森林再生テクニカルノート(TPPs)は、途上国の劣化が進んだ森林や開発後に放棄され荒廃した土地等において、効果的な森林の再生に大きく貢献する技術集です。
くもの巣病は、苗の密度が高密度の状態のとき発生しやすい。例えば、箱育苗で播きつけ密度が高すぎて、あるいは、ポット移植が遅れて、稚苗・幼苗が密生し箱の土壌が覆い隠されるような状態になったとき、また、ポット移植後ないし直播育苗で苗木が成長して床面がすっかり覆われるような状態になったときに発生する。病原菌の菌糸が土壌から苗木の茎を這い上がって苗の内懐の枝葉に絡みつき、緑色の枝葉がしだいに萎れ、灰褐色になって枯れる。このため、箱播きに発生すると、数日のうちに一箱全滅の憂き目にある。直播床でも、ポット育苗でも、発生すると病勢の進展は速やかで、放置すると苗床に団地状の枯死ないし瀕死の感染中心ができ、次第に外側に広がってゆく(図1)。苗床のあちらこちらで発生が始まると、発病部が互いに融合して不規則な大形の被害部をつくる。生存苗も著しい成長不良を起こし、得苗率は極端に低下し被害は甚だしい。
くもの巣病の特徴は土壌中の病原菌が、暗黒過湿の条件下で地上に這い上がってきて菌糸が苗木にくもの巣状に絡みついて被害を起こすことである(図2、図3)。したがって、苗が成長して、あるいは厚播きによる密生のため、床面が覆い隠されるようになると、発生条件が整うので注意が必要である。毎朝、苗を手でかき分けて下葉の異常の有無を確認し、少しでも発生を認めたら、薬剤による防除を行う。なお、本病は苗木ばかりでなく、植栽若木にも発生することがある。
本病の特徴の一つは、緑色茎枝葉に絡みつく淡灰褐色の菌糸であるが、大きな苗木や若木に発生した場合、罹病部の茎枝葉が白色粉状を呈することがある。これは、本病菌の有性胞子(担子胞子)が形成されたもので、この胞子は風にのって伝播する。
病原菌はRhizoctonia solani Kühn(菌糸融合群AG-1、培養型IAまたはIB )である。(Rhizoctonia solani Kühnは、対峙培養時の菌糸融合の有無によりAG (Anastomosis Group) 1~13に,培地上の菌叢形態によりIA~V群に分類される。)苗立枯病をおこすリゾクトニア菌も Rhizoctonia solaniであるが、くもの巣病とは菌糸(菌糸融合群と培養群)が異なる。すなわち、苗立枯病をおこすリゾクトニア菌は土壌中に生息し、主として根腐れを起こし、菌糸融合群AG-4、培養型IIIAに所属し、ふつう有性世代をつくらない。これに反し、くもの巣病を起こすリゾクトニア菌は土壌から地上に這い上がってきて緑色茎枝葉を侵すもので、上記の菌糸融合群、培養型に所属し、しばしば枯死茎葉部に有性世代(Thanatephorus cucumeris (Frank) Donk)を形成し、担子胞子の飛散(風培伝染)によっても伝染する。
わが国の日本植物病理学会の病名命名規則には、本病の場合、有性胞子の形成を見た植物(宿主)では病原菌名を Thanatephorus cucumeris (Frank)Donkに、有性胞子形成未確認の植物では病原菌名を Rhizoctonia solani Kühn(菌糸融合群と培養型を記す)とすることになっている。英名はWeb blightとされる。
本病は熱帯・亜熱帯地域から温帯にかけて様々な植物上に発生する多犯性の病気で、各種農作目や園芸作物をはじめ、果樹や永年性工芸作物(特用樹)、林木、緑化樹などの苗木に発生して被害を起こす。一般には木本・草本植物ともにくもの巣病の病名が用いられているが、一部の草本作物では葉腐病や茎腐病などの異なる病名が用いられる。
熱帯・亜熱帯地域の林業用樹種では、特にシタン(Dalbergia cochinchinensis)、シッソノキ(D. sissoo)、ジャイアントイピルイピル(Leucaena leucocephala)、モルッカネム(Paraserianthes falcataria)、フサマメノキ(Parkia roxburghii, syn. P. javanica))、インドシタン(Pterocarpus indicus)、ビルマカリン(P. macrocarpus)、などのマメ科樹木、マツ(Pinus spp.)、ユーカリ(Eucalyptus spp.)などの苗木によく発生する。