森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
大規模な苗木生産を行う場合には、中核的な大面積苗畑、わが国でいう固定苗畑を造成することもあるが、主に苗木の輸送の便を考えて、植栽予定地の近くに、周辺の植栽を行う間の小型な暫定的な苗畑、現地でいう補助苗畑、わが国でいう移動苗畑を作ることが多い(浅川 1992)。
多年にわたって相当な本数の苗木を供給する予定がある場合に、その期間の造林予定地域のほぼ中央に造成される苗畑で、種子の調整から苗木の養成に必要な施設を整備するのが普通である。
限られた植栽予定区域に苗木を供給する目的で、数年の予定で開設される臨時の苗畑で、施設は必要最低限とし、その区域の植栽が終了したあとには閉鎖される。
一方、村落林業などで地域レベルの植樹・植林を行う場合には、普及組織を編成して育苗を行う態勢を整え、地域の小・中学校、教会、さらには有志のモデル農家やグループなどで、ごく小規模の苗畑を造成し、そこで必要な苗木の育成を行う。
苗畑立地の選定にあたって重要な用件は、水源、利用可能面積、土地の所有関係、公道への位置、交通の便などである。
年間を通して育苗に必要な推量が保証されるような水源が近くにあること。できれば、水源から重力で水をひける、つまり高低差で水がひけることが理想的である。乾季がある地域では、年間の水量の変動が大きいので、乾季の終わりにも十分な水量があることを確認してから水源を決めることが安全である。ただし、水路を作設する場合には雨季の状況も予想しておかないと、豪雨によって氾濫することがあり、苗床が冠水して思わぬ被害を蒙る恐れがある。
また半乾燥地で、差質土壌のために乾季には完全に伏流水になるようなところでは、河床を掘って水を得なければならないが、このような場合には、塩類濃度が著しく高いことがあるので、とくに水質には留意する必要がある。なお、塩類濃度は電気伝導度(electric conductivity, EC)で判断できる。簡易なECメーターがあるので、用意しておくと便利である。農作物潅漑用の水質基準は2mS/cmとされているが、林木の苗木でも、潅水用の水質基準は2mS/cm以下のほうがよく、ECがこれより高い場合にはECの低い水で薄めるなどの対策をとる。
年間の植栽予定本数を生産できるだけの十分な面積があること。苗木はポット又はコンテナで育てられるため、わが国のように裸根苗を育てる方式に比べると苗畑の面積は一般に小さい。
生産する苗木のタイプと苗畑の規模について、ポット育苗の場合には、裸根苗の場合に比べて1/10~1/4の面積ですむ。つまり、100万本のポット苗を生産するには約1haの面積が必要であるが、この面積は樹種によって加減する必要がある。ユーカリ類や他の広葉樹の場合には、葉が広がるので、マツ類等の針葉樹に比べて少なくとも約5割増しに見込む必要がある。
裸根苗や根株苗(スタンプ苗)を育成する場合には、休閑地をとれるように余分を見込んでおく。また、いろいろな施設を付属する場合には、その分の面積も加えておくことが必要である。
固定苗畑は公道に沿った場所に選ぶ。苗木を植栽地に運搬する距離をできるだけ短くするため、とくに補助苗畑はそれぞれの植栽予定区域のなるべく中心に開設する。
固定苗畑は平坦地に造成するほうがよいが、この場合には豪雨に備えて排水溝をできるだけ整備する。雨の多い湿潤熱帯では、排水性を考慮し、固定苗畑も緩傾斜地に造成する方がよいという意見もある。補助苗畑はむしろ緩傾斜地に造成する方がよく、豊富な水源が斜面上にあって、土壌が適度に粘土質であれば、高低差によって水路潅水が可能である。
近隣でポット用土を採取できることが望ましい。ポット用土は苗木とともに植栽地に持ち出されるので、毎回新たに採取することが必要である。
ポット苗を育成する場合には、保水性を考慮し、粘土質の方がよいくらいであるが、裸根苗を育成する場合には、排水性を考慮し、物理性の優れた土を選ぶことが必要である。
常風・季節風が強いところで、地形が起伏に富んでいる場合には、風を避けることができるような地形を選ぶ。平坦なところでは、あまり樹高が高くならない樹種で防風林または防風樹帯を造成する。なお育成する苗木の病気の中間宿主になる可能性のある樹種は避ける。