森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
植物の繁殖のための種子の収集は、遺伝的劣化および種の損失等の傾向を逆転させる機会である。 苗畑は、天然植物の遺伝子プールを保存する上で重要な役割を担っている(Wilkinson et al. 2014)。
これまで熱帯・亜熱帯の人工造林は著しく外来樹種に依存してきた。このため、履歴のはっきりした種子を世界的な規模で収集・供給する体制の必要性が早くから認識されていた。このような事情を背景に、遺伝資源の保全という視点も考慮して、有用な熱帯樹種について、履歴の明確な種子を国際的に収集・貯蔵・供給するいろいろな組織が作られてきた。
一方、熱帯の重要な樹木にもフタバガキ科(Dipterocarpaceae)樹木の種子に代表されるように貯蔵の難しい種子があり、できるだけ手近で採取し、それらを供給する体制を作っておくことが理想的である。
林木種子について採取・調製・貯蔵・供給体制を揃えた各国の組織や、各地の信頼できる種子取り扱い業者に連絡を取って、産地がはっきりした良質の種子を入手することが大切である(浅川 1992)。
植栽樹種について、植栽予定面積を考慮して所要の種子量を求め、それらの調達計画を作成する。当該国にすでに種子の供給体制が確立している場合には、計画に従って担当の組織に種子の分与を依頼する。そのような体制がまだ確立していない国では、次の順序で調達を進める(浅川 1992)。
当該植林プロジェクト内および周辺の林地を含めて、主要な造林樹種の優良林分の所在を調査して、それらの所管を確認して種子採取の可否を交渉する。採取が可能であれば採種源として記録する(浅川 1992)。
被子植物の果実は乾果、湿果に大別される。乾果は、閉果と裂開果に分けられている。閉果には、翼果(または翅果)、堅果、痩果、閉莢果がある。裂開果には、蒴果、袋果、豆果がある。一方、裸子植物の果実は球果と多肉果に分けられる(浅川 1992)。
主要な樹種については、開花・結実期とくに種子の成熟期・飛散期などを前もって調査しておく。それらを参考にして、採種源として登録してある林分については、定期的に開花・結実の状況を調査して適期に採種する。開花・結実期は同じ国でも地域によって異なるし、その年の天候によっても異なるが、とくに熱帯ではまちまちなので注意が必要である(浅川 1992)。
種子の採取方法は、①地上に落ちたものを拾い集める樹木群と、②枝からもぎ取る樹木群に大別される。①は、成熟すると間もなく地上に落下する大型の種子(果実)をつけるものである。一方、②は、蒴果に細かい種子が入っているユーカリ類、成熟するとサヤが割れて種子がこぼれ落ちるマメ科の樹木、成熟すると果実が開いて小型の種子が自然に落ちるマツ類、モクマオウ、バルサ等および地上に落ちるとすぐに果肉が腐る中~小型の核果を着けるサクラ属樹木などがある。①は、げっ歯類(ネズミ等)や昆虫の食害を受けないうちに、またあまり濡れないうちに拾い集める必要があり、②は種子が落ちないうちに、また核果では果実が落ちないうちに少し早めに採取する必要がある。ただし、木が高くなるともぎ取りは困難になるので、可能な場合には木に登るか、木を倒してもぎ取る(浅川 1992)。
マツ類の種子の採取適期を調べるためには、時々球果を採取して中の種子の色を調べ、色が褐色か黒味がかっていれば本格的に採取することになる。ユーカリ類では果実の色が真緑から淡緑色になったら採取してよい(山手, 1993)。