苗立枯病

発生樹種

立枯病とは苗の生育段階に応じて現れる、立ち枯れ被害の総称である。
全ての樹種に発生するといってよいが、一般には大粒の種子の樹種よりも微粒~中粒種子の樹種に多い。

アカシア(Acacia spp.)、カランパヤン(ラブラ、Anthocephalus chinensis)、モクマオウ(Casuarina equisetifolia)、ユーカリ(Eucalyptus spp.)、ジャイアントイピルピル(Leucaena leucocephala)、モルッカネム(Paraserianthes falcataria)、マツ(Pinus spp.)などが発生の多い樹種である。

診断の要点

苗畑で苗木を育成するとき、最初に遭遇する病気が苗立枯病である。この病気は、土壌中に棲んでいる病原菌によって起こされる。苗立枯病を起こす病原菌は一種ではなく、苗畑土壌中に常に複数の病原菌が棲んでいて、土壌条件や気象条件、苗の成長段階によって、主に関与する病原菌の種類が異なってくる。苗立枯病の防除の難しさの一つは「いま発生している被害の病原菌は何か」が外見からはわからないことである。

苗床に種子を播きつけてから掘り取り、山だしまでのいろいろな段階に苗立枯病の発生がみられるが、診断の基礎となる症状は次の5つのタイプに分けられる(図1)。

図1 苗立枯病のタイプ

1.地中腐敗(Seed rot, Preemergence rot)

このタイプは、播きつけた種子が病原菌に侵されて発芽せず終わるか、発芽して地上に現れるまでに侵されて枯れてしまうのものをいう。発芽しても地上に現れるまでに菌に侵されて枯れてしまう。その被害は発芽率の著しい低下、あるいは、苗床に未発芽個所が集団で現れるなどで気づくことが多い。もともと種子に付着していた病原菌類(Seed molds)が、菌に好適な環境を得て病原性を発揮する場合と、播きつけ床の土壌に生息している病原菌が苗に侵害する場合がある。

2.首腐れ(Top rot)

首腐れは、発芽して地上に現れた幼苗の子葉部分から変色が始まり、腐敗が進行して苗全体が枯れる被害である。苗がまだ地中にあるうちに子葉が感染し、地上に出てから病徴が現れたもので、地中腐敗の延長といえる。発生頻度は5つのタイプのうち最も少ない。

3.倒伏(Post-emergence rot, Damping-off)

倒伏は、発芽幼苗の根系の基部が侵されて地際部分が細くくびれ、苗がばたばたと倒れる被害である(図2)。苗立枯病といえばこの倒伏型の病気というほど発生頻度が高く、典型的な被害である。いったん発生すると集中的に被害が生じ、倒れた苗は短期間に腐敗消失するか、乾いて糸のように細くなる。このため、箱播きで発生すると一箱が全滅することもまれではない。直播床に発生すると、あちらこちらに大小の円状の裸地ができる。

図2 ケシヤマツ直播苗立枯病

4.根腐れ(Root rot)

苗が少し大きくなり、主根や地際の茎が木化して侵され難くなると、変わって現れるのが根腐れである。細根が侵されるようになり、しだいに根系全体に波及し、苗の地上部が徐々に水分を失って衰弱し、ついには枯れたり赤くなったりして枯れる(図3,4)。枯れないまでも苗木が委縮して著しい生育不良となる。被害は慢性的にだらだらと発生するが、最終的には得苗率の著しい低下を招き、山だし植栽計画に大きな支障を与える。乾燥や高熱あるいは過湿など水分管理に手落ちがあると、苗が生理的に衰弱をきたし、根腐れ被害は著しく助長される。

5.すそ腐れ(Foot rot)

苗木の地際から5~10㎝ほど上のところで茎が環状に侵され、そこから上部が萎びて枯れる被害である。雨や灌水による泥はね(土ばかま)により土壌中の病原菌が木化していない茎の部分を侵すために発症する。このタイプの被害発生頻度は根腐れ型に比べると低く、ポット苗よりも直播とこの方が発生は多い。樹種によってすそ腐れ型の被害の発生時期は異なる。

図3 カメレレポット苗の苗立枯病

図4 ケシヤマツポット苗の苗立枯病

病原菌と被害

上記の被害型に関して、「苗立枯病(Damping off)」というのは幼苗時代に発生する1~3のタイプの被害をさし、4,5のタイプの被害はそれぞれ根腐病、すそ腐れ病という独立した病気であるということもできる。確かにタイプ1~3と4~5では病原菌が異なることが多い。

わが国では苗立枯病といえばリゾクトニア菌(Rhizoctonia solani)、フザリウム菌(Fusarium spp.)、シリンドロクラジウム菌(Cylindrocladium scoparium)の3属菌が主な病原菌であるが、熱帯・亜熱帯地域では若干事情が異なる。上記3属に加え、さらに鞭毛菌の仲間であるピシウム菌(Pythium spp.)や疫病菌(Phytophthora spp.)による被害の多いことが特徴である。タイプ1~3の幼苗段階の被害は主としてリゾクトニア菌、フザリウム菌、ピシウム菌が関与し、タイプ4~5の大きくなった苗木の被害は、主としてフザリウム菌および疫病菌が関与する。なお、タイプ1のうち、もともと種子に付着していた菌類による種子の腐敗においては、フザリウム菌、リゾクトニア菌、ピシウム菌などの苗立枯病のほかに、炭疽病菌(Colletotrichum spp.)灰色かび病菌(Botrytis cinerea)ボトリオディプロディア病菌(Botryodiplodia theobromae)なども関与して被害を及ぼす。

防除対策

苗立枯病の防除(予防と駆除)は環境制御(育苗管理)と薬剤防除の二つをうまく重ね合わせて初めて成功する。

育苗管理

  1. 箱播き、床播きともに厚播きを避け、発芽後の密度調整が遅れないよう留意する。
  2. 箱播き苗をポットに移植するにあたっては、苗を傷つけないよう注意する。
  3. 水分過剰を避け、乾季に育苗する場合は特に極端な乾湿の反復にならないようにする。
  4. 窒素質肥料の過多をさける。
  5. 除草が遅れないようにする。
  6. 土壌酸度が中性~アルカリ性のところでは弱酸性(pH5)程度に調整する。
  7. 幼苗期は日光の直射を避け、日除けをする。
  8. 地温が30℃を超えて上昇する場合には、散水と日除けにより地温の低下を図る
  9. 土がはねないよう散水には注意する。
  10. 過湿で重粘な土壌では、おが屑を土壌に3:1の割合で混入し、乾燥と通気性を改良して成功した例がある。

薬剤防除

種子消毒

チウラム剤(thiram)かチウラム・ベノミル混合剤(thiuram×benomyl)の粉衣(Coating, Dressing、種子重量の0.5~2%)、あるいはそれらの250倍液に一晩浸した後、陰干ししてから播きつける。メチルセルロース系の化合物(methyl-cellulose compound)を種子に固着させて(Peletting、粒剤化)播きつける方法もある。

土壌消毒

箱播き用土壌および播きつけ床の土壌を滅菌する。箱播き用や小規模な苗畑では、鉄板上で土壌を焼いて無菌化するのが(soil burning、焼土法)もっとも簡単で効果が高いが、大規模な苗畑には適用しにくい。焼土により無菌化した土壌に苗立枯病菌が飛び込むと、競合する微生物がいないため汚染が急速に進み、播きつけ苗が壊滅的な被害を受けることがあるので注意する。

土壌消毒用の薬剤では、クロルピクリン(chloropicrin)、カーバム剤(carbam)などのガス燻蒸剤を注入し、ビニールで被覆する燻蒸処理(soil fumigation)が最も効果がある。ガス燻蒸剤は床面30cm千鳥間隔で深さ15cmの穴に原液3mlを注入し、土でふさぐ。ビニールによる被覆のかわりに散水による水封も可能である。ただし、これらの薬剤の毒性は強く、気温の高い熱帯では原液がすぐ気化するので、作業には注意が必要である。播種の2週間前に処理しておかないと薬害が生じる。

他にチラウム剤、キャプタン剤(captan)などの250~400倍液を1m2の床面に3~8リットル潅注するする方法がある。

立毛処理

苗が発芽した後に苗立枯病が発生した場合、蔓延阻止のため薬剤を潅注する。チウラム剤、キャプタン剤、ヒドロキシイソキサゾール剤(hydroxy isoxazole)、PCNB剤(pentachloronitrobenzen)などが用いられる。このうちヒドロキシイソキサゾール剤はフザリウム菌のみに、PCNB剤はリゾクトニア菌のみに選択的に効果のある薬剤である。

参考文献

  1. 小林享夫(1994)「熱帯の森林病害」国際緑化推進センター https://jifpro.or.jp/publication/publication/textbook_06/