蜜蝋

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蜂蜜が入った状態の巣(養蜂の場合は巣碑)。巣から蜂蜜を取り出した残りを湯煎して固めたものを蜜蝋と呼ぶ。

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蜜蝋は湯煎して不純物が取り除かれる。一次精製した蜜蝋(左)と二次精製した蜜蝋(右)(モザンビーク)。

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アフリカで用いられる幹を用いた伝統式養蜂箱(セネガル)。アフリカのミツバチは狂暴でうかつに巣箱に近寄れない。

原料を生産する昆虫

学名
A. m. adansoniiA. m. scutellata.
一般名
アフリカに生息するセイヨウミツバチ
昆虫について

ミツバチ属(Apis spp.)は、セイヨウミツバチ(A. mellifera)、トウヨウミツバチ(A. serana)、オオミツバチ(A. dorsata)、ヒマラヤオオミツバチ(A. laboriosa)、コミツバチ(A. florea)、クロコミツバチ(A. andreniformis)、サバミツバチ(A. koschevnikovi)、クロオビツミツバチ(A. nigrocincta)、キナバルヤマミツバチ(A. nuluensis)の9種が生息している。セイヨウミツバチには、ヨーロッパ、アフリカ、アジアに生息しており、少なくとも28種の亜種がこれまで確認されており、アフリカ起源ものは11亜種確認されている。その主なものには、西アフリカのギニア湾沿いの国、セネガル、ブルキナファソ、ナイジェリア、カメルーン、ガボン等に生息するA. m. adansoniiと、東アフリカや南アフリカに生息するA. m. scutellata等がある。A. m. scutellataとヨーロッパ原産のA. m. ligusticaA. m. iberiensisとの交雑種はアフリカナイズドミツバチと呼ばれ、南アメリカ等では養蜂に用いられている。アフリカに生息するA. m. adansoniiA. m. scutellataは優れた防衛本能と生存能力を持っており、攻撃性が極めて強い。アフリカでは、元々、養蜂の習慣がなく基本的に自然巣からの採取であったため、これらのミツバチの品種改良がなされていなかった。現在では、アフリカでも養蜂が浸透しつつあるが、これらの狂暴な品種をほぼそのまま用いているため死亡事故も多発しており、養蜂作業には日本のものより厳重な防具装備が必須である。

産品の特徴

用途
以下のような製品のコーティング剤等として添加される。
化粧品(クリーム、口紅、アイシャドウ)、食品(天板油、和・洋菓子の離型剤)、軟膏、印刷インク、CD、皮革
産地
アフリカの蜂蜜を生産する国々(アフリカの蜜蝋生産量上位3位はエチオピア、アンゴラ、ケニア(FAOSTATより))
産品概要

蜜蝋はミツバチが巣を作る際に腹部腹板にある蝋腺という器官から分泌する天然蝋で、ミツバチの巣を加熱・融解して得られる。主成分はロウエステルで比較的軟らかく可塑性を持つ。蜜蝋は蝋燭やクレヨンだけでなく、私たちの身の回りにある様々な製品のコーティング剤として用いられている。日本でと取り扱われる大部分の蜜蝋は、生産国で2,3回精製してから輸入され、日本の蜜蝋メーカが匂いや色を除去するための特別な機械を用いて最終精製しペレットにしてから化粧品・薬剤会社に販売される。現時点では化学合成品では代替が難しく、今後も一定の需要量が見込める産品である。

アフリカのセイヨウミツバチ(A.mellifera spp.)が着目

アフリカ各国からは、主にA. m. adansonii由来の蜜蝋が主に輸出されている。A. m. adansonii由来の蜜蝋は、その他のアフリカ産や欧州産(A.mellifera spp.)のものと酷似している。一方で、アジア系のミツバチ(A. dorsataA. floraeA. cerana indica)の蜜蝋とは化学組成が大きく異なることが報告されている。具体的には、アフリカ系ミツバチは、アジア系ミツバチに比べC25化合物が少ない一方C31、C33化合物量は多い。またアジア系ミツバチの蜜蝋のモノエステル構成は欧州・アフリカ系のものより単純で、A. dorsata ではC40化合物が、A. cerana ではC40ならびにC46化合物が、また A. fiorea ではC44、C46、C48化合物が主要な構成要素となっている。またA. dorsata蜜蝋はC40からC46のヒドロキシモノエステルを比較的多く含む点で、これを微量しか含まない欧州・アフリカ系と異なっている。更に、アジア系ミツバチ、特にA. dorsataの蜜蝋は欧州・アフリカ系のものに比較し、より長鎖の炭化水素化合物が極少なく、これが炭化水素含の量が相対的に低い理由と考えられる。モノエステル含量もアジア系でより低く組成もより単純であり、このことからアジア系蜜蝋にはより多くのジエステル、ポリエステルならびにヒドロキシエステルが含まれることを示唆している。アジア系蜜蝋の遊離脂肪酸含量はその低い酸価から予想される以上に低いことから、アフリカ系ミツバチ以外の蜜蝋は脂肪酸エステルをより多く含むと推定される。これらの結果から、アジア系蜜蝋は欧州・アフリカ系のものよりも、より軟らかく可塑性が大きいと推定される。このようにアジア系ミツバチの蜜蝋は欧州・アフリカ系のものと分析結果が明瞭に異なることから、欧州・アフリカ系の蜜蝋の代替品にはならない。
 また、アフリカ産の蜜蝋は、化学構造が特異であることに加え、粗放的な農業や養蜂が行われていることが多く、農薬やホルモン剤等の不純物が混じる可能性が低いことも特徴として挙げられる。

輸出入動向と日本の需要

日本は世界第7位の蜜蝋輸入国である(700-900t/年程度)。日本の蜜蝋輸入量は、1900年が858t/年で2013年が803t/年なので、ほとんど増減はないが、世界的にみると蜜蝋の輸入量は、1990年に比べ2倍以上に増加している(図 1参照)。一方で、世界の蜜蝋生産量は、横ばい状態(図 2参照)であり、結果、日本の蜜蝋輸入単価は、2011年に469円/kgだったのが、2015年に1,096円/kgと2倍以上に跳ね上がっている。現在、我が国は主にベトナム、タンザニア、エチオピアから蜜蝋を輸入している。2011年から2015年の傾向を見ると、ベトナムやエチオピアからの輸入量は近年増加傾向でありタンザニアからのそれが減少傾向にある。

図 1 輸入量上位10国の輸入量(t)推移(出所:FAO)

図 1 輸入量上位10国の輸入量(t)推移(出所:FAO)

図 2 生産量上位10国の生産量(t)推移(出所:FAO)

図 2 生産量上位10国の生産量(t)推移(出所:FAO)

マーケットの展望

近年、我が国においてタンザニア産の蜜蝋の輸入量は減少傾向にあるが、蜜蝋輸入量合計は減少しておらず、これまでタンザニアから蜜蝋を輸入していた蜜蝋の一部が、何らかの理由でエチオピアやベトナム産のものにシフトチェンジしていることが予想される。その中でもアフリカ産蜜蝋は、アジア産蜜蝋にはない特有の性質を持つため、今後も一定した需要が望まれるだろう。また、近年、ベトナムは経済成長が目覚ましく生産者からの蜜蝋の買取り価格が上昇し蜜蝋価格が上がる可能性もある。また、主にアフリカから蜜蝋を輸入しているフランスでは蜜蝋自体の輸入量が増加傾向にある。これらのことから、今後はタンザニアやエチオピア以外のアフリカ諸国の蜜蝋の需要が伸びるかもしれない。アフリカの貧困層にとって、蜂蜜は貴重な現金収入源であり、既に国内外のマーケットに流通している一方で、蜜蝋は廃棄されている可能性が高い。FAOの統計からも蜂蜜生産量に対する蜜蝋生産量の割合が0.05以下の低い国が多々あることが分かる(表 1参照)。その原因としては、単に蜜蝋の市場価値が認知されていないことや、認知されていたとしても買い手にコンタクトする方法や加工方法が分からないことが考えられる。

表 1 アフリカの主な蜂蜜・蜜蝋生産国の蜂蜜と蜜蝋の生産量等(出所:FAOSTAT)
2014年生産量(t) 蜜蝋/蜂蜜 森林 GDP($)
蜂蜜 蜜蝋 面積
(千ha)
率(%)
1 エチオピア 45,000 4,042 0.090 12,296 11 687
2 タンザニア 30,000 1,760 0.059 33,428 38 957
3 アンゴラ 23,300 2,266 0.097 58,480 47 3,876
4 ケニア 12,00 2,468 0.206 3,467 6 1,434
5 アルジェリア 6,147 1,492 1 4,174
6 モロッコ 5,300 180 0.034 5,131 11 3,002
7 エジプト 5,100 131 0.026 70 3,710
8 チュニジア 5,100 61 0.012 1,006 6 3,923
9 マダガスカル 4,400 394 0.090 12,553 22 402
10 カメルーン 4,300 288 0.067 19,916 42 1,235
11 セネガル 3,150 156 0.050 8,473 44 913

しかし、元来、養蜂の習慣がなかったアフリカにおいて安定した蜜蝋生産を確実なものにするには多くの課題が残されている。養蜂箱ではなく、自然巣からの蜂蜜・蜜蝋の採取には、狂暴なミツバチを追いやるために火を用いることがあり、それが火災を引き起こし森林減少につながる可能性がある。森林がなくなることは蜜源植物がなくなることを意味し、蜂蜜・蜜蝋の生産にも影響を及ぼすだろう。蜜蝋の購入を検討する業者は、単に既存の蜜蝋を買い取るだけでなく、養蜂箱由来の蜜蝋だけを選別し買い取り、住民の養蜂に対するインセンティブを向上させ、養蜂を普及させ森林火災を予防していく必要があるだろう。しかし、実際、ODA事業やNGO活動等で、蜂蜜生産のために養蜂箱が地域住民に支給されたが、普及していないケースが多々見受けられる。単に養蜂箱を林内に置いて待つだけでは、想定した量の蜂蜜・蜜蝋は生産できない。今後は、地域毎の環境に適した養蜂箱の支給だけでなく、養蜂の技術移転や蜂蜜・蜜蝋のマーケットや流通システムの構築が望まれる。

参考情報

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