苗木への施肥

苗木の肥培管理

ポット育苗の場合には、ポットに用土を入れるときに少量の有機肥料や化成肥料を加えたり、また育苗期間中に少量の追肥を行ったりすることもある。裸根苗の場合には、苗床を作るときにあらかじめ堆肥などを加えておくのが普通である(浅川 1992)。

写真1.化成肥料

有機肥料と化成肥料

肥料には有機肥料と化成肥料とがある。有機肥料は、動物又は植物の廃棄物並びに天然の無機肥料(リン鉱石、チリ硝石からなる硝酸ナトリウム、硫酸マグネシウム及びSul-Po-Mag等の天然鉱物がある)がある。化成肥料は、化学的に生成される肥料である。有機肥料と化成肥料の特性を比較すると下表の通り(Wilkinson et al. 2014)。

表1.有機肥料と化成肥料の特性比較
項目 有機肥料 化成肥料
無機栄養素 少ない 多い
無機栄養素の範囲 全て含む 一つかいくつか
栄養放出速度 遅効性 速効性
有効微生物との共存 可能 低いレベル
費用 高い 安い
取り扱い かさばる 集約的
生態学的持続性 あり なし
水汚染リスク 低い 高い
その他の便益 土壌構造の改善、土壌微生物の増強 研究用に適する

苗木への施肥量及び施肥方法

肥料の施用量は、栽培されている環境や、コンテナの容量、培地の種類、灌漑頻度などの他の栽培要因によって異なる。特に、容器のサイズは、最良の施肥量およびタイミングに大きな影響を及ぼす。非常に小さいコンテナは少量を頻繁に施肥する必要があるが、大きいコンテナは多量を少ない頻度で施肥することができる。ほとんどの肥料製品では、製造業者がパッケージラベルにコンテナ苗への一般的な推奨適用率を提供している。さらに、実験、他の栽培者との協議、記録等を通して、施肥率を改善することができる。

施肥のタイミング

泥炭からなるバーミキュライト培地のような人工生長培地は本質的に肥料分が乏しいために、苗木や挿し木が移植されるとすぐに施肥が必要である。しかし、培地の中には、肥料分が含まれているものもあるので、必ず説明書を確認すること。堆肥や他の有機肥料が添加された自家製の土壌混合物は、直ちに施肥する必要はないかもしれないが、苗木の成長を観察し、成長を確保するために追肥が必要かもしれない。

苗畑では、苗木の成長率は施肥レベル、特に窒素によってコントロールすることができる。 苗木はより多くの栄養素を取り込むので、成長速度は急速に上昇して臨界点に達する。この量以上に肥料を増やしても苗木の成長は増加しない。ただし、植栽後にも肥料分が使えるように多少余分に肥料を入れる。しかし、過度の施肥は苗木の成長を低下させ、最終的には毒性をもたらす。

いくつかの熱帯植物種は肥料をほとんど必要としないが、その他の種は良好な成長率を確保し目標に達するために窒素で成長を促進しなければならない。小さい種子は発芽直後に貯蔵された栄養素を消費してしまうが、大きい種子はより多くの栄養分を含み、すぐに施肥する必要はない。なお、成長期の早い時期に過剰に施肥することは、根系に窒素固定根粒または菌根を確立しなければならないマメ科植物および他の種に有害であり得る。

一般に、目に見える症状が現れる前に苗木の成長速度が遅くなる。不十分な状態の後に施肥しても、成長が再開するまで数週間かかることがあるので、速やかな施肥が必要である。異なる栄養素の欠乏が類似の特徴的な症状を有し、種間で症状の変動があるので、葉の特徴に基づいて栄養素の欠点の症状を評価することは専門家にとってさえ困難かもしれない。さらに、クロロシスなどの典型的な葉の症状は、熱傷や根の病気などの栄養ストレス以外のものによって引き起こされる可能性がある。
なお、症状の出る葉の位置は欠乏要素の診断に有効である。例えば、窒素は植物内で非常に移動性があり、窒素が制限される場合には新葉に窒素が提供される。したがって、窒素欠乏は、新葉よりむしろ古い葉で黄色を呈する。逆に、鉄は植物中では非常に移動しづらいため、欠乏の症状は、古い葉より新葉に最初に現れる。

成長期に関する作物のモニタリングとテスト、経験、知識は、施肥のタイミングと施肥量を決定する最良のガイドとなる(Wilkinson et al. 2014)。

苗木の成長過程に基づく施肥必要量

苗木は、各成長過程で異なる栄養素が必要であることを認識し、それに応じて施肥方法を調整する必要がある。この調整は、植物の成長と発育の主要な要因である窒素(特にアンモニウム態窒素)にとって特に重要である。

表2.各成長過程における必要栄養素
苗木の成長過程 窒素 リン酸 カリ
確立期 高い 低い
急速成長期 高い
硬化処理期 低い 低い 高い

参考文献

  1. 浅川澄彦 (1992) 熱帯の造林技術. 熱帯林造成技術テキスト No.1. 国際緑化推進センター.
  2. Wilkinson KM, Landis TD, Haase DL, Daley BF, Dumroese RK (eds) (2014) Tropical Nursery Manual: A Guide to Starting and Operating a Nursery for Native and Traditional Plants. USDA Forest Service. Agriculture Handbook 732.