森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
母樹から切り取った幹、枝又は穂を直接林地に挿し付けて不定根を発芽させ、独立の林木に育て成林させる方法。苗木作りを省略し、苗木を用いた造林方法と比較して簡便に植林でき、省力的な造林手法の一つ(大分県, 2011)。日本ではスギ、ヒバ、中国ではポプラ属(Populus spp.)やヤナギ属(Salix spp.)、アフリカではシバカ(Ficus thonningii)、東南アジアではグリリシディア(Gliricidia sepium)等の直挿し造林が実施されており、主に生垣や境界柵等に用いられている。
Hibiscus tiliaceusの直挿しの場合は、20~45cmの長さで直径が1-3cmのものが推奨される。ただし、生垣の場合は、2~3mの長さのものを用いて、約1/3を地中に埋める(Plant Use, 2015)。
直挿し造林用の挿し穂はであり、挿し穂の年齢、規格、健康レベル、および採集時期が造林の将来に与える影響は大きい。造林地は水分が豊かな土壌および粘壌がよい。乾燥した土壌の挿し穂は活着しにくいため、このような立地条件で造林する場合は、降水が十分な雨季を選ぶか、または灌漑環境を整えなければならない。重粘質土壌の挿し穂は発根が悪く、水分の浸透が劣ることで、挿し穂の腐乱を招く可能性がある(JICA, 2010)。
一般的には、2~4 年生で直径約3~5cm の枝と幹を2~4m に切って使用する。挿し込む深さは約1m。挿した穴に土をかけ、踏み固める。灌水環境があれば、さらによい。深く植えた幹の切り口が地下水を直接吸収し、幹の下端が水分で潤った土層にあるため、発根が早まり、活着率も高く、勢いよく育つ(JICA, 2010)。
以下の樹種について、幹、枝又は穂の直挿し造林が可能である(樹種名:実例、文献等)。
Caliandra calothyrsus | 熱帯地域 |
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Ficus属 | インドネシア、西ジャワ |
Ficus thonningii | エチオピア(Mulubrhan, 2018) |
Gliricidia sepium | インドネシアの様々な場所 |
Gmelina arborea | 熱帯地域 |
Hibiscus tiliaceus | インドネシア、西ジャワ |
Lannea coromandelica | インドネシア、西ヌサテンガラ |
Peronema canescens | インドネシア、東カリマンタン |
Populus deltoids | 中国湖北省 |
Populus maximovwiczii | 中国湖北省 |
Pterocarpus indicus | インドネシア、南カリマンタン |
Salix matsudana | 中国、内蒙古自治区(新村・張, 1994) |
Hibiscus tiliaceus | インドネシア、西ジャワ |
大型挿し穂は、生存率が高く、造林後の下刈り等、育林経費の省力化の面においても有効と考えられる。一方、大型穂を利用する場合、挿し付け深さが通常よりも深くなるため、立地的に表層土が浅い場所や、石礫土質の場所では挿し付けが困難になるため、立地や土壌条件による制約を受けるものと考えられる(山田, 2010)。
なお、直挿し造林の成功は、土壌水分と湿度に大きく左右される。その条件が現場で確保されるとは限らないので、注意が必要である(Martin, 1992)。