミモチ(Ligustrum lucidum)、カラダネオガタマ(Michelia spp.)、ナンヨウザクラ(Muntingia calabura)、キョウチクトウ(Nerium spp.)、トベラ(Pittosporum tobira)、プルメリア(Plumeria capensis)、バラ(Rosa spp.)、カエンボク(Spathodea campanulata)、サンユウカ(Tabernaemontana coronaria)、ヒメノウゼンカズラ(Tecomaria capensis)、キバナキョウチクトウ(Thevetia peruviana)、ヤハズカズラ(Thunbergia spp.)など。

分布

  • アジア(アンダマン諸島、ブルネイ、カンボジア、中国、インド、インドネシア、日本、マレーシア、フィリピン、スリランカ、タイ、台湾、ベトナム)
  • オセアニア(オーストラリア、フィジー、ニュージーランド、パプアニューギニア、ソロモン諸島、サモア独立国)
  • アフリカ(カメルーン、コンゴ共和国、コートジボアール、ガボン、ギニア、ケニア、マダガスカル、モーリシャス、ローデシア、シエラレオネ、南アフリカ、タンザニア、トード、コンゴ民主共和国)
  • 北米(メキシコ、アメリカ)、南米(ブラジル、コロンビア、ギアナ、ペルー、スリナム)
  • 中米(プエルトリコ、トリニダードトバゴ)
  • 欧州(コーカサス)

防除対策

本病はきわめて多犯性の病害であるが、常にすべての植栽地や緑地に発生するというものではない。土壌条件、気象条件等の影響で宿主植物の成長が衰えるような環境条件下で、病気が発生し蔓延する。すなわち、土壌条件の良いところでは、一般に宿主の成長が旺盛で、病原菌の侵害による病斑が現れても、癒合組織の形成により病斑は速やかに閉塞して、拡大進展することはない。ところが土地の凸凹や水分条件などにより宿主の成長が遅かったり停滞気味のところでは、いったん発生した病斑の周囲での癒合組織の形成が緩慢で、病原菌は傷コルク層未形成部分から外部へ拡大進展し、病斑が枝や幹を一周し、上部を巻き枯らしにして枝枯れや胴枯れを起こし、樹冠の退廃から変形ないし枯死に至る。

宿主の授精を低下させる要因には、土壌条件(水分、栄養分)のほかに、乾季の長さなどの気象条件も加わり、とくに例年になく乾季の長い年、あるいは雨季の降水量が著しく少ない年には、常緑樹種において突如として本病が大発生する。不時の突発的大発生の場合は、気象条件の回復により、しだいに新たな発生は収まるのが普通であり、経過を見守りながら被害木の枝打ち、伐倒による除去を心掛けてゆけばよいであろう。これに反して、本病の常発地では立地条件を考慮した樹種転換を行ってゆく必要がある。

本病に対する薬剤防除の試みも各国で行われている。濃厚ボルドー合剤(硫酸銅200g+生石灰200g+水1.5L)の散布が有効であり、また幹部の削り取りと殺菌剤ペーストの塗布を組み合わせた外科手術が有効との報告がある。しかし薬剤防除は、集約栽培される工芸作物や果樹ではともかく、造林地では水の問題や経済的環境的観点から使用することが難しい。近年、果樹などではエルゴステロール生合成阻害剤(EBI剤)が用いられる。

参考文献

  1. 小林享夫(1994)「熱帯の森林病害」国際緑化推進センター https://jifpro.or.jp/publication/publication/textbook_06/