苗木の必須栄養素

育苗における栄養素の必要性

植物は、光合成などの基本的な生理学的プロセスに適切なバランスで適切な量の無機栄養素を必要とし、成長と発達を促進する。無機栄養素が十分に供給されなければ、成長は遅くなり、植物の活力は減少する。若い植物では、種子内に貯蔵された無機栄養素が急速に枯渇する。挿し木は限られた栄養分しかない。したがって、苗木は培地から根を通して栄養素を取り込まなければならない。適切な量で適切な時期に栄養素が供給されると、苗木は最適な成長を示す(Wilkinson et al. 2014)。

必須栄養素

13のミネラル栄養素は、植物の成長および発育に不可欠であり、植物組織中の量に基づいて多量必須元素および微量必須元素に分けられる。

多量必須元素
元素 構造的機能 生理的機能 欠乏症状
三要素 窒素
(N)
葉緑素、アミノ酸、タンパク質及び核酸の構成要素 生長量に比例して必要であり、不足すると生育が著しく阻害。半面、過剰な吸収は作物体を軟弱にし、病気に対する抵抗力が低下。 ・下葉が黄化し枯れ上がる。
・植物体全体が淡黄色化。
・生長点の葉が小さくなる。
・根の発達、伸長が鈍化
リン酸
(P)
細胞壁及び核酸の構成要素 エネルギー転流に用いるATPの原料となる。植物体内では移動が活発で、重要な代謝作用を行っている部位に多く存在。 ・植物体葉色が光沢の少ない濃緑色または赤紫色になる。
・新芽やランナーの発生・生長が顕著に低下。
・生長点の葉が小さくなる。
・根毛が粗大になり、発育不良となる。
カリ
(K)
特になし 光合成における光リン酸化反応においてATPの生産を促進。さらに作物体内の蛋白質や炭水化物の合成移動を助け、植物体内の浸透圧調整役。 ・欠乏症状は一般に下葉より発生、上葉に及ぶ。
・下葉が白色化。
・葉縁より黄化し、その後縁枯れを起こす。
・葉面に不規則な大型斑点(白色/褐色)を生ずる。
・葉脈が赤紫色になる。
その他 石灰
(Ca)
細胞壁の構成要素 葉に多く存在し、代謝作用時の有機酸の中和を助ける。また体内の糖の移動に強く関与しこれが不足すると、葉でできた炭水化物の移動が妨げられる。 ・生長点が白色化。
・根は細根の少ない太い根を生じる。
・根の生育が抑制され、根腐れが生じやすい。
苦土
(Mg)
葉緑素の構成要素 苦土が不足すると緑色から黄色くなり、光合成が減じる。また苦土は作物体内での燐酸移動を助ける役目があり、不足すると細胞分裂の盛んな生長点に燐酸が運ばれず生育が悪くなる。 ・下葉から現れる。
・葉緑素の形成が阻害され葉脈間が黄化。しかし、窒素欠乏と異なり、葉脈部分の緑色が残るのが特徴。
・黄化部の壊死は起こりづらい。
・カリの多用は苦土欠乏を助長する。
硫黄
(S)
タンパク質の維持、ビタミン及び補酵素Aの構成要素 植物体内では蛋白質のような有機態の硫黄(S)で存在するほか、相当量の硫黄が、無機態で存在し酸化還元系に関与。 ・窒素欠乏に似ており、下葉が黄化し、枯れ上がる。
微量必須元素
元素 構造的機能 生理的機能 欠乏症状

(Fe)
葉緑素の製造に必須 酸化還元反応に関与し、呼吸の際、酸素の運搬を行っていると推測。代謝作用ではこれが不足するとタンパク質の合成が阻害され、作物体内に可溶性窒素が溜まり病気にかかりやすくなる。 ・植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。
・葉緑素の生成が妨げられ、生長点が黄白色化する。
・褐変・壊死は起こりづらい。
マンガン
(Mn)
リボソームの構成要素 光合成、特に酸化還元反応での酵素の中心元素として働く。緑葉に含まれる総量のうち60%近くが葉緑体中に存在しており、水の光分解の過程でも働いている。アルカリ環境下では酸化されて欠乏症が出やすい ・植物内で移動しづらいが、欠乏症は光合成が盛んな成葉、又は下葉に現れる。
・葉緑体の構造が壊れ、汚れた色調の黄化や、葉脈間に白色化が小斑点となって現れる。
亜鉛
(Zn)
酵素の要素 植物ホルモンであるオーキシンの代謝、淡白質の合成に関与。高pHや、リンが多量にあると、吸収されにくくなる。 ・植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。
・若い葉の生長が著しく阻害され、節間が短縮し、小さい葉が密集したロゼット状の植物体になる。

(Cu)
タンパク質及び酵素の構成物 葉緑体中に多く、光合成や呼吸に関与する酵素に含まれ、鉄と同様に特に呼吸作用に重要な役割を担う。また、傷害を保護する酵素との関連がある。pHが高くなると土壌がCaを固定する力が強まるため、植物の吸収阻害が起こる。 ・植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。
・生長点の白色化
モリブデン
(Mo)
酵素システムの要素、特に窒素吸収 硫酸還元酵素(硝酸を窒素にする)の構成金属として、窒素代謝に役立つ。 ・窒素代謝が阻害され、窒素欠乏になる。
ホウ素
(B)
特になし 細胞壁生成に重要な役割を持つ。また、リン酸と似ており、糖などの有機物の水酸基とエステル結合を作ることにより、様々な 糖代謝と関係を持つ。pHが高いほど吸収が阻害。 ・植物内で移動しづらいため、欠乏症状は新芽に現れる。
・塊茎、塊根、球根など、急に肥大する組織で現れやすい。
・生長点に黄化や白色化が見られる。
塩素
(Cl)
特になし 光化学系Ⅱにおける酸素発生に関与。 ・生長点の小葉がしおれ、生長が阻害されることに始まり、さらに進むと 白色化する。
・根が太く短くなる。

参考文献

  1. 浅川澄彦 (1992) 熱帯の造林技術. 熱帯林造成技術テキスト No.1. 国際緑化推進センター.
  2. Wilkinson KM, Landis TD, Haase DL, Daley BF, Dumroese RK (eds) (2014) Tropical Nursery Manual: A Guide to Starting and Operating a Nursery for Native and Traditional Plants. USDA Forest Service. Agriculture Handbook 732.