コーラナッツ由来のカフェイン

原料となる植物

学名
Cola nitida (Vent.) Schott & Endl.
Cola acuminata (P. Beauv.) Schott & Endl.
(以下、それぞれC. nitidaC. acuminataと省略するが、両樹種に共通する内容については「コラノキ」、それらの種子については「コーラナッツ」と記述する。)
一般名
コラノキ、コーラナッツ、Kola nuts、Bissy nut、Guru nut
樹種概要

コラ属は125種ほど存在し、中程度の樹高を持つ常緑樹である。その種子、コーラナッツは、アルカロイドの一種であるカフェインやテオブロミンを豊富に含有する。とくに、C. acuminataおよびC. nitidaの2種はカフェインを多く含むため着目されている。
コラノキは主に西アフリカ・中部アフリカの低地林にみられるが、より乾燥した東アフリカの森林でも生育する。このほか、アフリカ大陸から種が持ち出された結果、中南米大陸や西インド諸島、モーリシャスやマレーシアでも見られる。C. acuminataは、ナイジェリアからアンゴラ北部にかけての高温多湿の地域が原産地とされており、セネガル、ギニア、リベリア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア西部にかけて広く栽培されている。C. nitidaは、アフリカ西海岸のシエラレオネからベニンが原産地であるが、ナイジェリアからカメルーン、コンゴ、そして西アフリカのセネガルでも栽培されている。また、両樹種が同じ地域に生育している場合は、栽培を通して、両樹種の近縁種morphological intermediatesが存在する。

一般に種子繁殖が行われるが、発芽は遅く、発芽までC. acuminataは60日、C. nitidaは最大80日かかる。C.nitidaの果実は星状の5つの蒴(サク)から構成されており、蒴の大きさは長さ13cm、幅7cm程度で、各蒴に4~8個程度の赤または白色のナッツ(2.5cm程度の楕円形)が入っている。

両樹種とも西アフリカ・中部アフリカでは栽培が容易であり、他のプランテーション作物と比較して害虫や病気に強い。とくに、コラノキはカカオの日陰樹として混植される。ナイジェリア南部、カメルーン、ガーナではカカオ等と混植して栽培されているケースが多い。
コラノキは、二次林にもよくみられ、天然更新されたものが農民によって保全されている。西アフリカおよび中部アフリカの広範な地域において、森林内や農地でコラノキを切らずに手入れしてきたという事実は、森林周辺に住む人々にとって、食料源・収入源としての重要性、さらには社会的あるいは、宗教上の重要性を示唆する。

栽培の歴史が長いため、野生種の過剰な伐採の恐れはほとんどないが、野生種の分布およびその遺伝的多様性は森林面積の減少や資源保有の不確実性などにより危険に晒されている。

産品の特徴

用途
嗜好品、医薬品・医薬部外品の原料等
産地
セネガル、ギニア、リベリア、コートジボワール、ガーナ、ナイジェリア西部、カメルーン、コンゴ、セネガル、中南米大陸、西インド諸島、モーリシャス、マレーシア等
産品概要

カフェインを含む製品

コーラナッツは、生果で18~25%、乾果でココアの3倍の量に相当する約47%のでんぷん、0.6~3.0%のカフェインや0.1%以下のテオブロミンを含有するため、調剤の際にアルカロイドの原料として使われる。とくに、カフェインはカカオやコーヒーよりも含有量が多く、効率的な天然カフェインの原料として着目されている。コーラナッツに含まれる無機栄養素はほぼ同じであるが、C. nitidaは遊離糖類、脂質、たんぱく質の濃度が高い。
カフェインやテオブロミン等の成分により口内をリフレッシュすることができるため、医薬品・医薬部外品の分野では口臭抑制や唾液分泌促進を目的に、コーラナッツの粉末やその抽出物を添加した歯磨き粉や口臭抑制剤等の製品が開発されている。さらに、セルライトを減らすことを目的としたコーラナッツの成分を添加したクリーム状のダイエット製品や、持久力向上のための天然カフェインとしてコーラナッツエキスをブレンドしたサプリメント等も商品開発されている。
飲食用には、コーラナッツエキスを使用した炭酸飲料コーラが日本国内外で販売されているほか、コーラナッツのカフェイン入りチョコレートも販売されている。そのほか、コーラナッツパウダーそのものも流通している。

コーラナッツは、ガムのように噛んだり、粉末を煮出して飲んだりなどもする。強力な興奮誘発剤として喉の渇きや空腹を抑えるとともに、知的活動を高めることができると現地では信じられている。一方、コーラナッツを噛む習慣のある地域では口腔がんや胃腸のがんが多いことから、コーラナッツの成分の口内での化学変化に関する研究がすすめられている。また、コーラナッツは胃酸分泌を著しく増加させることから、消化性潰瘍の症状がある場合には摂取を避けることが推奨されている。

C. acuminateのナッツの抽出物は、前立腺がんや乳がんの治療薬としての有効性、抗微生物薬、スポーツドリンク等栄養補助食品としての可能性について研究がすすめられている。

収穫・取引

コーラナッツの収穫量は、C. acuminataC. nitidaのいずれも固体ごとに大きく異なるが、年平均収穫量は1本あたり300個程度と推計される。収穫は樹齢70年生頃まで、あるいは100年生頃まで可能である。コーラナッツの収穫は、ナイジェリアでは9月から1月にかけて行われ、11月から12月に最も生産量が多くなる。収穫には、蒴が開く前に長い柄に取り付けられたナイフを使って木から直接収穫するか、地面に落ちたものを拾い集める方法がとられる。

地元の人々にとって、コラノキは、森林内のものも農地のものも誰でも自由に利用できるオープンアクセスの資源となっている。ガーナでは、誰もが地主や小作人の許可を得ずとも農園に入って木の下に落ちたコーラナッツを拾うことができる。
コーラナッツの収穫は、西アフリカおよび中部アフリカのほとんどの地域で女性と子供の役割である。カメルーンでは収穫・販売主体の94%が女性となっている。1983年の調査によると、カメルーン南西部ではコーラナッツにより得られる収入はコーヒーからの収入よりも多く、家計の現金収入の5~37%を占めていた。ナイジェリア西部でも同様に、コーラナッツの収穫および販売は女性の重要な収入源となっている。
西アフリカ・中部アフリカでは他の大部分の非木材林産物と同様、コーラナッツも通常はインフォーマルな取引の対象であり、買手と売手の相互の知識や考えをよりどころに、口頭での合意に基づいて、カップやボウルなどの少量単位で取引される。

交易の歴史

コーラナッツは、数世紀にわたり西アフリカのサバンナ地帯やサヘル地域に住むイスラム教徒のあいだで需要が高い交易品であった。イスラム教徒にとって唯一使用を許された刺激物がコーラナッツであったためさかんに取引され、現在でも眠気覚まし等のため男女の別なく日常的に用いられている。ただし、生産地である西アフリカおよび中部アフリカの森林地帯では、コーラナッツは日常的に口にするものではない。また、結婚式や子供の命名式、葬式等の儀式にもコーラナッツは欠かせないものでもあった。C. acuminataは、西アフリカ、中部アフリカにおいて、子供の誕生の際や墓所に植えるなど儀式と密接なつながりをもつ存在であった。

ヨーロッパや北米へのコーラナッツの輸出の歴史も古く、19世紀後半には強壮剤として注目された。また、コーラナッツのエキスを添加した飲料が欧米諸国で種々考案されてきたが、それらのうちコカコーラは世界中で飲用されるまでになった。ただし、コカコーラの原料は現在、企業秘密となっており、コーラナッツの成分に代えて人工の物質が使われていると言われる。

20世紀はじめになると、コーラナッツのプランテーションが南米・中米、西インド諸島、スリランカ、マレーシアに至るまで世界各地で造成されるようになり、それ以後、西アフリカ・中部アフリカからその他地域への輸出量はかつてほどの水準ではなくなった。

ガーナにおけるコーラナッツの生産・交易

ガーナにおいては、カカオおよびコーラナッツの栽培はサバンナ地帯からの移民労働者によって支えられてきた。移民労働者はガーナの基幹産業となったカカオの生産に従事する傍らコーラナッツの栽培も行い、収穫したコーラナッツを故郷サバンナ地帯出身の商人に販売した。コーラナッツはサバンナ地帯に輸送され、そこで消費されてきた。かつては森林地帯の人々がサバンナ地帯の人々を奴隷として売る「奴隷狩り」の時代があったが、現在ではカカオおよびコーラナッツの生産を通して築かれた信頼関係により、サバンナ地帯からの移民労働者と森林地帯の人々のあいだに大きな衝突はみられないと言われている。

近年の生産・取引の状況

コーラナッツはこれまで村人にとって重要な収入源であったにもかかわらず、西アフリカ・中部アフリカの生産国レベルでの生産量や貿易量等の信頼できる統計は入手困難である。生産量、貿易量の統計に関しては、実際との乖離が指摘されているが、1982年のFAOのレポートによれば、生産についてはその過半がナイジェリアに集中しており、輸出量は生産量の3分の1程度と推定されている。なお、これらの輸出向けのコーラナッツは、欧米諸国でのコーラ飲料の香料や製薬の原料として需要があった。
近年、国際的に取引されているのはカフェインの含有量が多い C. nitidaで、C. acuminataは地域での取引が主体となっている。また、生のナッツが出回っているのは国内または西アフリカの近隣国のみである。

今後の展開

土地保有をめぐる問題や、コラノキへのアクセス権問題が、コーラナッツの持続可能な管理をめぐる主要な問題と考えられている。たとえば、カメルーンでは農民の多くが借地において農業を営んでいるが、土地の借用期間終了と同時に植栽した樹木の所有権も失う場合には、短期間で収益を上げなければならない農民にとって、コラノキの様な成長が遅い樹木の栽培は合理的な選択ではない。
コーラナッツに関連する産品の輸出に関しても、課題が指摘されている。コーラナッツ産品を輸出する場合、未加工のまま生でナッツを輸出するほか、乾燥または粉末状に加工して輸出される。ナイジェリアの場合、こうした加工に必要なナッツを貯蔵する倉庫が村に不足しており、乾燥機の運転や倉庫の維持のための電気の供給不足も課題となっている。さらに、ナッツ保管の際の害虫や病気の被害を抑えるため、栽培時においても安全性の高い農薬の使用が必要とされている。また、輸出振興のためには、ナッツの大きさや色などにより等級を設定し、標準化された等級に基づいて価格設定を行う必要も指摘されている。農民の生産意欲が向上するよう、加工技術の開発、適切な品質管理・貯蔵の実施を含め、持続可能な収穫を可能とするような土地保有制度の見直しが求められる。

このほか、コラノキが分布する森林が焼畑によって減少していることも問題となっている。また、ナイジェリアで生産されたコーラナッツの一部が輸送時に略奪され近隣諸国に密輸されている事態も、産出国であるナイジェリアが直面している主要な問題の一つとなっている。この様に克服すべき課題は多いが、アフリカ以外にも市場を拡大する可能性は十分にあると考えられている。

参考情報