Japan International Forestry Promotion and Cooperation Center
樹種別掲載文献検索リストの作成


1. はじめに
 近年,地球的規模の環境保全の必要性に対する認識の高まりに伴い,地球温暖化防止や生物多様性の保全等の新たなキーワードが森林保全・復旧協力活動に盛り込まれ,活動の目的やその手法も多様化してきていまする。
 それら新たに出てきたキーワードに対応した的確な活動を行っていくためには,正確な知識と確かな技術に基づいた計画策定,事業実施が求められます。植栽樹種の選択に限っても,これまでの森林造成活動に用いられてきた樹種である材木としての価値の高い樹種のみならず,材木自体は経済的な価値が低くても,炭素固定の上で優秀な樹木であったり,生物多様性の保全・回復の上で重要であったり,地域住民の生計の維持・向上の上で有益であったりする樹木が,今後更に植栽候補樹種として選択されていく可能性・必要性が高まってきています。
 しかしながら,それらの樹種に関する情報は材木生産上有用な樹種に比して,極端に情報が限られており,たとえ研究事例等の情報があったとしても,それらの情報を検索,入手するのに多大な時間・労力をかけなければならないのが実情です。そのことも一因となって,樹種選択の幅が狭まり,理想としていた計画に対し妥協点を見いださなければならなくなった事例も数多く見られます。

2. データベースの作成・改訂
 これらの活動に必要な情報提供の手段として,国際緑化推進センターでは2000年3月に,斉藤昌宏氏によって取りまとめられた「熱帯樹種を主とした造林技術のデータベース」を,「熱帯林業」の別冊として発行しました。このデータベースは,国際緑化推進センターが1996,1997年にかけて発行した「熱帯林造成技術テキスト」シリーズの「熱帯樹種の造林特性 第1~3巻」の執筆,編集に当たり斉藤氏が収集・分析された文献を基に作成されたものであり,2,000種を超える樹種の掲載文献が明記されるとともに,各文献の情報掲載の特徴について概説がなされています。
 しかしながら,このデータベースは,「熱帯林業」の別冊として印刷物として情報が表として取りまとめられたものであり,活用方法の拡張性には限界があります。
 また,上記データベースの編纂から10余年が経過しており,既に入手が不可能となった文献があるとともに,新たな知見を基に発表された文献も出てきています。
 このようなことから,今回,将来の拡張性も念頭に置き,表計算ソフトを活用してデータベースを改訂し,国内外で森林保全・造成活動を実施される方々あるいはそれらの活動に必要な調査・研究を実施される方々への参考として供することとしました。
 樹種については,平成23年度末までの時点で,書籍8種18冊から6,780の学名をリストアップしています。しかし現時点では,異名(Synonym)の検証・整理は行っていません(例えばCassia siameaSenna siameaの異名ですが,リストにはそれぞれ名称を単体で掲載しています。)。この点については,今後の課題とさせていただきたいと思います。
 また,本リストは,「途上国森づくり事業」のみならず,国際緑化推進センターの各種事業の実施を通して入手した書籍・文献及びセンターの既存蔵書を基に作成しましたが,それら全ての書籍・情報を入力できておらず,まだ多量な文献が手つかずのまま残されています。これらについても,今後随時アップデートしていきたいと思います。
 以下,データベースに掲載した書籍・文献の特徴,入手方法についてのみ述べたいと思います。

3. 掲載文献とその概要

3.1 FGAEA: Field Guide to Acacias of East Africa
 東アフリカ地域(ケニア,タンザニア,ウガンダ)に分布する全62種のアカシア属が掲載されています。英名,異名,俗名が明記され,地域内の分布が図化されています。 分布や生育環境についての記述のほか,形態について,概観のみならず樹皮,棘,複葉・小葉,花序,莢果,種子,虫瘤について具体的な数値,写真も用いて述べられ,フィールドでの同定を容易にしています。上記3ヵ国における展葉・開花・結実の時期が表によって示されているのも特徴です。また,単なるフィールドガイドに留まらず,用途,薬効についても言及されています。
 Najma Dharani著,Struik Publishers発行,200ページ,2006年,ISBN-10:1770071741,ISBN-13:978-1770071742,ペーパーバック

3.2 FGASA: Field Guide to Acacias of South Africa
 南アフリカに分布する全48種のアカシア属が掲載されています。フィールドでの同定を主目的に編纂されており,英名,俗名,生育環境について記述された後,形態について,概観のほか,樹皮,枝条,棘,複葉・小葉,花序,莢果について具体的な数値と明瞭な写真を用いて述べられています。また,棘(thorn, spine, prickle)の形態を分類の重要な指標の一つとしているのが本書の特徴です。
 Nico Smit著,Briza Pubns発行,128ページ,2012年,ISBN-10:1875093923,ISBN-13:978-1875093922,ペーパーバック

3.3 FGFTNT: A Field Guide to Forest Trees of Northern Thailand
 タイ北部に自生する樹木の約75%とされる880種が掲載されており,そのうち430種の形態について,現場において樹種同定に必要な情報が述べられています。開花期,結実期が月別の表にまとめられ,分布域(標高),生育環境(乾燥~湿潤)がイメージ図で示されています。写真もふんだんに使われ,視覚的に樹種同定を行うことを助けています。
 Simon Gardner, Pindar Sidisunthorn, Vilaiwan Anusarnsunthorn著,Asia Books発行,545ページ,2000年,ISBN 9747799014,ペーパーバック

3.4 FMD: Foresters' Manual of Dipterocarps
 オリジナルのForesters' Manual of Dipterocarpsは,1941年にCF Symingtonの手により著され,1943年にMalayan Forest Recordsシリーズの第 16号として発行されました。現在発行されている版は,その後に得られた知見に基づき,PS AshtonとS Appanahによって2004年に改訂がなされたものです。 半島マレーシアに分布するフタバガキ科,9属162種が掲載されています。 先ず巻頭において,フタバガキ科の起源(地理学上の歴史)及び世界的な分布,マレー半島における生態学的分布,フタバガキ科の特徴,IUCNによって絶滅危惧あるいは絶滅に瀕した種とされる基準について解説されています。その後,グループ毎に生物学的・生態学的特徴について述べられた後,個々の種について,俗名,分布,形態,造林法,経済的価値について記載されています。なお分布については,半島マレーシアにおける自生地が簡略な図で示されています。
 CF Symington, PS Ashton, S Appanah著,Malaysian Nature Society発行,519ページ,2004年(200年再版),ISBN:9832883008

3.5 PROSEA: Plant Resources of South-East Asia
 Plant Resources of South-East Asia (PROSEA)は,東南アジアにおける植物資源に関する情報を文書化し,エンドユーザーのみならず,研究,普及,教育活動に広く資することを主目標として開始された国際協力プログラムです。 この主目標は改訂され,現在PROSEAは,地域社会の生計の維持・向上のために東南アジア地域の植物資源の持続可能な利用を促進するための主要組織として機能するという将来展望を持っています。 上記目的から,地域社会に役立つ様々な植物が巻に分けられ掲載されており,樹木に関しても,商用木材のみならず,果樹,籐,竹,薬用植物や,染料,香辛料,精油を産する植物がそれぞれ該当する巻に掲載されています。 基本的に,異名(Synonyms),俗名(Vernacular name),分布,用途,形態について記載されており,主要な植物については複数ページにわたり,通称名,起源及び地理的分布,用途,生産及び国際的取引の状況,形態,材質,解剖学的特性,生長,生態,繁殖及び植栽方法,育林手法,病害虫,収穫時期及び収量,遺伝資源としての価値や将来展望について詳細に述べられた後,主要な参考文献が紹介されています。 現在,計24巻が発行されており,インドネシア,マレーシア,フィリピン,タイ,ベトナムに開設された各国のCountry Officeでも購入が可能です。なお,当初はPROSEA Foundationから直接発行されていましたが,在庫が払拭した巻についてはBackhuys Publishersから再版がなされ入手が可能です。 また,このPROSEAシリーズは,インターネット上で電子版による情報提供が行われています。ユーザーは,学名,俗名あるいは任意の文字列を入力することにより,該当する植物情報を閲覧することが可能です。 http://proseanet.org/prosea/e-prosea.php

 1) PROSEA 5(1) : Timber trees : Major commercial timbers
 この巻では,南東アジアに産する最も重要な材木を取り扱われています。 メランティ,バラウ,クルイン,カプール,ホワイト・セラヤ,メルサワ,メルバウ,セペティア,チーク,パイン,マホガニー,ニヤトーという商業名で取引される樹木をはじめ,材木業界で流通している55の木材グループが網羅されています。
 Soerjanegara & R.H.M.J. Lemmens編,Backhuys Publishers発行,615ページ,1994年,ISBN-10:9022010333,ISBN-13:978-9022010334,ハードカバー

 2) PROSEA 5(2) : Timber trees : Minor commercial timbers
 この巻では,現時点では流通量の少ない樹種のうち,特定の樹種について,特にその材質及び用途について最新の情報が掲載されています。取り扱われている木材グループには,アカシア類,黒檀類,ジェルトン,ケドンドング,メダン等が含まれています。
 R.H.M.J. Lemmens, I. Soerjanegara, W.C. Wong編,Backhuys Publishers発行,655ページ,1995年,ISBN-10: 9073348447,ISBN-13: 978-9073348448,ハードカバー

 3) PROSEA 5(3) : Timber trees : Lesser-known timbers
 この巻では,流通量のごく少ない樹種を扱っており,この巻をもって建築用材等に使用される樹木を扱ったシリーズ三部作が完結しています。この巻で扱われている樹種群は,熱帯林の持続的な管理及び造林対象樹種としての可能性により重要性が高まっていることから注視に値すると,解説文では述べられています。取り扱われている木材グループには,アゴホ(モクマオウ),LIlin,アンチアリス,クワ類,カエデ類,テンピニス等が含まれています。
 M.S.M. Sosef, L.T.Hong, S. Prawirohatmodjo編,Backhuys Publishers発行,859ページ,1998年,ISBN-10: 9073348889,ISBN-13: 978-9073348882,ハードカバー

3.6 PSA: Plants of Southeast Asia
 Plants of South East Asiaは,インターネットのウェブサイト上で提供されている情報です。平成24年3月末時点で,353属1,050種が掲載されています。残念ながら現時点では,掲載樹種に偏りが見られ,東南アジアに産する全ての樹種を網羅しているものではありません。それらについては今後適宜情報が追加されるとされています。基本情報として,異名,俗名,樹木の概観,生態,分布,用途が記載されています。また,生態写真も掲載されており,現時点で写真が存在しない樹種については乾燥標本の写真により補完されています。なお,この情報提供サイトの特筆すべき点は,異名(Synonym)検索のためのツールが含まれていることであり,分類体系の変更による学名の変化をフォローすることが可能です。
 http://www.asianplant.net/

3.7 SIT: The Silviculture of Indian Trees
 The Silviculture of Indian Treesは,Robert Scott Troupの1897年から1920年のインド(イギリス統治下のインド)滞在中の,帝国森林局の森林管理官としての経験,帝国森林研究所及びDehra Dun大学での森林経済学者としての経験等を基に編纂されたものであり,1921年にOxford大学出版会から発行されました。現在はインドのNatraj Publishersから発行されています。 本書では,イギリス統治下のインド(今日のミャンマー,パキスタン,バングラデシュを含んだ地域)において,植林対象木として可能性のある有用樹木の造林・育林法が述べられています。樹種により記載の精粗は様々ですが,当時の主要造林樹種については,その研究・造林実績を基にした詳細なデータが記載されています。著されてから1世紀近くになりますが,生育特性等のデータは時代を超え普遍的なものであり,本著に収録されたデータ量から評価すると,現在においても貴重な文献資料です。 なお,2000年に「熱帯林業」の部冊として発表された,斉藤昌宏氏の「熱帯樹種を主とした造林技術のデータベース」でも指摘されていますが,樹種の掲載は当時の分類体系に基づくものであり,現在は分類体系の見直しにより,学名が変更されているものも見られます。活用するに当たってはこの点には注意する必要があります。
 R. S. Troup著,Natraj Publishers発行,1,195ページ(3巻の合計),2011年,ISBN-10: 8181580702,ISBN-13: 978-8181580702,ハードカバー,3巻セットでの販売

 1) The Silviculture of Indian Trees, Volume I
 ビワモドキ科,モクレン科,バンレイシ科,フウチョウソウ科,ベニノキ科,ギョリュウ科,オトギリソウ科,モッコク科,フタバガキ科,アオイ科,アオギリ科,シナノキ科,ミカン科,ニガキ科,カンラン科,センダン科,モチノキ科(Ilicineaeとして掲載),クロウメモドキ科,ムクロジ科,ウルシ科,ワサビノキ科,マメ科コチョウ亜科(現在はマメ科として統一)の計22科123種が掲載されています。

 2) The Silviculture of Indian Trees, Volume II
 マメ科(ジャケツイバラ亜科,ネムノキ亜科),バラ科,マンサク科,ヒルギ科,シクンシ科,フトモモ科,ミソハギ科,サミダセア科,ダティスカ科,サボテン科,アカネ科,ツツジ科,ヤブコウジ科,アカテツ科,カキノキ科,モクセイ科,サルウァドラ科,キョウチクトウ科,ガガイモ科,マチン科,ムラサキ科,ノウゼンカズラ科,キツネノマゴ科,クマツヅラ科の計24科140種が掲載されています。

 3) The Silviculture of Indian Trees, Volume III
 クスノキ科,ヤマモガシ科,ジンチョウゲ科,オオバヤドリギ科,ビャクダン科,トウダイグサ科,ニレ科,クワ科,スズカケノキ科,クルミ科,モクマオウ科,カバノキ科,ブナ科,ヤナギ科,ヤシ科,イネ科タケ連,球果植物類(マツ科,ヒノキ科,マキ科,イチイ科)の計20科82種が掲載されています。

3.8 TFSS: Tree Flora of Sabah and Sarawak
 Tree Flora of Sabah and Sarawakの編纂作業は,マレーシア森林研究所(FRIM),サバ林業局,サラワク林業局及び他の研究所や大学との共同プロジェクトとして,1991に開始されたもので,書籍としては全8巻の刊行を予定しています。平成23年3月末時点で7巻までが刊行済みです。各巻では,基本的に,形態的特徴,俗名,分布について述べられ,詳細が判明している樹種については,その生態,用途も記述されています。サバとサラワクの固有種の分類的位置づけを明確にすることも目的としており,それらの種の情報は貴重です。 本書は,FRIMの書籍部で購入が可能であるとともに,PDF化されたファイルを,下記マレーシア政府のウェブサイトで閲覧することも可能です。
 http://www.chm.frim.gov.my/Resources/Publications/Books/Floras/Tree-Flora-of-Sabah-and-Sarawak.aspx

 1) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 1
 この第1巻では,カエデ科,ウリノキ科,アニソフィレア科,ナンヨウスギ科,ノウゼンカズラ科,カンラン科,フウチョウソウ科,ニシキギ科,クリソバラヌス科,リョウブ科,マメモドキ科,ミズキ科,ダティスタ科,クサトベラ科,オトギリソウ科,シキミ科,クルミ科,モニミア科,ヌマミズキ科,オクナ科,ボロボロノキ科,カタバミ科,トベラ科,クロウメモドキ科,ヒルギ科,ミカン科,ニガキ科,ハマザクロ科,ミツバウツギ科,エゴノキ科,トリゴニア科の計31科122属395種(亜種品種,変種等をカウントせず)が掲載されています。
  E Soepadmo, KM Wong編,513ページ,1995年(2006年再版),ISBN:9839592343,ハードカバー

 2) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 2
 この第2巻では,ウルシ科,ムラサキ科,スイカズラ科,モクマオウ科,センリョウ科,クリプテロニア科,クテノロフォン科,ユズリハ科,エバクリス科,コカノキ科,イクソナンテス科,ウドノキ科,マチン科,ミソハギ科,アオイ科,ヤマモモ科,オシロイバナ科,ビャクダン科,ムクロジ科,カミニンギョウ科,テトラメリスタ科,ニレ科,シキミモドキ科の計23科95属337種(亜種品種,変種等をカウントせず)が掲載されています。
 E Soepadmo, KM Wong, LG Saw編,443ページ,1996年,ISBN:9839592564,ハードカバー

 3) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 3
 この第3巻では,ブナ科,マメ科,クワ科,ニクズク科の計4科431種が掲載されています。
 E Soepadmo, LG Saw編,511ページ,2000年,ISBN:9832181062、ハードカバー

 4) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 4
 この第4巻では,モチノキ科,カキノキ科,サガリバナ科,モクセイ科,ヤマモガシ科,アカテツ科の計6科24属321種が掲載されています。
 E Soepadmo, LG Saw, RCK Chung編,388ページ,2002年(2007年再版),ISBN:9832181275,ハードカバー

 5) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 5
 この第5巻では,キョウチクトウ科,フタバガキ科,ハイノキ科,ジンチョウゲ科の計4科28属373種が掲載されています。
 E Soepadmo, LG Saw, RCK Chung編,528ページ,2004年,ISBN:9832181593,ハードカバー

 6) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 6
 この第6巻では,クノニア科,ハスノハギリ科,センダン科,ヒメハギ科の計4科18属180種が掲載されています。
 E Soepadmo, LG Saw, RCK Chung, R Kiew編,335ページ,2007年,ISBN-13:9789832181897,ハードカバー

 7) Tree Flora of Sabah and Sarawak, Volume 7
 この第7巻では,シソ科,フトモモ科,アオギリ科の計3科31属313種が掲載されています。
 E Soepadmo, LG Saw, Chung RCK, R Kiew編,450ページ,2011年,ISBN-13:9789675221446,ハードカバー

3.9 UTSK: Useful Trees and Shrubs for Kenya, Technical Handbook No. 35
 形態,生態,用途,繁殖方法,種子の発芽処理法・貯蔵法,育成管理法の他,注記として使用部位(果実等)の特性等について詳述されています。 民族毎の呼び名に対応する樹種の学名が 巻末には木材,食料(果実,葉,花,薬用等),飼料,蜜源,環境(防風,緑陰,土壌保全等),他用途への適応の可否が樹種毎に一覧表としてまとめられています。
 Patric Maundu, Bo Tengnas編,World Agroforestry Center – Eastern and Central Africa Regional Programme.484ページ,2005年,ISBN:9966-896-70-8

4. 樹種別掲載文献リスト